日もだいぶ翳り、お腹も空いたところでお待ちかねの夕食の時間。部屋のある本館から、会場のある別館へと移動します。この別館も歴史ある建物で、大正から昭和にかけての建築だそう。飴色に光る廊下が、湯治場で迎える夜を盛り上げてくれます。
この日は個室が用意されていました。僕ひとりにはもったいないほどの広さ。時を経た重厚な和室に、落ち着きと郷愁を覚えます。
まずは手前のお皿から。わかめ入りの玉子豆腐はだしのきいたつゆがはられ、夏に嬉しいさっぱりとした喉越しと美味しさ。大ぶりなサーモンは、イタリアンドレッシングが掛けられカルパッチョ風に。
奥に見えるのは僕の好物、鮎の塩焼き。山の温泉旅に出かけると、行程中何度も川魚の塩焼きを食べることになりますが、何でこうも飽きないのでしょう。川魚、旨いなぁ♪
こちらも川魚、鯉。あらいではなく、昆布〆にされています。身の横に添えられているのは、鯉の皮の湯引き。
って、鯉の皮!?それだけを湯引きで!?初めての対面に、もうわくわくが止まりません。早速箸でつまんで味噌に付けひと口。コラーゲン質のふるふるとした食感は弾力の無いふぐ皮のような印象。臭みは全くなく、驚くほど上品で控えめな美味しさが広がります。
昆布で〆られた身はあらいとはまた違った食感で、凝縮された鯉の魅力がしっかりと詰まっています。何だよ、鯉~♪そこら辺のお刺身を優に超える旨さじゃん!!
これまで食べた鯉の刺身の中で最上級に好みの味に、テンションは早くも最高潮に。そこでタイミングよく、注文した日本酒が到着。山形と言えば、の初孫です。きりりと冷えた初孫が、色々なものに火照った喉を冷やしながら、食道へと下りてゆくのが気持ちいい。
冷酒で落ち着いたところでふと視線を上げれば、欄間に飾られた立派な絵が目に入ります。部屋全体を包むセピア色。この空間で、旨い地のものと共に酒を飲める幸せ。造りものでは無い本物の古さに、心の芯から平穏に包まれてゆきます。
続いてからりと揚がったてんぷらを。さくさく感を抹茶塩で楽しみます。
こちらは板そば。これぞ田舎そばというような黒めの色が食欲をそそります。しっかりと締められたそばは、つるつるしこしこ。山形らしく紅花が添えられたとろろと共に、一気に啜ってしまいました。
そしてこちらは牛の陶板焼き。焼きたて熱々を頂きます。
お酒を飲みながらの僕にはここまででも結構なボリューム。お肉、お魚、そばなど色々な美味しさを楽しめる満足な内容です。
でも、折角の初山形ひとり旅。そう思って今回は二晩とも珍しく別注料理を頼んでいました。
今夜はもくず蟹鍋。小さい頃からその存在は知っていましたが、根拠のない先入観があったので、対面して何となくどきどきします。
早速ぐつぐつと沸くおつゆをひと口。瞬間、蟹の旨味が頭の芯へと突き抜けます。こんな書き方をするとオーバーに感じるかもしれませんが、その旨味の強さはかなりのもの。これまで蟹として慣れ親しんできた風味のうち磯臭さが無いため、蟹の旨味とコクがダイレクトに伝わってきます。
味噌仕立てのつゆに存分に溶け出たもくず蟹のだし。その旨味を一緒に煮込まれた具材が思いっきり、思いっきり吸い込み、全てにその美味しさが行き渡っています。最後に頂いたご飯につゆをすべて残らず掛け、最後の最後までその美味しさを堪能してしまいました。
もう大満足な夕餉。特に淡水の魚介の旨さをしみじみと味わう夜となりました。初めての出会いである、鯉の皮やもくず蟹。これらがこんなに旨いなんて。
美味しい海の幸はランチでも、居酒屋でも、現地に行けばそれなりに食べられます。ですが、山菜や川魚などは、やっぱり宿に泊まってなんぼ。
やっぱり山の温泉はやめられない。美味しい食事の余韻に浸りつつ、今一度山の恵みに惚れ直すのでした。
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