八甲田山に抱かれた谷地温泉で迎える、爽やかな朝。昨日の到着時にはあれほど降っていた雨もすっかり上がり、谷地の湿原は輝かしい朝日に照らされています。
時刻はまだ5時台。早速浴場へと向かうとまだ人影はなく、朝の静けさに包まれています。そんな穏やかな空気の中愉しむ、足元自然湧出のぬる湯。これ以上の贅沢は、そうそうありません。
朝風呂という贅沢な時間を過ごしてもなお、朝食の時間まではまだまだ。こんなにゆったりした朝を過ごすことなど、普段の生活ではまずできません。
すっかりお腹も空き、丁度よい時間になったところで食堂へ。テーブルには素朴で美味しそうな朝ごはんが並んでいます。
定番の焼鮭や玉子焼き、じんわりとおだしの浸みた冬瓜の煮物をおかずに、ほかほかご飯をほおばる幸せ。やっぱり日本に生まれて良かった。和の朝食を食べるたびに、そうしみじみ感じます。
早起きし、のんびり朝風呂、そして朝食を。頭も体もすっかりと目覚めてから食べる朝食は、寝ぼけ眼で食べるそれの何倍も美味しい。やっぱり早起きは三文の得、いやそれ以上。
深い緑に抱かれた秘湯、谷地温泉。どこまでもどこまでも優しく穏やかなぬる湯に、心身の芯から溶かされました。
たった一泊でしたが、携帯も繋がらない静かな環境で過ごした一夜。これだけで日々の疲れの半分は飛んでいってしまいそう。そう思うほど、すっきりとした気持ちで宿をあとにします。
来るときには雨と雷に追い立てられるように歩いた宿への道。今日は清々しい晴れ間の中、緑の香りを感じつつのんびりとバス停を目指します。途中にはこんなせせらぎも。こんなちょっとした景色を見つけられるのも、電車バス旅の良いところ。
昨日降りたった谷地温泉バス停より、『JRバス東北』の観光路線バスみずうみ号に乗車し、一路十和田湖方面を目指します。北海道新幹線H5系カラーのバスに、思わずテンションが上がります。
バスは深い森の中の国道をひた走り、車窓は八甲田の青々とした緑一色に染まります。その勢いのある緑を支える幹は白く、一面に広がる白樺林であることに気付きます。
白樺の美林が流れる車窓を楽しんでいると、バスは途中の休憩所である蔦温泉に到着。こちらの公衆トイレでトイレ休憩をとるわけですが、僕はそんなことより、この旅館から目が離せない。
大正時代に建てられたという、蔦温泉の本館。その歴史を薫らせる破風が僕を呼ぶのです。あぁ泊まってみたい。だいぶ前にこの旅館を知って以来、ずっと泊まってみたい場所。今回初めてこの目で見て、その思いが一層強くなってしまいました。
このバスが通る沿線には、谷地や酸ヶ湯をはじめ、他にも個性豊かな秘湯が点在しています。去年は酸ヶ湯、今年は谷地。さあ来年はどこへ行くのか?そんな妄想を、旅の序盤だというのに懲りずに繰り広げます。
バスは文字通りの青い森の中を進み、十和田湖エリアへ。温泉で有名な焼山を過ぎると、もうそこは奥入瀬渓流。車窓からもその清純な空気が伝わってきます。
小学生の頃、テレビや写真で見た清らかな姿に魅了され、それ以来延々憧れ続けるだけたった場所、奥入瀬渓流。ついに、本当に、来られるときが訪れた。ガラス越しにも感じるその爽やかさに、バス停への到着が今か今かと待たれるのでした。
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