初の達谷窟でしみじみと秋の風情に酔いしれ、再び『岩手県交通』のバスに乗車。あっという間の5分程で、この旅最後の目的地である厳美渓に到着します。
雨の夕刻、弱まる色味。今日の厳美渓は、ちょっと怖い。水量を増した磐井川は水煙と白波を立てつつ勢いよく流れ落ち、程よく色づいた木々も、一層の侘しさを添えるよう。
雨に濡れ、つるつると光る岩盤。足元に最大限の注意を払いながら、岩場の先まで進みます。雨の染みた岩肌には独特の文様が浮かび、その荒々しさをより強調するかのよう。自然の造り上げる強烈な造形に、いつも以上に畏怖の念を抱いてしまう。
3年ぶりに訪れた厳美渓。この時期に訪れるのは初めてだったため、天候のせいもあり今までとはまた違った表情を垣間見た気がする。心にほんのりとしたぞわぞわ感を残しつつ、『岩手県交通』で駅へと向かいます。
最後の岩手の田園を愛でつつバスに揺られること約20分、一ノ関駅に到着。いやぁ、今回も濃厚な岩手だった。訪れるごとに好きになる岩手という地。再びの訪問を固く誓い、改札口へと吸い込まれます。
待つことしばし、僕を東京へと連れて帰るE5系がホームへと入線。行きは夜行バス、帰りは新幹線。日勤勤務となった今、これが僕の一番のお気に入りの移動手段。旅先での時間を、余すことなく最大限に楽しめます。
はやて号は、定刻通りに一ノ関を発車。車窓を包むのは、漆黒の夜闇。見える灯りもまばらで、あとはもうこの旅の記憶と酒に酔うばかり。そんなお供にと選んだのは、お気に入りのあさ開純米酒。わんこきょうだい、今回も本当に楽しかったよ。毎回毎回、良い岩手路をありがとう。
仙台を過ぎたところで、この旅最後の岩手の味を。今回は一関のあべちうが調製する、平泉義経という駅弁を購入。掛け紙の中尊寺が、旅の余韻を駆り立てます。
蓋を開ければ、ぎゅっと詰め込まれた岩手の恵み。鶏の照り焼きは、脂を程よく残しつつ香ばしく焼かれています。平泉名物のお餅には鶏そぼろが絡められ、旨味を纏ったお餅の甘味と食感が美味。
カツは鮭のメンチとなっており、魚の素朴な旨さをぎゅっと凝縮。魚のすり身揚げには枝豆がたっぷりと加えられ、適度な歯ごたえと広がる風味があさ開を誘います。煮物も濃すぎず薄すぎずの丁度良い塩梅で、弁慶のほろほろ漬けやごま寒天といった嬉しい脇役も。
ご飯は二色となっており、黒米入りの方は独特の風味ともっちりとした食感が旨い。くるみご飯はお米の甘味とくるみの油分や香ばしさがよく合い、おかずや漬物とも相性ピッタリ。
秋色を求めて、辿った岩手路。初めて訪れた網張で硫黄の香りに包まれ、谷底に佇む夏油では湯と紅葉に染められて。何度通っても、岩手は良い。いい意味で派手さはないが、色々なものを解いてくれる。
錦秋、古の人はなんと的確な言葉を生み出したのだろうか。赤一色でも、黄一色でもない、錦のように色付く木々。この旅で幾度も目にした秋色を、心ゆくまで触れた湯のぬくもりを、そして舌で愉しんだ岩手の味を。それらの錦を心に刻み、これからまた頑張ろう。そう素直に思わせてくれる輝きを、秋の岩手がくれたのでした。
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