美しい菊の競演を楽しんだ後は、二本松駅から『福島交通』のバスに乗り、いざ今宵の宿のある岳温泉へ。バスの本数も結構あるので、公共交通利用者でも気軽に訪れることができます。
バスは市街地を抜け秋の山里を走り続けること25分、安達太良山に抱かれた岳温泉に到着。蔵王へのスキー旅行の帰りにトイレ休憩に入った宿で強酸性泉であることを知って以来、ずっと来てみたかった温泉場です。
岳の温泉街からちょっとだけ離れた国道沿いに立つ、今夜のお宿『宝龍荘』。道路工事の真っ最中だったので、こんなアングルになってしまいました(汗)
岳温泉は安達太良山に抱かれた高原というだけあり、麓よりもずっと気温が低く、秋のこの日も寒いと思うほど。浴衣にささっと着替え、早速焦がれ続けた温泉へと向かいます。
内湯は温泉ではありませんが、露天は正真正銘の岳温泉。樹齢2000年と言われるアラスカ檜の巨木で作られた湯船に、濁り酒を思わせる薄濁りの乳白の湯が滔々と掛け流されています。
PH2.5の強酸性泉ですが、安達太良山から延々8kmもの道のりを40分掛けて引き湯されているので、湯揉み去れた状態の温泉は驚くほどまろやかな浴感。酸性泉特有のちくちく刺すような感覚は全くありません。さすがは岳温泉、期待して来た甲斐があったというものです。
適温の濁り湯に浸り湯の花をもてあそぶ。秋の冷たい空気がより温泉の温かさを際立て、この時期の温泉旅の良さをしみじみと感じさせてくれるひととき。ほのかな硫黄の香りと共に、この幸せを胸いっぱいに吸い込みます。
岳の名湯にすっかり温まった体を冷やしてくれる、辛口のビール。湯上りに流し込むビールの旨さは、これに勝るものは無いかと思うほど。
湯上りの至極の余韻を楽しみつつ、ちらりと見えた安達太良山の燃えるような紅葉に想いを馳せ、のんびりと時を過ごすのでした。
本とごろ寝を楽しんでいると、夕食の時間に。天ぷら、お刺身、きのこおろし、サラダ、お鍋といった品々が並びます。中には唐揚げの酢豚風のものも。
ちょっと郷土色が薄く感じましたが、こちらのお宿はとってもリーズナブル。岳温泉の旅館はどこも結構いいお値段で、さらに一人で泊まれるのは少ししかありません。そんな中でひとり旅でお安く岳の名湯を楽しめるのですから充分です。
旅の夕餉に欠かせないのが地酒。いくつかの地酒が用意されている中で、会津地方の大七を注文。バランスの取れた美味しさは、いつ飲んでも飲み飽きません。
部屋へと戻り、お腹を落ち着けたところで再び温泉へ。ライトアップされた庭園風の露天は、夜になるとより雰囲気を増し、肌に触る木の柔らかさと岳の湯の穏やかさを静かにのんびり楽しむことができます。
そしてここからは温泉とお酒、本三昧。お隣郡山市の渡辺酒造本店が造る、特別純米辛口雪小町。お米の旨味をしっかり感じられますが、さらっとした後味によりいくら飲んでも飲み飽きないようなお酒。辛口ですが、嫌な辛さは無く、すっきり旨い、そんなお酒。
阿武隈山系の水が育む旨い酒を片手に過ごす安達太良の夜。本とお酒に飽きればささ濁りの湯に浸かる。福島の山の恵みに包まれ、穏やかな幸せを感じる夜を過ごすのでした。
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