翌朝ホテルをチェックアウトし、午前中の錦市場を散策。両側には漬物や魚、京野菜といった美味しそうなものばかり並び、あれこれ買ってしまいたい衝動に駆られます。
錦市場を抜け、新京極や河原町通をのんびり歩き、時刻はちょっと早いお昼時に。ここで相方の好物を食べに、『乙羽』へと入ります。店頭に置かれた蒸篭からは湯気がもくもく。見るからに温かそうです。
こちらが相方の好物、蒸し寿司。関東人の僕には馴染みの無い食べ物ですが、関西ではポピュラーなようです。
出てきた蒸し寿司は、器に触れないほど熱々。酢飯を加熱するとむせるのでは?と思いながらそっと一口頬張ると、嫌な酢臭さが無くむせない程度の丁度良い酢加減。寿司飯には魚をほぐしたものが混ぜられ、しっかり目に味が付けられています。
そんなご飯の上には、たっぷりのあなごと錦糸卵。蒸されているのでそれらがホックホクになり、酢飯との一体感を楽しむことができます。
初めて食べた、本場の蒸し寿司。寒い冬になると相方は蒸し寿司が食べたいと言いますが、その気持ちが何となく分かるような気がしました。熱々の蒸し寿司には、体だけでなく心までほんわかと温めてくれるような、優しい美味しさが詰まっていました。
四条河原町からバスに乗り、烏丸七条で下車。七条通をてくてく歩き、僕の大好物を目指します。その手前では、古き良き京都市電が出発していく様を見ることができました。
そしてやってきた、『梅小路蒸気機関車館』。(京都鉄道博物館としてリニューアル)実は今回が初めての訪問。SLばんえつ物語に出会うまで、蒸気機関車に全くと言って良いほど興味が無かった僕。ですがSLの力強さを知ってしまった今、とても行きたいスポットのひとつとなっていました。
資料館は重厚な造りが印象的な、旧二条駅舎。明治時代に建てられて以来、平成の世まで90年以上もの間現役でい続けた木造駅舎。こんな立派な駅舎が京都の市街地にあったなんて、現役当時を知らない僕には想像が付きません。
梅小路といえば、扇型機関庫。大正時代に建てられたというこの機関庫は、現存する最古の鉄筋コンクリートの建物だそう。機関車を上手く仕舞うために造られた扇形の形状が、建物の内部からでもはっきりと見て取れます。
ここはまさにSLのデパート状態。たくさんありすぎてどれから手を付けていいかわからず、ひとまずSLの先頭を眺められる外へと出ます。一角には煙を吐くSLの姿も。煤で燻された機関庫の壁が、より一層渋さを演出します。
黒光りするボディーに銀色のつばめが光る、C62。このSLは、東海道線の名門特急、つばめを牽引したため、スワローエンゼルと呼ばれるこのエンブレムが付けられています。
鉄道雑誌の写真でしか見たことありませんが、今は無き等級である1等「イ」の展望車を最後部に連結した長大編成をこのスワローエンゼルが輝くSLが牽引する姿は、今の鉄道には無い気品と華やかさがありました。
菊の御紋と鳳凰のエンブレムが輝くC58。菊の御紋が物語るように、お召し列車にも使用されたことのある機関車だそう。お召し列車に使われる機関車の手すりなどは真鍮製に取り替えられると以前本で読んだことがあるように、この機関車の装飾もピカピカなものになっています。
外の光を受けて鈍く光る鉄の塊。SLが鉄道の主役だった時代、こんな黒光りする鉄の巨人が1列車に対し必ず1機は必要だった訳で、日本全国数え切れないくらいのSLが走っていたことでしょう。
それが今では数えるほどしか残っていません。時代の主役を彩った役者たちが跡形も無く消えてしまう。現存するSLたちには長生きしてもらいたいものです。
ここでは、普段見ることのできない部分まで観察することができます。これは炭水車と呼ばれる、SL本体の後ろに連結されている箱の部分。上の部分に石炭を積み、今見えている底の部分の下に水が積まれます。
この炭水車が無い小型のSLもありますが、僕はやっぱりこのテンダー型が好き。大きな炭水車に山盛り石炭を積んで走る姿には、土臭い力強さがひしひしと伝わってきます。
こちらはSLの心臓部ともいえる、火室。ここに石炭をくべて火を燃やし、ボイラーで水を温めて蒸気を作ります。イベント列車の火室にはもちろん火が入っているので、こんなにじっくり中を見ることはできません。
SLはアナログな機械。火床の管理ひとつで性能が大きく左右されるようで、まんべんなく火が燃えるよう石炭をくべるための投炭訓練というものもあったそうです。レバーを引けば走り出すような今の車両には無い、生き物のような繊細さがSLにはあります。
上から眺めれば、渋く光る黒い巨体が見事に扇形に並んでいます。これほど多くのSLをいっぺんに見られるのは日本でもここだけ。単体でも十分迫力のあるSLが立ち並ぶ姿に圧倒されます。
外へ出ると、SLの中でも1番知名度があるのではないかと思われるデゴイチの1号機が、旧型客車を連結して保存されていました。
太いボイラーに4つ並んだ重たそうな動輪。やっぱりデゴイチには茶色い客車が似合う。うちの親は現役時代にこれに乗っていたんだよなぁ。羨ましすぎる!
梅小路機関区といてば、このアングル。SL達が顔をこちらに向けて勢揃いする姿はまさに圧巻。
SLは基本的にはボイラーを頭にして走るので、方向転換をする必要があります。その方向転換のための装置が、手前の円形の部分、転車台。
機関庫側を先頭に走ってきたSLは、真ん中の棒状の線路に載って回転させられ、おしりからバックで機関庫に入庫します。そうすることで、次に使うときに先頭を向いて走れるという仕組み。
その転車台が必要な構造から、線路が放射状に伸びるため、機関庫自体が扇形になります。この扇型機関庫、SL全盛期には日本全国にあったようですが、今となっては一部が残るのみ。SLと共に、この貴重な姿をいつまでも残してもらいたい。そう強く願うのでした。
夜の東京から始まった冬の旅ももうすぐ終わり。今回はうちで京都グルメをのんびりやろう、ということで珍しく早目の帰京。伊勢丹の地下で美味しそうなお惣菜や漬物、地酒を買い込み、新幹線に乗り込みます。
大阪・京都に来たらやっぱり食べたい、551の豚まん。しっかり目でちょっと甘い皮の中に、豚ミンチがゴロっと入っているこの豚まんは、初めて食べたときはびっくりしました。
東京ではまず肉まんと呼びますし、肉まんには筍や椎茸といった野菜が入っています。皮もふかふかでそれほど甘味はありません。からしも付けません。
ですが、この豚まんは豚ミンチと玉ねぎだけという潔さ。肉まんのタネよりもっと肉感のある、しっかりした食べ応えのタネ。東京には無い味に、初めて食べて以来すっかりファンになってしまいました。
551とエビスというベスト・コンビネーションを楽しんでいるうちに、車窓はどんどん白く。東海道新幹線の雪の難所、米原辺りでは一面の銀世界が広がっていました。下手したら山陰と変わらないほど。この旅最後の雪景色に、しばし言葉を忘れ見入ります。
東京へ着くまでの間、この旅最後の地酒を楽しむこととします。駅の売店で購入した、松本酒造の日ノ出盛純米酒きょうと。すっきりとした飲み口が美味しいお酒。今はワンカップでも純米系が増えてきたので、車中で手軽に楽しめるのも嬉しいですね。
本来なら、前回京都に来たときに見つけて気になっていた萩の家のおつまみセットを買いたかったのですが、売店では萩の家のお弁当類を全く見ることができませんでした。
萩の家さん、駅弁やめちゃったのかな?京都らしい味付けとそれに見合わぬ安さで好きだったのに。残念。
のぞみはトップスピードをキープし、東京目指して走り続けます。もうここまで来れば東京まであと少し。大井川越しに聳える霊峰富士が、この旅の終わりを静かに告げます。
初めてのサンライズ、初めての山陰、初めての松葉がにと、初めてだらけだったこの旅。どことも似ていない独特な雰囲気を持つ山陰地方を満喫し、名湯と美酒美食に酔いしれる。
途中ハプニングもあったけれど、だから京都で美味しいものも楽しめた。初めての梅小路も満喫することもできた。相方のふるさとを二人で歩く、そんな何気ないちょっとしたことも楽しむことができた。
今回は、本当に味のある旅でした。美味しいもの、美味しいお酒に溢れた旅。旅情を感じさせてくれる、独特な味のある風景に溢れた旅。そして、ハプニングという、思い返せばそれ自体が旅の味となる経験。
この雄大な富士を眺め、この旅の着地点がきちっと決まったことに感謝し、楽しい旅を思い出へと変換する準備をするのでした。
そして、まだ見ぬ憧れの地、城崎へのリベンジを心に強く誓うのでした。それにしても1月30日出発の夜行列車の旅にはきっと何かがある。去年のカシオペアに引き続き、今年の山陰本線まで・・・。来年はこの日を外して出掛けることにしよう(笑)
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