秋田内陸部、マタギの里で迎える目覚め。まだ早いこの時間は夏の暑さの気配もなく、肌を撫でる朝の空気はまさに清純そのもの。田や山から生まれる朝霧を眺めながら朝風呂を楽しめば、その緑の持つ力までもが体の中に満ちてくるよう。
秘湯らしい秘湯もたまらなく好きですが、こんな長閑さの中に包まれた温泉もまた格別。朝からマタギの里の空気を思いっきり、思いっきり吸い込みます。
幻想的な里山の朝霧を眺めながらの温泉を楽しんだ後は、お待ちかねの朝食。こちらはバイキング形式になっており、好きなものを選んで食べられます。
サバ節と山菜の煮物やきんぴら、切り干し大根など、美味しいおかずと共に食べる美味しいご飯。そして秋田のご飯の供といったら、忘れてはいけないいぶりがっこ。これを食べると、あぁ秋田に来たんだなぁ、という実感が湧くのです。
濃い温泉と旨い土地の味、そしてマタギの里の空気感を楽しませてくれたマタギの湯ともお別れの時。帰りもお宿の方に駅まで送って頂きます。
玄関の両脇には、地元の方がチェーンソーで彫られたという木彫りの像が並んでいます。左には熊にマタギ、そしてこちらはフクロウとうさぎ。最後にこの動物たちに再訪を約束し、別れを告げます。
今度は絶対、厳寒期。雪に埋もれながら走る内陸線に乗り、そしてここで雪と湯けむりに埋もれたい。またひとつ、秋田で来たい宿ができました。
朝のひんやりとした空気はどこへやら。阿仁マタギ駅に着くと、鉄路はすでにじりじりと夏の陽射しに灼かれています。その熱気が陽炎のように立ち上り、ホーム上まで伝わってくるよう。
でもいい、それがいい。太陽に灼かれた赤茶けた線路。その先には盛夏の勢いを体現する青々とした田んぼと、秋田杉の黒い山並み。もう僕は東北の夏無しでは生きていけないのかもしれない。6年連続で味わってみて、その疑念は確信へと変わりつつあります。
阿仁マタギ。阿仁という東日本独特の響きを持つ地名に、さらに秘境感を強めるマタギの名。そんな駅名がきっかけで気になりはじめ、そしてとうとう訪れることができたこの地。
そこにあったのは、絵に描いたような山里の風景。山が迫り、川が流れ、そこに田んぼと家が並ぶ。言うなれば、極上の日常。都内が故郷の僕でも無条件に郷愁を覚える、古里ってこういう場所なんだろうなぁと素直に思えるような田園が、そこには広がっていました。
木彫りのマタギ像や燃える緑を見ながら夏休み気分に浸っていると、カタン、コトン、と遠くからリズムが近付いてきます。今日の車両は紫。『秋田内陸縦貫鉄道』の急行もりよし号に乗車し、更に南へと進みます。
列車は軽快な唸りを上げ、簡単な作りのホームを滑り出します。程なくしてスピードに乗り、午前の穏やかな車内には単行列車の刻むリズムとエンジン音が響くのみ。のどか、本当にのどか。何度でも眺めたい、いつまでも眺めていたい、東北の夏。
阿仁マタギから角館までの間、途中2ヶ所に田んぼアートを楽しめるスポットが。これが角館行きでは最後の田んぼアート、マタギとクマ。仲良く手を繋いでいる姿は、山の命をもらいながら暮らしてきたという歴史と感謝が表れているようで、見ている僕に何かを訴えかけてきます。
真夏の秋田、内陸の旅。鷹巣にちょこんと停まっている列車に誘われ訪れた地は、山深さと郷愁を強く印象付ける、濃厚な夏が溢れた場所なのでした。
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