お風呂上りに売店を覗いてみることに。このお宿を選んだ理由のひとつとして、食堂やはぎの存在がありました。去年お昼に食べたおそばがとても美味しく、それ以外にもメニューがたくさんあったので、自炊せず手ぶら湯治ができるという気軽さから選びました。
が、売店を見てみると地元の美味しそうなお漬物や納豆がならび、僕を誘惑してきます。これは参った。普段自炊しているので怠け放題してやろうと決め込んできたのですが、どうやらなんちゃって料理人としての触手が動いてしまいました。
自炊するつもりでは無かったので、調味料などありません。もちろん売店にしょう油味噌などは売っていますが、4日間のために買うのももったいないし、何よりそれでは自宅での調理と同じでつまらない!ということでお漬物をフル活用することに。
と言うわけで、今夜の仕入れは芭蕉菜漬け、たっそべ漬けわさび、花巻納豆、木綿豆腐、卵の5品。締めて700円台のお支払い。たっそべ漬けは濃い目のしょう油ベースなので、漬け汁を調味料として使います。
必要な調理器具は炊事場にありますが、包丁だけは帳場で借ります。毎回返すのではなく、自室できちんと保管していればいいようです。
自炊部と言ってもあまり自炊する人は多くないのか、広い調理場で一人でご機嫌に下ごしらえ。簡単過ぎて料理とも言えないようなものですが、色々トントンしていると気が付けば日が暮れていました。
部屋から漏れる暖かい灯りに包まれた廊下を、地元の食材のみで作った簡単おつまみを自室まで運ぶ。初日から湯治場風情にやられっぱなしです。
自室に戻り、豆腐の入った土鍋をコンロへ。この子の活躍する時が来ました。
いい具合に錆の浮いた自販機に拾円玉を入れ、元栓を開けて時計回りにハンドルを半回転。すると中からキッチンタイマーのような音が聞こえ、これがガスが使えるようになった合図。あとは普通にコンロの火をつけるだけ。10円で7~8分間ガスが使えます。
本日の献立は・・・
- 花巻納豆と卵に刻んだ芭蕉菜を加えたっそべ漬けの汁を少々。
- 熱々湯豆腐のたっそべ漬け刻み載せ
- 漬物2品
質素ながら地元の恵みに溢れた食卓。食べる前から美味しいに決まっています。そんな贅沢な夕餉の友に選んだのは、南部富士特別純米酒。去年夏油温泉で飲み美味しかったお酒。
ただ、今回買ったのは期間限定のものなのか、生貯蔵酒とのこと。前回飲んだものよりももっとフルーティーで甘酸っぱく、これまた美味しい!初日から良い岩手の酒に巡り会いました。
東京では見かけない芭蕉菜。野沢菜のようでいてもっと肉厚で柔らかく、まさに僕好み、ドンピシャな青菜漬け。そしてシャキッとした食感が心地良く、ほんのりと香るわさびの香りがアテとして最高なたっそべ漬け。
そんな岩手の恵みをつまみつつ、南部富士片手に土鍋が沸くのをぼんやり眺める。そんな時間が、たまらなく愛おしい。
瓦斯自販機のタイマーが切れ、豆腐が十分に熱くなったところで食卓へ。立ち上る湯気が、心を一気に温めてゆきます。
普段手を変え品を変えで料理を楽しんでいる僕ですが、こんな鄙びた空間で、素材を組み合わせただけの料理とも言えないようなシンプルな夕餉を楽しむ。ある意味、料理の原点、食べることの原点を垣間見た気がしました。
湯治の夜はまだまだ長い。お酒を半分ほど愉しんだところで、初の自炊湯治の宴は終了。残り半分は夜のお楽しみにとっておくことにします。
素朴な美味に感動し、ほろ酔いで向かう調理場。先人たちがそうしてきたように、食器はしっかりと磨いて棚へと戻します。普段後片付けが大嫌いな僕ですが、不思議とこうすることも、ここでは心地良く感じます。
思いつきで始めた夜の自炊。思いがけず大成功を収め、翌日以降もおつまみは自炊することに決定。芭蕉菜漬けとたっそべ漬けは大切に冷蔵庫にしまっておくのでした。
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