青森駅からバスに揺られること1時間40分、谷地温泉バス停で下車。そこからのんびり歩いて10分足らず、今宵の宿『谷地温泉』に到着。前々から来てみたいと思ってきた、山の中の一軒宿。ちなみに、日本三秘湯のうちのひとつだそう。
早速チェックインしお部屋へ。今回は歴史ある木造の本館に宿泊。畳の部屋にはベッドが置いてあります。
浴衣に着替えて温泉へ。部屋を出るとこの廊下。木造、白熱灯、そして積雪と経年により微妙に歪んだ天井。いい、この雰囲気いい。このような素朴な山の宿に泊まるのは久しぶりな気がします。
こちらのお風呂は男女別の内湯1ヵ所。時間帯により入れ替わります。浴室は味わい深い木造で、大きな浴槽が2つ並ぶ落ち着いた雰囲気。それぞれ上の湯、下の湯と名付けられ、違う源泉が掛け流されています。
上の湯は、白濁した硫黄の香り漂う単純硫黄泉。42℃と適温で、これぞ山の中の秘湯、というにごり湯を体現したかのようなシルキーなお湯。
それに対して下の湯は、足元から湧き出る透明な単純温泉。温度は38℃とぬるいのですが、入ってしまうとそんなことは全く感じません。
浴槽の底のすのこからぽこん、ぽこんと湧き出る透明なきれいなお湯。溶き卵のような湯の花がたくさん見え、その成分の濃さが伝わってきます。
体温より少しだけ高いかな、という程度の微温浴。のはずですが、このお湯の特長なのかとてもよく温まる。体に負担は感じませんが、しばらくするとじんわりと汗が滲み、体の芯からぽかぽかに。
この浴感、ものすごくクセになる。滞在中何度も何度も楽しみました。最近ぬる湯に浸かる機会が増えましたが、それぞれ違った個性がありどれも印象深いものばかりです。
渋い空気に包まれた静かな湯屋で過ごす時間。そんなかけがえのないときを楽しみ、部屋に戻って冷たいビールを。あぁこの瞬間。これがあるから温泉旅はやめられない。
山に抱かれた秘湯でのんびり過ごしていると、来るときにはあれほど降っていた雨が上がり、うっすら青空が顔を覗かせました。遠くには湿原も見え、草木を渡ってきた雨上がりの風が火照った体を冷ましてくれます。
穏やかで静かな時の流れを楽しんでいると、お待ちかねの夕食の時間に。食卓にはさまざまな品が並びます。
岩魚の塩焼きやわさび菜のおひたしといった山を感じさせるものから、お刺身や〆鯖とかにの酢の物といった海の幸、そしてローストビーフサラダまで。いろいろなバリエーションで楽しませてくれます。
つづいて運ばれてきたのはうなぎの蒲焼き。前日が土用の丑の日で、今ちょうど丑湯まつりをやっているからなのでしょうか。思いがけない好物の登場に嬉しくなります。
今度は大きなポークソテーが。しっとり焼かれた豚は脂が甘く、上に載せられたにんにくが良いアクセントに。なんだろう、ものすごくシンプルで、懐かしい美味しさ。意外な一皿でしたが、何だかほっこりします。
続いては揚げたての天ぷら。さくっとした衣を噛めば、熱々の美味しさを味わえます。
和洋さまざまな品で楽しませてくれた夕食。がっつり山宿の料理を期待していくとイメージが違うかもしれませんが、それぞれ美味しく大満足。〆のご飯でうな丼を楽しみ、もうお腹一杯です。
実は谷地温泉、来たかったのに来なかった理由が。一旦廃業したこの宿は、その後伊東園ホテルグループとして営業再開しました。そして値段を見るとやはり伊東園価格・・・。なのでずっと遠慮していました。(伊東園が好きな方、本当にごめんなさい。一度泊まってちょっと、だったので。)
でもどうしても来たいという想いが勝ち、今回思い切って予約しました。そして出てきたこの食事。あれ?伊東園ってバイキングの宿以外はこんな感じ?と思いました。
その後お風呂で温泉分析書を見てみると、見慣れない会社名が。どうやら伊東園から営業会社が変わっていたようです。
旅のスタイルは人それぞれなので、バイキングの宿に関してどうこう言うつもりはありません。が、なぜ敢えてこう書いたかというと、きっと僕以外にもそれが理由で谷地温泉を敬遠していた人が少しはいるだろうと思ったから。もう一度、伊東園が好きな方、本当にごめんなさい。
いっぱいのお腹を落ち着け再び温泉へ。夜の一部の時間帯は男女入れ替えのため、先ほどとは違うもう一つのお風呂を楽しみます。
部屋へと戻り、今宵の供を。純米酒ごっつりという変わった名前のお酒を開けます。酒造会社は失念してしまいましたが、このラベルと名前にあるように、どっしりとお米を感じさせる味わい。
携帯もつながらない山宿での静かな夜。本とお酒を片手にぼーっと過ごす、何もしない時間。そして気が向いたら温泉へ。
夜の湯屋は一層静けさを増し、ときおりお湯が湧くぽこん、という音が聞こえるのみ。やっぱり秘湯、好きだなぁ。秘湯をじっくり味わうには断然ひとり旅。その感覚を味わい満足感に包まれつつ、早めに床に入るのでした。
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