新青森から特急つがるに揺られること30分足らず、この旅最大の目的を控えた弘前に到着。
車窓からは濡れた路面と黒い雲が見えていたので、最悪中止となってもがっかりしないように心の準備をし、列車を降ります。
一年振りの弘前。また来ることができた喜びに浸っていると、コンコースの天井ではたくさんの金魚ねぷたがお出迎え。金魚ちゃん、今年も来たよ!!
ゆらゆらと揺れる金魚ねぷたに迎えられたかと思えば、その先には立派なねぷたがお出まし。やぁーやぁどぉー、早くも耳の奥にはこの声と鉦の音が響きはじめます。
そして今年も弘前へとやってきてしまった。4年前、あけぼの号に乗って初めて弘前へと降り立った時は、まさか毎年こうしてねぷたを見るために通うことになるとは思ってもいなかった。
あのときねぷた村を訪れていなければ、きっと僕はまだ生のねぷたを知らずにいたのだろうか。軽い気持ちで訪れた旅先の観光施設が、僕の夏を変えてしまった。そう思うと何とも不思議な気分になります。
ねぷたシーズンの弘前は、とにもかくにも宿が取れない。そんな中で早めに予約して押さえられた『津軽の宿弘前屋』にチェックイン。駅から徒歩3分と、旅行者にはありがたい立地の良さ。
こちらがこれから二晩お世話になる客室。リニューアルされてまだそれほど経っていないらしく、とてもきれいで快適。
館内も随所に和の宿を感じさせる調度品が配されており、ホテルと旅館のいいとこどりといった雰囲気。玄関で靴を脱ぐので、館内をスリッパで移動できるのも楽でうれしいポイント。
ホテルに荷物を下ろし、さっそく弘前の街へと繰り出します。駅から繁華街までは距離があるため、一年振りの弘前の街を味わいながらのんびり歩きます。
するとパンッ、パンッ!と花火の音が。どうやら今夜はねぷたが運行されるようです。あぁ良かった、ほっと一安心。せっかくここまで来たのだから、やっぱり二晩楽しみたいですからね。
安心してお腹も空いたところで、まずは腹ごしらえを。去年下駄屋さんの女将さんに教えていただいた『夢地』に今年もお邪魔します。
まずは去年も食べて美味しかった、なすのしそ巻きでビールをグイッと。大ぶりのなすとしそ、そして味噌の組み合わせが美味しい津軽の郷土料理。夏の野菜の力強さが伝わってくる素朴な美味しさ。
続いては青森に来たらやっぱり食べたい、新鮮なほや。今回は昆布だしでいただく水物にしました。
鮮やかなオレンジ色とはりをもつ、見るからにおいしそうなほや。ひと口食べれば、ほや自身と冷たいお出汁の旨味が一気に広がります。
こんなにシンプルでごまかしのきかない調理法なのに、まったく臭みが無い。ほやはやっぱり鮮度が命なのでしょう。東北へ来なければ、一生知るはずの無かった美味しさです。
ほやと一緒におだしに浮かぶのは、僕の大好物のミズ。しゃきっとした食感の中にあるぬめりがたまらない。何度食べてもやっぱり旨い。ミズは山菜の王様ではないかと勝手に認定してしまいます。
なすにほやと、もうこれだけで日本酒を何回おかわりしたでしょう。放っておくとねぷたのことを忘れて飲んでしまいそうなので、ここで最後のおつまみを頼むことにします。
〆にと選んだのは、カレイの煮付け。煮汁の色を見れば、これが僕好みの味付けだとすぐに分かります。
これまで何度か青森で魚の煮付けを食べましたが、どれも甘ったるくないすっきりしたものばかり。実は僕はこれが好みで、甘辛い煮付けもたまに食べたくなる時がありますが、やっぱり魚の味をダイレクトに感じられるものが好き。
色と香りに誘われ、ふっくらした身をひと口。うん、これ!薄すぎず濃すぎず、そして甘ったるくないこの旨さ。淡白で繊細なカレイのような魚は、やっぱりこうじゃなきゃ。
といってもこの味付け、自分で試しても一向にできない。シンプルだからこそ、魚の美味しい土地で食べて、作ってきた経験がものをいうのでしょう。自分では決してまねのできない郷土の味に、もう青森地酒が止まりません。
危ない危ない、今年もねぷたそっちのけでお酒に走るところだった。青森の旨い酒、旨いものと味わわせてくれた夢地を後にし、夕暮れに包まれはじめた弘前の街を歩きます。
今回は、ホテルの椅子席ではなく自由気ままな場所でのねぷた鑑賞。どこにしようかと迷いましたが、いつも至近距離で見てばかりいたので、少し離れた場所から祭りの空気ごと味わうことに。
そして今年もねぷたのお供は、たか丸くんの純米ワンカップ。今年もこうして来ることができた。そしてもうすぐあの熱気が僕を襲う。その得も言われぬ感覚に、軽い身震いすら覚えます。
いつもとは違う視点、ねぷたを待つ弘前の人々の賑わいと熱気を感じながら待つこのひととき。
その期待が最高潮に達した時、遠くから重厚な太鼓の音が聞こえてきました。その音は次第に大きくなり、ついには自分の心臓に響く距離に。ねぷたまつりの始まりを知らせる津軽じょっぱり大太鼓が、ついについにやってきました。
ねぷたの迫力と美しさを直に味わうなら、やっぱり沿道での鑑賞がいい。でも今回初めて、こうして一歩引いた場所から眺めるねぷたまつり。大勢の観客越しに眺めるねぷたは、また違った味わいがある。
賑わう人々からは、このお祭りを楽しみにしてきたという雰囲気がひしひしと伝わり、それがイコール津軽の短い夏の到来であることを強く感じます。その証に、輝くねぷたを眺める顔は、皆一様に笑顔で溢れています。
そして僕もそのひとり。運よく毎年来ることができているねぷたも、気がつけば今年で5回目。もう僕の夏には無くてはならないものになってしまいました。
これがあるから頑張れる。これのために、また頑張る。そうして毎年を積み重ねてきた。縁もゆかりもないはずなのに、五感に焼き付いて離れない。そんな不思議な魔力が、弘前のねぷたには宿っているのです。
いつもとは違った視点から眺めるねぷたは、人々の活気という祭りの本質に彩られ、一層強く輝いて見えるのでした。
今夜の写真はこれにて終了。カメラを手放し、僕もこのにぎわう群衆のなかに身を投じます。そうして味わう津軽の夜は、夏の熱さで全身を包みこんでくれるのでした。
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