止まぬ感動ヤーヤドー ~やっぱり逢いたい、ここの夏。6・7日目 ③~

E6系こまち角館入線

盛夏の緑に包まれた武家屋敷と、夏の装いのがっこ懐石を楽しませてくれた角館ともお別れの時間。秋田新幹線こまちに乗車し、一路岩手県を目指します。

秋田新幹線車窓に広がる夏の緑の田んぼ
こまちは角館を発車し、田沢湖までは緑のまぶしい田んぼの中を走ります。

勢いよく茂る稲の葉を揺らす夏の風。この躍動がガラスを越えて伝わるような車窓こそが、僕にとっての夏の車窓。これを味わいたいがために、毎年こうして夏の東北を大移動してしまうのです。

こまちから眺める秋田杉の美林
田沢湖を過ぎると、線路は山の懐へと挑み始めます。車窓を彩る夏の空と、秋田杉の深く美しい森。秋田内陸縦貫鉄道から続いた針葉樹を中心とするこの眺めももうすぐ終わり。秋田との別れが名残惜しく感じます。

田沢湖線雫石駅
日本の背骨を越えて走ること40分、こまちはこの旅最後の目的地である雫石駅に到着。秋田新幹線の中でも停まる列車は限られているので、訪れる場合は時刻表を要チェックです。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな
雫石から事前にお願いしておいた宿の送迎車に乗ること15分程度、今宵の宿である『ロッジたちばな』に到着。(HPを開くと音が出ます。)車で行く方は近くに小岩井農場やスキー場もあるため、観光にも便利な立地です。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな客室
早速チェックインし、部屋へと向かいます。洋室と和室が選べますが、僕はもちろん和室を。窓の外は夏の日差しとそれに照らされ輝く緑に溢れています。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな内湯
浴衣に着替えて早速お風呂へ。こちらは玄武温泉という温泉だそうで、見ての通り濃い温泉。鉄分やミネラルなど豊富な成分を含んでいそうな見た目と香りがとても印象的。

このような温泉には何度か入ったことがあり、そのどれもがキュッキュというような感触だったため、きっとここもそうなのかなと思いつついざ入湯。すると思いがけず肌にしっとりと吸いつくような意外な浴感。見た目とは裏腹に肌馴染の良い、優しい印象を受けます。

でもそこは成分の濃い温泉。調子に乗って長湯してはいけないタイプの、体の芯へと沁みてくるような力を感じます。ナトリウム-炭酸水素・塩化物泉のため温まり方も強く、湯上がりになかなか汗が引きません。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな露天風呂
そしてこちらが露天風呂。窓の外には川が流れ、その崖には温泉の名の由来にもなったであろう柱状節理を望むことができます。

が、このときは夏真っ盛り。ということは、アブちゃんの季節。やはりいました、アブちゃんたち。そのため写真はこれ一枚、日中の入浴もほんの1分で退散しました。あぁ、アブ恐い。だから夏の旅は内湯の良さそうなところを選んでいるのです。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな湯上がりに冷たいビール
露天風呂は諦めましたが、広々とした内湯でのんびり味わう玄武の湯。色と香り、浴感を充分に楽しみ、体の芯から火照ったところで部屋へと戻ります。

そして開けるはもちろんビール。冷たい一番搾りを、豊かな夏の岩手の緑を眺めながら喉に流す悦び。この幸せも今夏はこれで最後。行く夏を惜しむかのように、ビールの苦みの余韻を味わいます。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな夕食
温まりやすい温泉のため短い入浴を何度か楽しんだところで、お待ちかねの夕食の時間。こちらの女将さんは野菜ソムリエだそうで、美味しそうな野菜を使った品々が目を引きます。

夏らしいトマトはコンポートにされ、下にはしっかりトマト味のゼリーがさわやか。好物のミズは程よい味付けで和えられ、その味わいとシャッキリ感がとてもよく活かされています。

瓜やなすは煮物や揚げびたしにされ、噛めばじゅわっと美味しいだしが溢れてきます。酢の物にはシャキッとした瑞々しいきゅうりとわかめ、そして北寄貝。お酒で火照った喉に心地良い酸味が嬉しい。

焼き魚は鮎の塩焼き。最近は岩魚ばかり口にする機会が多かったのですが、久々に鮎を食べ、あぁ旨い!とお酒がどんどん進んでしまいます。

そして驚いたのがほたてと甘エビのカルパッチョ。魚介がしっかりと美味しいのもそうなのですが、何に驚いたって、掛かっているソースの美味しいこと。女将さんに聞いたところ、そのまま食べるには硬いトマトを使っているそうなのですが、そのトマトが普通と違うのでしょう。

僕も普段カルパッチョなどにトマトを使うことがありますが、どうしても水っぽくなったり、崩れてソースと一体になり過ぎたりと、トマトの主張が強すぎる場合が多いのです。でもこのトマトは、フルーティーさや甘味、旨味はありながら、ソースに溶け込みすぎていない。いい意味で独立、その存在感を保っているのです。ソースの一員ではなく、具のひとつといった感じ。

そしてその美味しいトマトと魚介の繊細な甘みを最大限に活かす、オイルと塩分、酸味の調和の取れた味付け。これは僕には絶対にまねのできない味。もうこのカルパッチョだけでも雫石まで来た甲斐があった。そう思うほど、僕好みの味。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな天ぷら
美味しいお料理に舌鼓を打っていると、揚げたて熱々の天ぷらが運ばれてきました。こちらもお野菜がとても美味しく、特にいんげんの食感と風味は夏を強く感じさせてくれる旨さ。

そして驚いたのが一番手前のきくらげの天ぷら。僕もたまに生きくらげを使いますが、これを天ぷらにしようという発想自体ありませんでした。一口噛むと、サクッとした衣の食感の後に来る、コリッとした特有のあの歯触り。きくらげって、天ぷらもいけるんですね。

雫石玄武温泉ロッヂたちばなひっつみ鍋
そしてこちらは岩手名物ひっつみをお鍋仕立てにしたもの。まいたけ、白菜、にんじんといった野菜から出る旨味をひきたてる、丁度よい塩梅の優しいお出汁。それを程よい食感に煮えたひっつみがよく吸い、腹の底に染み入るようなほっとする優しい旨さ。

あぁ満足。旅先で美味しい野菜が食べられるって、本当に嬉しいこと。魚介たっぷり、お肉がドン!という、名物を前面に押し出した献立もいいのですが、こういう野菜メインのお料理は、新鮮で美味しい野菜が手に入る土地でしか味わえない贅沢。やっぱり僕は野菜が好きだ。そう今一度実感させてくれる、大満足な夕食でした。

雫石の夜のお供に出羽鶴夢小町
一杯になったお腹を落ち着け、再びお風呂へ。夕食時に女将さんが露天で蛍が見られるかもしれないと教えてくれたので、アブに怯えつつもいざ露天へ。

すると、先客の方がほら!あそこ!と指差した先には、淡い光を放つ一匹の蛍が。蛍を見るなんて、人生何度目、何年振りだろう。それもこうして温泉に浸かりながら見ることができるなんて。

こんな贅沢、あるのだろうか。すっかり涼しくなった夜風に当たりながら、やんわりと点滅する光を眺める。生命の神秘に触れ、ただ、ただ、感動のひと言。しばらくすると、その光はふっとどこかへと飛んでいってしまいました。

その姿を追おうと目を空へと向けると、そこには何かの見間違いではなかろうかと思うほどの、文字通りの満天の星空が。それほど標高も高くなく、町にも程近いこの地でこれほどの美しい星が見られるなんて。感動に次ぐ感動で、僕の心は飽和寸前。あの美しさは今でも忘れられない思い出です。

蛍と星、無数の光を目に焼き付け、その余韻を地酒片手に味わいます。そんな夜のお供にと選んだのは、出羽鶴の夢小町純米酒。食米であるあきたこまちを使ったというこのお酒は、変に残る後味もなく、すっきりと穏やかな印象。僕のこの6日間の火照りまでをも、ゆっくりと流し去ってゆくよう。

雫石玄武温泉ロッヂたちばなで迎える夏の朝
夏油に須川、見上げた空に息を呑む経験は幾度かありましたが、それに並ぶほどの感動を与える星空、そして蛍の競演。そんな幻想的な一夜が明け、いよいよこの旅最後の朝を迎えました。窓の外には短い夏を謳歌するように茂る緑と、夏の青空。東北の夏、僕の夏。

雫石玄武温泉ロッヂたちばな朝食
よく温まる温泉で目を覚まし、お腹もすっかり減ったところで朝食へ。食卓にはまたまた美味しそうな野菜たちが目を引きます。

特に美味しかったのが、蒸し鶏ともち麦のサラダ。レタスの他にトマトやパプリカ、アイスプラント、ズッキーニがたっぷりと盛られています。それぞれの野菜の持つ味の違いを楽しみつつ、時折感じるもち麦のもちっとした歯ごたえ。レタスはこれでもかというほどジャキジャキで、ひと口ごとにそれぞれの野菜の食感が口の中で踊ります。

胡麻和えや焼き鯖、温泉卵といった和朝食の主役ももちろん美味しく、いやぁ朝から大満足。野菜好きにはたまらん、体も心も元気になっちゃうような朝ごはん。

雫石玄武温泉ロッヂたちばなゆずプリン
大満足な朝食を食べ終えて出されたのが、ゆずソースが掛かったデザート。このゆずのソースが抜群に美味しく、女将さんに伝えたところ自信作なのだそう。苦みを出さないように手間暇掛かっているそうで、その言葉通り口中にゆず!!と風味が広がるのに苦みは全くありません。

美味しいゆずの香りとコーヒーを味わいつつ、女将さんにお話を伺うひととき。野菜がものすごく美味しかったと伝えると、やっぱりここ雫石は美味しい野菜が手に入りやすいのだそう。魚介もさることながら、野菜も鮮度が命。当たり前ですが、久々にそこのことを実感する二食を味わえました。

秋田新幹線雫石駅
個性的な濃い温泉と、美味しいお料理を味わわせてくれたロッヂたちばな。帰りもお宿の方に送迎して頂き、雫石駅へと戻ってきました。

この旅はこれにて終了。本当はこのあと網張温泉に立ち寄り、盛岡で飲んで帰るつもりでしたが、わんこの体調の関係でここ雫石から東京まで直帰することに。

でも驚くほどに包まれる、清々しい、やりきった、楽しみ尽くしたという穏やかな感情。帰る理由が可愛いわんこのためということもありますが、自分にしては珍しく何も思い残すことなくさっぱりと東京へと向かうことができました。

初めて出逢った時から、目に耳に心に灼きついて離れない、弘前の熱いねぷた。僕の夏は、東北の鮮やかな緑と灼ける暑さ、そして心を焦がすねぷたがそろって初めて訪れる。もうすっかり習慣化してしまった、いや、中毒になってしまったというほうが、正しいのかもしれない。

ここまで来たらとことん通ってやろう、夏の東北、弘前のねぷたへ。飽きるまで、ずっとずっと。でも僕には自信がある。飽きることなど、あるはずが無い。それだけの魅力が、夏の東北にはぎっちりと詰まっているのだから。

今年もこうして終わった、僕の夏。4年前の衝撃的出逢いそのままに、僕の感動は止むことを知らない。

心にヤーヤドーが響き始めれば、それが旅の支度の合図。毎年簡単にはいかないけれど、万障を排し晴れて旅立てる瞬間の、何とも言えぬ高揚感。そして夏を謳歌すべく組んだ旅程を味わい尽くし、燃え尽きる。いつしかそれが、僕の夏になってしまった。

ヤーヤドーの気配に始まり、ヤーヤドーの余韻とともに終わる僕の夏休み。他の地でどんなに良い夏を味わっても、やっぱり逢いたくなる、どうしても逢いたくなる、東北の夏。

さて来年は、どんな東北の夏を味わってやろうか。止まぬ感動がまたきっと僕を呼ぶだろう、ヤーヤドーの掛け声で。

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止まぬ感動ヤーヤドー~やっぱり逢いたい、ここの夏。~
2016年、ねぷた終了。
2016.7-8 青森/秋田/岩手
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