この日はなんと雪の予報。朝目覚めると、予報通りの真っ白な景色が目に入ってきます。雪はどんどん降り続き、車道以外の部分があれよあれよという間に白い化粧を纏ってゆきます。
こんな中博多の街を歩くのかぁ。これからどんどん積もったらどうしようかと、ちょっとだけ心配になるほど勢いよく雪は降り続けます。
それでも、僕らの心配を察してくれたのか、2時間ほど後にはこの晴れ模様。降り注ぐ太陽に、歩道に薄らと積もった雪もあっという間に消え去りました。
5泊6日を掛けてぐるっと九州3県を巡った旅ももうすぐ終わり。残り僅かな時間を、この博多でのんびり過ごすことに。
まずはホテルから歩いて15分程の博多港へ。一気に晴れ模様へと移り変わった青空のもと、またまた見覚えのあるようなタワーが聳え立っています。
この博多ポートタワーも、別府タワーと同じ塔博士が設計したタワー6兄弟の一員。一番最近に出来た末っ子ということになります。
雪が降るほど寒い冬の日でも、目の前には穏やかな青い海が広がります。その青さは季節に似合わぬ温かい青さ。ここが西国であることを今一度実感させられます。
続いて中洲方面の眺め。博多の大きな街並みがどこまでも広がります。先ほどまで雪が降っていたのが嘘のような温かい陽射しを浴びる博多の街。その温かさが展望台の中まで溢れてきます。
無料で大パノラマを楽しめる博多ポートタワーを後にし、西鉄バスで中心部へと戻ります。
天神バスターミナルで下車し、てんちかと呼ばれる天神地下街へ。落ち着いた雰囲気の広く長い地下街がずっと延びています。
このインテリア、実は開業当初の昭和51年からのものだそう。35年以上も経つのに古さを全く感じさせないこの空間。何も知らない僕は、現地ではここ10年くらいにリニューアルしたのだろうとばかり思っていました。
僕の生まれる5年も前からこんな地下街があったなんてビックリの一言。東京にもこんなおしゃれな地下街なんてありません。新宿のサブナードなんて・・・。博多、すごいなぁ。
寒さ知らずの地下街をのんびり歩き、キャナルシティ方面へ。地上へと出ると、空は再び雪雲に覆われ、ちらほらと白いものが舞い落ちてきます。
空から舞い落ちる白い雪と、川辺に植えられたパンジーの花。雪雲の合間から顔をのぞかせる太陽が川面を煌めかせ、何となく季節感を失うような不思議な光景に目を奪われます。
寒風に追い立てられそそくさとキャナルシティの中へ。今日のお昼の舞台である、『ラーメンスタジアム』に到着。こちらには博多のお店を中心に、鹿児島、北海道、富山などのラーメンのお店が集まります。
本来なら、博多の街をブラブラして美味しそうなお店を見つけるつもりでしたが、何しろこの雪と寒さ。街をうろうろ歩かずともここで選べる、観光客にとってはやっぱりあるとありがたいスタイルのお店です。
いくつかある博多ラーメンのお店の中で、今回選んだのは『初代秀ちゃん』。他のお店はオーソドックスな博多ラーメンとはちょっと違ったものを提供しているようでしたが、こちらはしっかり豚骨の博多ラーメンを食べられそうな雰囲気。
しばらく待っていると、お待ちかねのラーメンが登場。今回注文したのは、一番シンプルなラーメン零号。油が結構浮いており、薄いベージュ色をしたスープも濃厚そう。
初の本場の博多ラーメンに期待を膨らませ、まずはスープをひと口。熊本、別府で食べたのとはまた違ったタイプの豚骨スープであるとすぐさま実感します。
僕らが豚骨ラーメンといってイメージするこってりさ。それでも、油っぽそうな見た目に反し、クドくなくすんなり飲める美味しいスープ。豚骨の風味もしっかりするのですが、臭みはやはりゼロ。とろみのあるスープは胃に優しく浸みわたるよう。
麺もこれぞ、という細麺。小麦粉を感じる低加水麺は、濃厚なスープとの相性抜群。このスープにはこの麺しかない。つるつるもちもちは合わないでしょう。コシのある細麺がスープをしっかりと口まで連れてきます。
いやぁ、恐ろしいほど美味しい九州の豚骨ラーメン。熊本、別府、博多と3か所、計5軒で食べましたが、それぞれ特徴があり、同じ豚骨でも全くの別物。どのお店もスープと麺のバランスが絶妙で、それぞれのお店の一杯がひとつの完成形とも思えるラーメンの数々。
東京では決して好きなジャンルでは無かった豚骨ラーメン。本場に来てみて、初めて心から旨いっ!と思え、惚れ込んでしまいました。その分、帰ってからの豚骨ラーメンのハードルがさらに上がるんだよなぁ。
本場で美味しいものを味わえば味わうほど、東京で食べるなんちゃってが身に浸みる。旅、そして食を趣味にする者にとっての宿命なのでしょうか。
13年ぶりに訪れ、その時以上に満喫した今回の九州旅行。熊本、大分、福岡。この3県で出会った旨い物率はなんと驚きの100%!打率10割なんて、九州恐るべし。
大人になってから初めて訪れ、これだけ美味しい思いをしてみると、やはり欲が出るというもの。今回巡ったのは3県のみ。残りの佐賀、長崎、宮崎、鹿児島にも、絶対、絶対に旨いもの、旨い酒が溢れているはず。
そう遠くない将来、絶対この地へ舞い戻ってきてやろう。そんな強い欲望に、思わずシャッターを切る手にも力が入ってしまうのでした。
残すは東京までの長い道のりのみ。静かな午後の車内で、最後の九州グルメを楽しむこととします。
博多駅直結のお土産屋さんで色々お土産を選んでいるときに手に入れたこの2つ。炙りめんたいと燻製明太子。見ただけで分かりますよね、そう、飲む気満々です。
炙りめんたいは食べきりサイズで車内のおつまみにピッタリ。表面はしっかりと炙られていますが、中は半生、一番おいしい状態。食感の違う粒々を楽しめば、お酒が進むこと間違いなし。
燻製明太子は、カラスミ屋さんがカラスミの製法でギュッと明太子の旨味を凝縮したもの。ぎっちり詰まった粒、ひとつひとつに込められた旨味と香ばしさ。日本酒片手にちびり、ちびりとやるのに最適の、まさに飲兵衛泣かせの逸品。
そんな旨い明太二品に合わせるのは、やはり日本酒。まずは福岡県の大刀洗町は井上合名会社の三井の寿純米酒。可愛いかえるのラベルが目を引きます。すっきりとしつつも甘味や酸味のバランスが良く、とても飲みやすいお酒。
のぞみはあっという間に関門トンネルを抜け、本州へと上陸。まだまだ道のりは遠いというのに、本州に戻ってきたというだけですでに寂しさを覚えます。美食の宝庫九州が・・・。時速300kmで僕の背中のその先へと遠ざかります。
新幹線は猛烈なスピードで、僕のことを東京へと引き戻しに掛かってきます。そんな力になんか負けないぞ!と、もう一本、福岡の日本酒を。こちらは昨晩も飲んだ喜多屋の寒山水。辛口のお酒が明太のつまみにバッチリと合います。
明太ちびちび、日本酒ちびちび。それでもやっと広島に着いたくらい。でも、この遠さを実感させてくれる陸路も悪いものではありません。
岡山を過ぎたあたりで最後の九州グルメを開けることに。博多駅でちゃっかり見つけちゃったこのお弁当。こんなの売るなんて反則です。
蓋を開けると、ドン!と鎮座する芋焼酎のボトル様。石の蔵からと名付けられたこの焼酎は、見た目からして旨そうな琥珀色に色づいています。霧島山系の天然水で割水しているので、日本酒と同じくらい、ちょうど良い度数になっています。
その名も「酔 旅情弁当」というこの駅弁。九州新幹線全通1周年を記念して博多の奈加川が調整するもので、博多の折詰と薩摩の折詰の二段に分かれています。これ、どんな飲兵衛が考えたんだよ!とつっこみたくなるほど、呑み助の心が分かっています。
手前が博多の折詰。中には玉子焼、明太子、とり天、穴子の押し寿司、青菜の粕漬け(わさび漬けの青菜版のようなもの)、がめ煮といった、福岡名物やお弁当には欠かせないおかずが入っています。
奥が薩摩の折詰。こちらの方が郷土色が強く、さつま揚げ、きびなご天、豚角煮、さつまいもといった鹿児島の味の他に、ひとくちカツや俵むすびが入っています。
それぞれに合う調理法、味付けが施され、どれを食べてもきちんと美味しい。蔵で寝かせたまろやかな焼酎と合わせれば、箸と猪口を交互に口へと運びたくなります。
そして最後にご飯だけでも美味しく食べられるよう、穴子寿司や高菜巻、じゃこ梅といった味付けご飯にされているのも嬉しいところ。量、味共に酒好きのためを考えたといっても過言ではありません。
最後の最後にドンピシャの駅弁に出会い、寂しさも紛れる帰り道。おかずをひと口、焼酎をひと口。気が付けば、姫路を過ぎ、新神戸を過ぎ、新大阪を過ぎ、京都を過ぎ。そうやって、最後の最後まで旨いもの、うまい酒で幕を閉じることができたこの九州旅行を、弁当や焼酎と共にちょっとずつ思い出にと飲み込んでゆくのでした。
気が付けば、名古屋の手前でお休みモード。目が覚めた時は新横浜手前。もう間もなく、この旅も終了。それでも、いつも感じる寂しさは不思議と感じない。逆に、広い九州に手を付けてしまったある種の怖さ、それでいて得も言われぬ満足感に、心は十分に満たされるのでした。
さぁ、残り半分、どうやって攻略してやろうか。いや、この3県だってまだ齧っただけだ。北海道、東北と共に、僕のお気に入りの土地となった九州。これから長い時間を掛けて通ってみたい。その野望、展望を胸に、品川のホームへと立つのでした。
ありがとう、熊大福。また絶対に、行ってやる!!帰京後は、その日を夢見て飲む焼酎が異常に旨く感じるようになったのでした。
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