岳温泉からひたすら歩きもうへとへと。ついに、ついに、本日のお宿である『不動湯温泉』(現在は立ち寄り湯として営業)に到着。
以前から写真で見て焦がれ続けた、赤い屋根と水色の壁が印象的な木造の宿が、まさに今目の前に在ります。途中のハプニングを乗り越えて来たこともあり、まさに感無量、そのひと言に尽きます。
実は道の間違いに気がついたときに、お宿には1時間ほど到着が遅れる旨の連絡をしていました。徒歩で訪れるということは伝えてあったので、土湯からの山道のこともあり、とても心配して下さいました。
そして無事に到着し、岳から歩いてきたことを伝えると、それはもう疲れたでしょう!となんとも温かい雰囲気で迎えていただき、お部屋へと案内してくれました。
今回は障子とふすまで仕切られた旧館に宿泊。その木造旅館の持つ温かさも手伝い、ホッとすると共に疲れがどっと出てきました。なんだか心のたがが一気に外れてしまったみたい。
それでも、一度落ち着いてしまうと絶対に動きたくなくなること必至だったため、荷物を下ろして浴衣にさっと着替え、お目当ての露天風呂を目指します。
ここの露天風呂は川沿いの谷間に作られているため、宿からは延々階段を下りなければなりません。あらかじめ知ってはいましたが、今日の僕はその長さを見て思わず笑ってしまいました。これ、ダメ押しだよ・・・。
この写真、歩き疲れで体が傾いているわけではありません。階段自体が歪んでいるのです。踏み板もちぐはぐなので、下のお風呂へは足腰に自信のあるかたでないと辛いかもしれません。
長い木の階段を下りきり、やっとついたと思ってドアを開けた瞬間にお出迎えの外階段。もうここまで来ると笑い飛ばしてやりましょう。最後の最後、力を振り絞り九十九折の道を下ります。
今度こそ、やっとたどり着いた露天風呂。すぐ横を川が流れ、小さいながら野趣溢れるお風呂です。
普段は白濁しているというこの温泉ですが、この日はお湯を全て入れ替えたばかりとのことで、ほぼ透明でした。が、湯口からはまるで生湯葉のようなふんわりとした湯の花がたくさん出てきており、お湯の濃さが見て取れます。
残った気力で浴衣を脱ぎ捨て、静かに、ゆっくりと湯へと入ります。 温度は熱くもぬるくも無い、文字通りの適温。
薄暗くなり始めた中、川音を聞きながら湯に身を任せる。不思議と、重石のように重くなっていた体や、棒のように固まっていた足が、するすると解けてゆく感覚が手に取るように味わえました。
あの道は、僕に福島の美しい全盛の秋だけでなく、豊かな山の恵みであるお湯を一番感じ取れる状態で味わうことができるよう、仕向けてくれたのですね。いつも以上に、温泉が心に沁みました。
さすがは温泉、たった15分足らずの入浴で、驚くほど筋肉がほぐれ足取りも軽くなりました。来た甲斐があった、と思いつつ見上げるとこの急な階段。あめと鞭とは、このことを言うのでしょう。
階段を上りきったところにある常盤の湯でもうひと風呂浴びることに。こちらは炭酸鉄泉ということで、ほんのり茶褐色、うす濁りの温泉が注がれています。
炭酸鉄泉という名前の通り、入るとたちまち体中を細かな泡たちが包んでいきます。こちらも適温で、肌に吸い付く泡をもてあそびながらのんびりと入浴すれば、体の芯からぽっかぽか。
絵に描いたような秘湯らしさをもつ不動湯温泉。その魅力にのっけからやられてしまいました。浴後はビールも飲まず、ただぼんやりと暮れ行く窓を見つめ、今日の長い道のりと美しい紅葉を思い返し、夕食までのひとときを過ごすのでした。
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