石垣島で迎える5度目の朝。カーテンを開け外を見てみれば、青空をうっすら染める淡い雲。風に流れゆく儚い白さをぼんやり眺め、ゆとりある朝という旅先ならではの贅沢を愉しみます。
今日は終日石垣島で過ごす予定。船の時間を気にすることもないため、ゆっくりと朝ごはんを味わいます。
ゴーヤーチャンプルーは程よく感じる爽やかな苦みとシャキシャキ感が心地よく、ラフテーは豚皮のプルンとしたコラーゲン感が堪りません。そして白いご飯にたっぷり載せた、大好物のもずくのり。更にはしっかりとじゅーしーまでおかわりし、今朝も満腹になってしまったことは言うまでもありません。
部屋で重たいお腹を落ち着け、バスの時間に合わせてホテルを出発。ターミナルから『東運輸』の10系統に乗り、今日の青さの舞台である真栄里ビーチへと向かいます。
今日も人が少なくて静かだな。なんて遠目で感じつつ歩いてゆくと、砂浜一面に残るキャタピラーの跡。ここは人工ビーチのため、これから迎える繁忙期に備え新しい砂を補充する作業の真っ最中。
そういえば、いつも八重山に来るのは7月頭。すっかり整備された後の様子しか知りませんでしたが、我々が毎年八重山の夏を楽しめるのは、暑い最中なにこうした準備をしてくれているからこそ。一観光客として、感謝せざるを得ません。
背後に重機の音といういつもとは違った雰囲気の中揺蕩う、真栄里の海。しかしその透明度はこの通りで、ここが市街地のすぐ近くに位置しているということすら忘れてしまいそう。
砂と一緒に運ばれてきたのか、今日はいつも以上にビーチを歩くたくさんのヤドカリの姿が。あちこちに散らばる石に集まり、不慣れな土地で一所懸命に新たな住処を探しているかのよう。
ビーチを歩けば、何気なくごろんと落ちている大きな珊瑚。どこを見ても、一瞬一瞬が非日常的。だからこそ、飽きもせず毎日こうして海辺でぼんやりしていたい。
青い空に薄い雲、その色合いを映す海はマリンブルー。天候や陽射しの加減で、刻一刻と色味を変える海。鮮烈な青さもさることながら、穏やかさを秘めた今日の青さもまた美しい。
市街地にありながら、八重山の青さを思い切り楽しめる真栄里ビーチ。砂浜に寝転がったり波に漂ったりと過ごしていたら、あっという間にもうお昼の時間。お腹もすいたので、ビーチに別れを告げ近くの『ふるさと食堂』にお邪魔します。
この旅2度目となるふるさと食堂。前回はカレーとそばのセットを頼んだので、今回は気になっていたゆし豆腐アーサそばを注文します。
オリオンの冷たさを喉に感じつつ待つことしばし、お待ちかねの丼が到着。その瞬間、鼻をくすぐる海の香り。決して磯臭いわけではなく、それでいて八重山の海を感じさせるアーサの香り。もう食べる前から、旨いに決まっています。
まずはたっぷりのアーサが浮いたおつゆから。ただでさえ美味しい八重山そばのだしに、一層の旨味とちょっとした塩味を加えるアーサの存在感。とろりとした見た目とは裏腹に噛めばしゃっきりとした海藻の歯触りを感じられ、穏やかな海の香りが口から鼻へと抜けてゆきます。
続いては、純白の美しい見た目をしたゆし豆腐をおつゆと共に。固める前の島豆腐は、驚くほどに食感なめらか。よく知る本州の寄せ豆腐のような水っぽさは全くなく、柔らかさの中にもしっかり感じる島豆腐の豆の濃さ。その風味をアーサの塩分が引き立て、豆腐を掬う手がもう止まらない。
食べる前は、ゆし豆腐が全体を薄めてしまうのではと思っていました。が、実際はその真逆。海の気配の詰まったアーサと優しいゆし豆腐の組み合わせが生む、想像以上の相乗効果。そばを手繰るのも忘れてしまいそうになる相性の良さを、一滴残さず全て味わい尽くすのでした。
いやぁ、ふるさと食堂は今年も旨かった。そんな満足感に包まれつつバス停目指し歩いていると、何やら飾りつけされたような廃自転車が。何だこれ?と近寄ってみると、緑にオレンジ、赤色の実がたくさん連なっています。
後で調べてみると、オキナワスズメウリという植物なのだそう。朽ちゆく人工物と強烈な自然の色彩との対比に宿る、得も言われぬ退廃美。南国の植物は、廃物までをも彩ってしまうのか。そこに漂う独特な世界観に、なぜだか心を奪われるのでした。
コメント