駅から酒田の空気感を味わいつつ歩くこと20分ちょっと、いつかはと思い続けてきた山居倉庫に到着。これまで写真や映像の中のものであった三角屋根の白い倉庫が並ぶ姿を、いまこうして自分の眼で見ているという幸せ。実際に体感してなんぼ、だから旅はやめられない。
逸る胸を抑えつつ、新井田川に架かる山居橋を渡ります。肌を灼く夏の陽射し、時折全身を撫でる川風。潮を感じさせる匂いが鼻腔をくすぐり、ここ酒田が古くから最上川と海との結節点として栄えてきた歴史が薫るよう。
橋上から目をやれば、蔦の絡んだ古い建物と今なお残る船着き場。輸送の主役が陸上となったのは、近代に入ってから。古くからこの国を支え続けてきた舟運こそが、かつての主役であったことを感じさせます。
夏空のもと、三角屋根が整然と並ぶ白壁の倉庫群。土と木、漆喰に瓦で作られた土蔵。窓や扉といった建具に感じさせる和の雰囲気が、煉瓦や石造りの倉庫にはない日本の機能美というものを醸し出しています。
漆喰の白さがまぶしい表側とは一変し、渋い色合いの羽目板で覆われた裏側。庄内の風雪を身に刻んだ重厚な佇まいに、鮮やかな緑を添えるけやきの並木。山居倉庫といえばの、代表的な眺めのひとつ。
明治時代に、庄内米の保管を目的に建てられた山居倉庫。このけやき並木は、強い風や直射日光からお米を守るために植えられたものだそう。お米を温度変化から守り、いかに美味しく保存し全国へ発送するか。空調技術のない時代の先人たちの知恵が樹齢として刻まれ、今なお倉庫と訪れる人々を守ります。
倉庫の間に設けられた隙間や、風通しを良くするための二重屋根や天窓。お米の保存に特化した工夫により、庄内米の価値向上に寄与したのだそう。現在はさすがに空調が導入されていますが、明治時代築の倉の一部は米の保管庫として今なお現役で働き続けています。
米という主食と共に生きてきた日本人。その歴史に思いを馳せつつ、連なる倉庫をぐるりと一周。様々なメディアに取り上げられる裏側とは違い、漆喰の塗られた表側は人通りも多くなく静かな雰囲気。ひとり佇み、明治から残され続ける世界観を胸へと刻みます。
倉庫のほか、事務所と思しき洋風の建物や大きなお屋敷が残る敷地内。その一画には、目を見張るほどの立派な枝ぶりの松が。美しく剪定された姿は、まるで盆栽から飛び出してきたかのよう。
海と内陸を繋ぐ交通の舞台として、長らく活躍してきた最上川。その舟運に使われていたという小鵜飼船が再現され、当時から残る船着き場に保存されています。
新井田川に面して設けられた、石畳の船着き場。当時は内陸で育てられたお米をここから運び入れ、あるいはここから積み出し海を経て津々浦々へと出荷されていったことでしょう。
明治の風情を今なお色濃く残す、山居倉庫。その空気感を胸いっぱいにしまい込み、駅へと戻ることに。その前にもう一度だけ振り返り、その優美な姿を目に焼き付けます。
山居倉庫で酒田の歴史に触れ、今度は舌で酒田を味わうことに。ラーメン大国山形県らしく、ここ酒田にも古くから愛されてきたご当地のラーメンがあるそう。どのお店にしようかと迷いましたが、今回は駅からも近い『三日月軒駅東店』にお邪魔します。
注文したのは、一番シンプルな酒田のラーメン。見るからに旨そうな澄んだスープに浮かぶ、チャーシュー、メンマ、ねぎ。これぞ王道の醤油ラーメンといった面持ちに、食べる前からワクワクが止まりません。
まずはきれいなスープをひと口。うわぁ、優しい・・・。鶏と魚介の合わせだしですが、いわゆる魚臭さはなくとても穏やかで上品といった印象。そこにキリリと締まりを与える、しょう油の風味。スープだけでも、ずっと飲んでいたい。そんな体に沁み入るような、澄んだ美味しさに溢れています。
麺は自家製麺だというつるしこの縮れ麺。表面が滑らかなため、啜ればずるずると勢いよくスープと共に口へと滑り込んできます。そして噛めば、プリッとした心地よい歯ごたえ。これだよこれ、しょう油にはこれだよ!と思わず頷いてしまいます。
チャーシューは、昔ながらの肉しっかり系。嫌な脂っぽさのないしっかりとした噛み応えで、スープとの相性はバッチリ。久々にシンプルで旨いしょう油ラーメンというものに出会えました。
短いながらも大満喫した酒田の街。今度はもう少し、ゆっくり来よう。再訪の予感を噛みしめつつ、お腹も心も満たされ大満足でこの街を離れるのでした。
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