暑い夏と熱い温泉を心から愉しんだ後は、お待ちかねの夕食の時間。テーブルには美味しそうなお料理が並び、食べる前から期待が膨らみます。
まずは前菜の旬菜五点盛とお造り。前菜は色々な美味しさを少しずつ楽しめ、特にばくらいがとっても美味。初っ端から飲兵衛心を揺さぶられます。
そして注目はお造り。まぐろやかんぱち、ほたて、サーモン、それぞれもちろん、美味しいんです。山の中とは思えないほど。
ですが、テーブルに着いた時から僕を捕らえて離さないのが、奥に鎮座するがぜうに。むらさきうにを半分にぱっかりと割ったその断面からは、見ただけで旨いと分かる新鮮さがビンビンと伝わってきます。うにの旬に来て良かった♪♪♪
山の宿に来てこんなに美味しい海の幸が食べられるなんて。思いがけない展開に、早くも嬉しさと飲みたさが爆発寸前。そして今回申し込んだプランは、利き酒プラン。その主役が運ばれてきました。
2種の利き酒プランがあった中で、僕が頼んだのは地元宮城の地酒を楽しめるというもの。日高見、乾坤一、伯楽星、綿屋、浦霞。どれも純米系の、どれも好きなお酒ばかり。同じ刺身でもお酒を変えれば印象が変わる、そんな楽しみ方をできるのも、利き酒セットの良いところ。
美味しいお酒とお料理に飲むペースが早まってしまわないよう、落ち着いて食事を楽しみます。そんな優雅な夕食を彩るのが、この建物。昭和初めに建てられたこの部屋の窓から射し込む、夕方の陽の光。長閑な景色の移ろいを眺めながらの食事は、お酒を一層美味しくしてくれます。
続いては、冷たい南瓜スープ。ミルキーなスープの下にはかぼちゃのすり流しが沈んでおり、夏らしいさっぱりとした程よいかぼちゃ感を楽しめます。
お次はトマト釜グラタン。焼き立て熱々を持ってきてくれます。フレッシュなトマトの中には、ほたてやえびといった魚介ときのこが。トマトを崩しながら食べれば、程よい酸味で味が変化します。
こちらのお宿は日本酒こだわりの宿。そう謳うだけあり、出された5種のお酒はどれも美味しいものばかり。ここで日高見をおかわりし、じっくりと流れる時間を楽しみます。
視線を上げれば、温かみのある白熱灯に照らされた、飴色に光る天井。日本家屋の優しさが、夕暮れ時をより豊かな時間に変化させます。
こちらは太刀魚の野菜餡かけ。ふっくらと揚げられた太刀魚に、にんじんやごぼう、竹の子のしゃきしゃき感と風味が良く合います。味付けも丁度良く、濃すぎず薄すぎずの塩梅。
続いては、ローストビーフとフォアグラの鍬焼き。添えられているのは、枝豆を潰したずんだです。ちょっとだけ濃いめのソースを纏ったお肉にずんだを付ければ、お肉の脂とソースの美味しさ、そしてずんだのコクが加わり、お酒にもってこい。
和洋折衷、色々な美味しさで楽しませてくれる、こちらのお宿の料理。最後の一杯にと、宮城で一番のお気に入りの伯楽星をおかわりし、のんびり箸を進めます。
食べ始めた時はまだまだ明るかった外も、もうこの薄暗さ。外の光が失われるのに反比例して増す、この部屋の持つ温かみ。贅沢、その言葉が自然と思い出されます。
木造旅館の温もりに包まれつつ食事を進めていると、また次のお皿が運ばれてきました。献立で酢の物と書かれ、登場したのはまるごとの大きな岩がき。もうどこまで僕を喜ばせれば気が済むのでしょうか。
殻の大きさに負けないほど、パンパンに詰まり輝きを放つ身の美しさ。レモンをきゅっと絞り、思いのたけを込めてひと口で頬張ります。口中に広がるのは、海の恵みと幸福感。幸せ、ただそれだけ。
ここまでも結構なボリュームですが、まだお鍋もあります。塩ベースの鶏鍋は、鶏から出ただしをキャベツやネギといった野菜が吸って、お腹一杯でも食べられる優しい美味しさ。
美味しいお料理とお酒を堪能し、ここまでですでにお腹は一杯。そして最後に出てきたのは、これまた美味しそうな玉蜀黍御飯。バターで風味付けされ、このままでも、お漬物とでも、そしてお味噌汁とも合う美味しさ。しゃきしゃきプチプチのとうきびの食感が楽しく、ついつい完食してしまいました。
全てにおいて大満足の夕食。お料理とお酒、それぞれがどれも美味しく、お世辞抜きにまた泊まりたいと思えるお料理でした。
そしてそんな楽しい食事を、より印象深いものにするのが、やはりこの建物。飴色の天井、緻密な細工の欄間や障子が光を受けて輝く姿は、大切にされながら時を経てきた証拠そのもの。艶っぽさを存分に感じるこの空間で、大満足の夕餉を楽しませていただきました。
パンパンのお腹を抱えて部屋へと戻ります。窓の外には、色彩を失いシルエットのみになった、青根の山が横たわります。僕もそれに倣いしばしのんびりタイム。食後のこの時間こそが、自分で後片付けをしなくても良い旅先の醍醐味のひとつでもあります。
やっとお腹が落ち着いたところで、再びお風呂へ。こちらはもう一つの貸切風呂で、リニューアルしたてなのでしょうか、新しさを感じます。
木の枠と石張りの浴槽に湛えられた、青根の熱いお湯。ゆっくり、のんびりと浸かってゆけば、体の内から外から、宮城に癒されていきます。
蔵王の麓で過ごす、静かな夜。そんな夜のお供に選んだのは、地元宮城県は白石市の蔵王酒造が造る、蔵王特別純米。水のきれいさを感じさせるようなすっきりとした飲み口で、くどくない後味と程よい辛さが僕好み。
蔵王の恵みを肌で感じ、舌で味わう幸せな時間。本館の建物見たさに宿泊を決めたこのお宿でしたが、それ以上に感激させてくれた、旨い酒と旨い料理の数々。初めての青根温泉は、こうやって僕に豊かな思い出の1ページをくれたのでした。
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