豊富な水が滔々と流れる奥入瀬渓流。前日の大雨のため下流の方は若干濁りも見られましたが、ここまで来ると流れる水は清冽そのもの。流れが作る飛沫の白と、盛夏の緑の対比がものすごく鮮やか。
奥入瀬渓流は渓流というだけあり、川の流れが広く浅いのが特徴。そこをゆったりと流れる水を守るように生える木々は、文字通りトンネルのようにその流れを覆っています。
水と植物、火山が生んだ奥入瀬渓流。浅い流れの中に木や岩が中洲のように佇む姿を多く目にします。
ときにはこんな大きな倒木も。朽ちはじめた木には新しい命が宿り、若い緑でそれを包みこもうとしています。
その自然のサイクルがまさにいま行われているこの朽木を、夏の木漏れ日が強く優しく照らします。その姿は生命の舞台を照らすスポットライトのよう。
水と木々に清められた爽やかな空気を、胸いっぱいに吸い込みつつ歩く遊歩道。奥入瀬渓流には夏の清涼が溢れています。
気持ちよく散策していると、なにやら白い花が。やわらかそうな白い細かい花が集まるその姿は、犬や猫のしっぽのよう。もふもふした姿に思わずうちのわんこを思い出します。
遊歩道は水辺と森を行ったり来たり。途中で川から離れたと思ったら、本流から離れた部分に湿地のような場所が広がっていました。
水の流れはほとんどなく、それでいて淀んでいるわけではなく水はとてもきれい。その水面は穏やかで、木々の緑を鏡のように映します。
十和田火山が生んだ奥入瀬渓流は、河床の起伏もまた特徴。その起伏が水の表情や流れの躍動を生み、そこに浮かぶ岩もあいまって、まるで日本庭園のような美しさを魅せます。
それにしても、ここが奥羽山脈真っ只中ということが信じられないような眺め。これほどの豊かな水量が、わずかな高低差の川を下る。それもこれほどまでに浅い渓流として。
普通であれば深く大地を穿つ山の流れですが、十和田湖に端を発する奥入瀬渓流は、昔から洪水が少なく水量が安定しているそう。湖が天然のダムの役割を担っていたのでしょう。
だからこそ、山にありがちな渓谷ではなく、このような動植物が豊富な渓流が形づくられているのですね。奥入瀬渓流の一角だけが本当に穏やかで、十和田湖から青森までバスで乗り通すと、その地形の貴重さが分かります。
心なしか狭まる川幅と静かになる水の勢いに、そろそろ上流が近と感じる頃、岩肌からさらさらと落ちる滝が。
九段の滝と名付けられたこの滝は、その名の通り細かい段となった滑らかな岩肌を、するすると水が滑ってゆきます。
その流れは繊細で、陽に透かされた瑞々しい緑が周囲を彩る姿は、とても印象的。ここまで歩いてきた体の火照りを一気に鎮めてくれるかのよう。
もうここまで来れば十和田湖まであと少し。車道との高低差も少なくなり、川と国道が寄り添うようにして進みます。
奥入瀬渓流の観光では、車やバスといった自動車、自転車、そして徒歩が主な手段になるかと思います。
よくテレビなどでも車窓や自転車で優美な流れを追う様子を見かけますが、実際訪れてみると、国道から見える奥入瀬の姿はものすごく断続的。
車で移動中ならばそれでも良いかもしれませんが、奥入瀬渓流を目的地として訪れるなら、ぜひ徒歩での散策がおすすめ。
緩急のある奥入瀬渓流らしい眺めは、その地形の変化による部分が大きい。つまり、地形との争いを避けるように走る国道からでは、その流れの変化の瞬間に立ち会うことは難しいのです。
残念ながら、自転車も遊歩道は走行禁止。というより、ぬかるみもあるような意外としっかりとした山道なので走ろうと思っても無理。歩く方もトレッキングシューズを用意したほうが良いかもしれません。
残り少なくなった奥入瀬渓流の道中をのんびり歩くと、遠くから轟音が聞こえてきます。すると程なくして大きな滝が出現。有名な銚子大滝です。
この銚子大滝、一見すると人工的に作られた砂防ダムそっくり。でも実際は自然に出来たもので、高さ7m、幅20mあるそう。
この滝は奥入瀬川本流にかかる唯一の滝だそうで、この滝の存在により、長い間魚の遡上ができないと考えられてきたそう。
別名魚止めの滝と呼ばれるこの滝によって、十和田湖には人が放流するまで魚は住んでいなかったようです。
真横から眺めてみると、その理由が分かるかのような迫力。大瀑布という感じではないのですが、豊富な水量が分厚いカーテンのようにして幅広く絶えず流れ落ちてゆきます。その風圧と水しぶきが体全体を覆い、夏のこの時期に嬉しい清涼を連れてきます。
銚子大滝を過ぎれば、十和田湖子ノ口までは20分程度。残りわずかな渓流美を愉しみつつ、最後の最後まで水と緑の織り成す美しさを味わいます。
川幅が狭まった部分では、久々に荒々しい一面も。白く波立つ水面の奥にひそむ、鮮やかな水色。ここを流れる水の清らかさが伝わってくるよう。
石ヶ戸バス停から歩くこと約2時間半、奥入瀬渓流のはじまりである子ノ口水門に到着。奥入瀬の景観保護と十和田湖の水量調整のため、この水門で奥入瀬への流量を調整しているそう。
子ノ口水門を過ぎると、先ほどまでの渓流とは一変、ものすごく浅い川へと変貌。川底にはきれいな水草の姿も見えます。
とここで、ついに雨が降り始めました。いやぁ本当にタイミングが良かった。途中少しだけ雨粒を感じることはありましたが、歩きはじめからここまで、ずっと天気が持ってくれました。
ときおり見せる夏の日差しと寄り添い歩いた、緑豊かな奥入瀬渓流。期待を遥かに超える美しさで、初めて訪れた僕の願いをかなえてくれました。
そして今度は燃える紅葉の秋に・・・。点在する秘湯と奥入瀬が、僕を再びこの地へと誘うことは、間違いなさそうです。
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