熱い夜祭から醒めた朝。今年もここ弘前とお別れの時が。2匹並んで風に揺れる金魚ねぷたに別れ、いや、再訪を誓い、ホテルを後にします。
今年もこうやってまたねぷたを見られた。ということは、来年も絶対にまた訪れることができるはず。そう思っても、やはり去り際の未練は拭い難いものがあります。
この日の出発は早めの時間。去年食べた市場のラーメンを朝食にしたかったのですが、あいにくまだ開店前。コンビニやファミレスで適当に済ますのも寂しかったので、駅で駅弁を買って朝食代わりにします。
岩木山の見える弘前駅のルーフデッキに陣取り、早速駅弁を開けてみることに。今回は地元弘前の大和家が調製する、いかづくし海苔弁当を購入。奥にじょっぱりが見えるのはご愛嬌。だって、昨日は地酒飲めなかったんだもん。最後の津軽の酒、朝から頂きます。
蓋を開けると、文字通りいかの存在感バッチリ。前回食べてとっても美味しかったいがメンチは、今回も変わらずの美味しさ。硬いイメージのあるいかのてんぷらも、プリッと噛み切れる適度な歯ごたえ。奥のいか焼きはこれぞいか!というシンプルな美味しさ。
これだけいかづくしでも、それぞれ違う美味しさがあるので飽きません。青森のいかは本当に美味しい。みずと白滝の炒め煮や赤かぶの漬物も良いアクセントとなり、最後の旨い津軽の味覚を楽しみました。
岩木山を眺め、朝の爽やかな風に吹かれつつ楽しんだ、朝食と朝酒。この2泊3日、存分に津軽と満喫し、青森県を後にします。
今日はひたすら移動の一日。青森県から山形県へ。接続の悪いこの区間を乗り継ぐため、飲まず食わずを覚悟しての鈍行列車の旅が始まります。
じょんがら節に見送られ、列車はゆっくりと弘前駅のホームを滑り出します。溢れんばかりの津軽の夏景色が、弘前への未練を断ち切るように車窓を流れ去ってゆきます。
列車は県境を越え、終点の秋田県は大館駅に到着。初めて降り立つ大館駅。きりたんぽの本場とも言われるこの地ですが、今回は駅前をちらりと見るのみ。
乗り継ぎに余裕が無いため、駅前の広場に出てみます。そこには立派な犬の銅像が。天然記念物、日本で唯一の大型犬種である秋田犬の産地として知られる大館らしく、秋田犬の可愛い親子が出迎えてくれます。
そして、秋田犬で大館と言えば、のハチ公像。渋谷のあのハチ公は、ここ大館が故郷。
馴染のあるハチ公を遠い秋田で見る不思議な感覚。故郷から遠く離れた東京で主人を待ち続けたハチ公の健気さに、ふと切なさがよぎります。
大館からは再び普通列車に乗り継ぎ、2つ目の列車の終点である秋田駅に到着。改札では、立派な竿灯が出迎えてくれます。
このときは、秋田は竿灯祭りの真っ最中。本当ならば、ホテルさえ取れれば竿灯も見るはずだった。ねぷたからの竿灯、花笠、七夕。僕の願う祭のはしご。いつかは実現してみせます。
秋田からは奥羽本線を外れて羽越本線に乗り換え。日本海側を南下し、一路山形県を目指します。この羽越線、これまで今は亡きあけぼの号で通ったのみ。日中にしっかりと景色を楽しむのは、これは初めて。
鉄路はどんどん海岸線へと舵を切り、車窓の大半を日本海の大海原が占めるように。晴れた日の夕刻には、それは素晴らしい夕日が観られることでしょう。きらきらうえつやいなほ、乗ってみたいなぁ。
列車は秋田県を抜け、山形県へ。海が見えなくなると、今度は反対側の車窓に雄大な山容が広がります。山形の名峰、鳥海山。出羽富士の名に恥じない優美な裾野が印象的。
3つ目の列車の終点、酒田駅に到着。ここで羽越本線と別れ、陸羽西線に乗車します。酒田と新庄を結ぶこの陸羽西線、とにかく本数が少ない。この快速最上川は貴重な直通列車であるためか、既に多くの乗客が乗り込んでいます。
奥の細道最上川ラインの別名を持つ、陸羽西線。その名の通り、しばらくすれば車窓には最上川の雄大な流れが。ディーゼル機関の小気味よい振動と音が、旅情を一層駆り立てます。
朝9時過ぎに弘前を発ってから6時間近く、ようやく新庄駅に到着。いやぁ、遠い遠い。そして、腹減ったぁ。
実は秋田駅で駅弁を買うかどうか最後の最後まで悩んだのですが、道中の列車のほとんどがロングシートのため、結局は買わずに諦めてしまいました。
それが大きな判断ミス。羽越線の中盤あたりで、僕の空腹に追い打ちを掛けるように、前に座っている人が駅弁を食べ始めてしまいました。あぁ、ひもじいよぉ。特急で飲んで食べて、したかったよぉ。
それでもここまで来たら、我慢我慢。宿の美味しい食事まであと少し。湯とメシを心待ちにしつつ、今度は陸羽東線に乗車。4年前のやはり暑い夏、いとこと乗ったことが昨日のように思い出されます。
ディーゼルカーはエンジンの唸りを高めつつ、山形盆地を捨てて日本の背骨、奥羽山脈へと挑み始めます。山に挟まるようにして並ぶ田んぼを眼下に眺めつつ、列車はグングンと登ってゆきます。
ここまで来たら、今宵の宿のある瀬見温泉駅まではもう少し。それにしても、遠かった。それもそのはず、北東北から南東北まで縦断してきたのです。
でも何故、今回は酒田経由の遠回りをしたのか。それは、単純に列車の乗り継ぎが非常に悪かったから。最短で結ぶ奥羽本線はでは秋田と山形の県境を越えられず、羽越線の特急も時間が合わず。この歳にして青春18きっぷのような旅をするとは思いませんでした。
旅は移動もその楽しみのひとつ。途中に味覚も挟みつつ、ゆとりを持って移動したいもの。そこは今後の行程づくりに活かしていくことにします。
そんなハードなスケジュールを組んでまで訪れたかった、瀬見温泉。僕はどうしてもここ、いや、お目当ての宿に連泊してみたかった。だからこそ、駅弁も地酒も我慢してここまでやってきた。
そんなお宿との対面までもう間もなく。この旅最後の目的地への到着を、心もお腹も待ちわびるのでした。
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