但馬牛と旨い酒を味わい、ほろ酔い気分で過ごす城崎の夜。部屋から眺める夜の温泉街も良いものですが、ここはやはりぶらりと歩いてみたい。ぐっと冷え込み締まった空気の中を、下駄を鳴らしてのんびり散策します。
太鼓橋の上から眺める、夜の城崎。その表情は、昼間のそれとはまた変わり、全体が艶っぽさが包み込んでいます。心酔する、とはこのようなことを言うのでしょう。
長きに渡り憧れ続けて来たこの場所に、こうして居られる。この瞬間がこの上なく幸せで、この上なく大切。城崎の温かい灯りが、僕の心の奥底まで沁みてゆきます。
夜の帳がおり、明かりが点るお店が並ぶ温泉街。夕方よりも一層活気と温もりを感じさせます。浴衣を着た人々が、下駄を鳴らして歩く街。城崎の守ってきた文化が、今もなお受け継がれ続けています。
夕方は閉まっていたパチンコ屋さんも、夜となれば明かりを煌々とともし元気に営業中。中ではたくさんの人が、射的やパチンコに興じています。
しっとりとした夜の城崎を一巡りし、宿の隣にある一の湯へと入ります。ライトアップされた一の湯はその存在感をより一層増し、荘厳さすら感じさせます。
お風呂は広い大浴場のほかに、洞窟をイメージした半露天も。城崎のシンボル的な外湯というだけあり、夜にもかかわらず多くの人で賑わっています。
一の湯で温まり、身も心もほっこりしたところで宿へと戻ります。玄関を入る前に、もう一度この街の持つ空気感を五感に焼き付けます。
温泉は本当に奥が深い。最近ではどんどんと山の宿に魅かれ、自然の中にあればあるほど感動していた自分がいる。それはそれで僕の趣味としては大正解。
が、こうやって古くから多くの人々が関わり造り上げてきた温泉街もまた、筆舌に尽くしがたい魅力に溢れている。温泉、罪な奴。ここへ来てまたその力をまざまざと見せつけられました。
部屋へと戻れば、障子越しに漏れる優しい光。向かいの旅館の窓にもそれぞれ灯りが点り、夜の城崎の静かなる賑わいを演出します。大きすぎず、小さすぎず。遠すぎず、近すぎず。城崎の持つこの微妙な距離感、サイズ感が、この街の風情をより濃くしているのかもしれません。
街に面した部屋の縁側、ここが今回の僕の定位置となりました。時が経つのも忘れ、深まりゆく城崎の夜をひたすらぼんやり眺める。湯治してみたい。この街で逗留してみたい。またひとつ、滞在したくなる温泉に出会ってしまった。
一の湯で乾いた喉を潤す、今夜最後の一杯。夕飯の時に飲んで美味しかったカニビールを開けます。
味わい深い地ビールを愉しみつつ眺める温泉街。いつしか賑やかに響いていた声や下駄の音も少なくなり、宿の灯りもぽつり、ぽつりと消え始めます。
できることならば、一睡もせずに味わいたい城崎での夜。そう思いつつも迫る睡魔には勝てず、床に就きます。その頃には城崎の街も深い眠りに就き、街の灯りもすっかり消えていました。
特に理由も無いまま、ただテレビや本で見ただけでずっと僕を虜にしてきた城崎温泉。初めて訪れたこの地は、その大きな期待を裏切ることなく、それ以上の感動を僕に与えてくれました。そんな幸せに包まれつつ、明日に向けて深い眠りに落ちてゆくのでした。
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