清水寺を後にし、北の方へと進みます。この日のお昼は祇園でと決めていたので、その前に近くの八坂神社へお参りすることに。
いつもは四条通の突き当りから神社へと入るのですが、今回は初めてこちらの鳥居から。雨に濡れた石鳥居が落ち着いた雰囲気を漂わせます。
いつ見てもその立派さと華やかさに目を奪われる、八坂神社の本殿。美しい曲線を描く大きな屋根が、朱や金が用いられた建物をどっしりとした雰囲気に引き締めます。
この日は、本当は行ったことの無い、見たことの無い京都を楽しみたかったのですが、あいにくの雨。お昼の予約の時間もあるので、欲張りせず自分にとってこれぞ京都、という清水寺と八坂神社を訪れました。
そして、やはり訪れるごとに味わう懐かしさと、それに相反するかのように感じる新しい魅力。冷たい雨の中巡る京都も、また良いものです。
もう一度振り返り、八坂神社のシンボルとも言える楼門をこの目に焼き付け、祇園の街へと進みます。
賑わう四条通を左に折れ、しっとりと雨に濡れる祇園の街へ。冬の雨の京都。寒くない訳がありません。それでもこの街並みを見ると、心の奥がふっと温かくなる。この街が持つ不思議な力です。
これまでこの祇園は、僕にとってこうやって歩いて楽しむだけの街でした。というのも、一人旅の多い僕にとって、やはり祇園のお店に一人で入るのはまだまだ無理なこと。観光客向けの一見さんOK、そう判っていても、この雰囲気に圧倒されてしまうのです。
そんな祇園で、今日はランチ。もうね、京都出身の相方さんと一緒じゃなければ入れませんよ。この店構えだもの。
ということで、今回お邪魔するのは祇園の路地に位置する『祇園 うえもり』。このお店も、周りも、まさに祇園!という佇まい。僕のような観光客には堪らない立地です。
初祇園(大袈裟!)に少々緊張しつつ店内へ。一歩入ると、テレビで見たことのあるような造り。カウンターを挟んで板場と客席が向かい合うその雰囲気は、何とも言えぬ空気感。
そして通されたのは、中庭を望む落ち着いたテーブル席。これこそまさに憧れてきた京都祇園のお店の風情に、早くも圧倒されっぱなし。
これから頂くのは、お勧め湯豆腐と湯葉の会席。じっくり味わうためにと注文したのは、お気に入りの英勲。錫の酒器で供される英勲は、この店の雰囲気も相まっていつもとは一味違った美味しさに感じられます。
いよいよお食事が始まります。まずは生湯葉のお造り。とろりととろける生湯葉とはまた違う、しっかりと舌にまとわりつく濃厚な食感。しっかりとしつつも口どけがよくクリーミー。豆の味が口に広がります。
実は、こちらのお店を選んだのは、祇園にあるというだけではありません。この湯豆腐会席には、嵐山の有名な豆腐店、森嘉の豆腐が使われているからということでこのお店を予約しました。
森嘉の豆腐と聞いても、それほど京都に詳しくない僕はいまいちピンときません。でも、嵐山の線路向こうにからし豆腐っていうめちゃくちゃ美味しい豆腐があるんだと、以前から相方さんに聞かされていたのが、この森嘉というお店。
以前に嵐山を訪れた際は立ち寄ることは出来ませんでしたが、今回こうやって初めての対面を果たすことができました。相方さんもかなり楽しみにしている様子。
早速温められた豆腐を引き上げ食べてみます。これが絶妙な食感。しっかりしているのに砕けるような食感は無く、不思議と口の中でほどけてゆくような感覚。一人ひと鍋、たっぷりと美味しい豆腐を楽しめます。
豆腐をじっくりと愉しんでいる間に、頃合いよく次のお料理が運ばれてきます。続いてはよこわとかんぱちのお刺身。
よこわ?そう言えばうっすら聞き覚えが無いでもないけど。と思いつつ食べてみると、やっぱり見た目通りまぐろでした。よこわもかんぱちも新鮮で美味しく、特にかんぱちの身の締まり具合が英勲にぴったり。
美味しい豆腐とお料理に英勲をおかわりしたい衝動を抑えつつ、次の料理を頂きます。続いては天ぷら。実はこれが一番のお気に入りだったかも。
薄づきの衣でさくっと揚げられた天ぷらは、軽くて旨いのひと言。東京のごま油の香る天ぷらもありっちゃぁありですが、僕はこちらの方が好き。熱々のところを一気に頂いてしまいました。
続いては、ひろうすの湯葉あんかけ。具だくさんのジューシーなひろうすに、出汁のきいた優しい湯葉あんがたっぷりと掛かっています。載せられたしょうがの風味がいいアクセントに。
関西はだしですよ。本当にこういう味付けのものが、本当に、本当に大好き。このようなものを食べてしまうと、一気に東京へ帰りたくなくなってしまうのです。
そして最後にちりめん山椒ご飯と赤だしが。浅く炊かれたちりめんと山椒の風味が爽やかで、美味しい食事を美味しい余韻のまま〆てくれます。
デザートは豆腐のチーズケーキ。散らしたゆずがほんのりと香ります。このチーズケーキもまた美味しく、豆乳製品のいやらしさは全く感じないのに濃厚な食感と、それでいて豆腐からくるさっぱり感が両立されています。
もう、大満足のひと言。この内容で、そしてこの立地と佇まいで3,500円也。ここを見つけた相方さんに拍手喝采を送りたいと思います。
僕はどちらかと言えば、雰囲気で物を食べるタイプではありません。でも、ここ祇園という地で頂くランチには、異様な興奮を覚えてしまいました。それはひとえに、その店構えや雰囲気に負けない美味しさを味わわせてくれたからこそ。
観光客が訪れることのできる、祇園のお店。お値段も手頃で、何より美味しい。この旅で色々美味しいものを食べ歩きましたが、僕にとってはこの旅一番と言えましょう。
京の料理を祇園で頂く。これだけでも京都へ来て良かった。お腹以上に心が満たされ、幸せ気分で再び京の街へと歩き出すのでした。
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