時刻は17時過ぎ。お風呂帰りに売店で本日の食材を探し、調理場へと向かいます。本日の仕入れは、油揚げ、ちくわ、花巻納豆、卵2個。これで300円台のお支払い。そのほかに、昨日残しておいた芭蕉菜漬けとたっそべ漬けを使います。
自室のコンロでは焼き物はできません。ということで、調理場の10円コンロを使って油揚げをこんがり焼きます。
一般家庭用のものとは勝手の違う鋳物コンロの火加減に苦労しながらも、そんなことすらいちいち楽しい。まずい、自炊湯治にハマリそう・・・。
そして今日も、部屋で煮てみた。何ができるかは、蓋を開けてのお楽しみ。
旨いに決まっている今夜の素朴なつまみに合わせるのは、赤武酒造株式会社の浜娘純米生貯蔵酒。このお酒は、津波という悲惨な形で有名になってしまった大槌町にある酒造会社の社員さんが、盛岡の桜顔酒造の蔵で醸したお酒だそう。
さくら祭りに出店していた大船渡のかき小屋にしても、このお酒にしても、街の復興はスタートラインにすら立てていない状況の中で、自分たちの力で立ち上がり復活への道を地道に歩み始めている。
東京に居ては知ることのできない、地元の人の力から生まれる復興への道しるべを目の当たりにし、東京人として色々思うところがあります。
それについてここで述べるのは控えたいと思いますが、ひとつ言えることは、僕の心はもう生まれ故郷の東京にはありません。これからも、僕自身のためにも東北にできる範囲で通いたい。そう再認識させてくれました。
スーパーで手にしたときには気付かなかったこのお酒の成り立ち。ふと目にして色々なことに考えを巡らせているうちに、瓦斯自販機が止まりお鍋からはいい匂いが漂っています。
本日一品目、ちくわとたっそべ漬けの卵とじ。輪切りにしたちくわをたっそべ漬けの汁ごと煮て卵でとじたもの。火を通すことでふわっとわさびの香りが広がり、日本酒に持ってこい。
そして先ほどこんがり焼いた、油揚げの花巻納豆詰め焼き。大粒でふっくら美味しい花巻納豆に、粗みじんにした芭蕉菜を混ぜて詰めました。うん、昨日よりちょっとは料理らしくなったぞ!
残りの芭蕉菜漬けと合わせて3品の夕餉。純米生貯蔵酒という文字通り、フレッシュで香りが良く、ほんのり甘くて口当たりの良い浜娘にドンピシャなおつまみの面々。
納豆や油揚げ、漬物などどこにでもあるような食材。だからこそ、この味はここでしか食べられない。郷土色豊かな料理も大好きですが、文字通り地元の味をしみじみと味わう。これって、実は普通の旅では意外と難しいことかもしれません。
素朴ながら滋味溢れる晩酌を愉しむ夜。自作のつまみ相手にひとり自室で傾ける一献は、今までの旅で味わったものとはひと味も、ふた味も違うもの。
そんな特別な夜を演出してくれる、歴史ある自炊部のこの部屋。年季の入った瓦斯自販機もそんな仲間のひとつ。
かなり古いものと思って見てみると、意外にも昭和47年製の刻印が。僕の生まれるたった9年前に作られたものでした。10年一昔。一昔前に生まれてみたかったな。きっとそこには、一昔では括れない何かがたくさんあったことでしょう。
のんびり味わう時間旅行。そのお供をお酒からお風呂へと変え、更に続きを愉しむことにします。舞台に選んだのは、もちろん薬師の湯。派手さは無いが随所随所に歴史の薫るこの浴場はすっかり僕のお気に入りに。
鈍く輝く小さなタイルで埋め尽くされた柱。昔ながらの青い羽根の扇風機。コンクリート造りにもかかわらず円弧が冷たさを感じさせない階段。
様々な色や模様の石で彩られた浴場の床。小さいタイルが目一杯はめ込まれた浴槽。昔の銭湯を思わせる、天井の繋がった男湯と女湯。高い天井により開放感を感じさせる空間を照らす柔らかい灯り。
レトロな雰囲気を浴場で十分に味わい、今宵の〆へ。やはぎの店内も、古き良き木造建築の持つ渋い温かさで溢れ、心地良い時間旅行はまだまだ続きます。
火照った体を生で冷やすことしばし、お待ち兼ねのおそばが到着。今夜は田舎のもりを頂くことに。
冷たい田舎そばは去年お昼に頂きましたが、再び食べてもやっぱり旨い。太くしっかりしているのに、切れたりボソボソしたりせず、コシと喉越しがきちんとある。十割そばでこの食感。ここのおそばは美味しい。
薬味が一風変わっており、わさびではなくもみじおろしが添えられていますが、意外と悪くない組み合わせ。真ん中の小鉢には大根のおろし汁が入っており、好みでつけ汁に加えれば、爽やかな辛さを楽しめます。
そしてなんといってもこのボリューム。おつまみをもう少し減らしておけばよかった。そう思う位のボリュームで、小食の方ならこれだけで十分夕飯となり得る量。朝食とこのおそばがセットで880円相当。本当にお得なプランです。
初めて宿に籠もって終日過ごした今日一日。時間を持て余すどころか、あっという間に過ぎてしまう掛けがえのない時間。
こんな日々が、明日も、あさっても待っている。そう思うと安心したのか、気が付けば22時過ぎにはこたつで寝てしまっていました。先はまだまだ長い。このまま布団へ移り、夢の続きでも見ることにしよう。
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