平泉から東北本線に乗車し、今宵の宿のある花巻駅に到着。この駅に降り立つのはもう何度目のことだろう。来たいと思えば来ることができる。ここへ立つ度に、再訪の喜びを噛み締めます。
いつも通り、花巻駅から『岩手県交通』のバスに乗車。ただ今回は、これまで乗ったことの無い初めての行先のバスに乗ることに。
夏の夕方、傾き始めた太陽に照らされる青い田んぼ。まだ見ぬ初めての温泉に思いを馳せ、のんびり流れる車窓を眺めます。
バスに揺られること約30分、初めて訪れる台温泉に到着。花巻の有名な温泉地と言えば花巻温泉ですが、この台温泉は大型ホテルの建ち並ぶ花巻温泉のすぐ近くに位置しながらも、静かな雰囲気に包まれた昔からの湯治場の歴史を感じさせます。
落ち着いた街並みの台温泉を半周したところで、今夜の宿である『中嶋旅館』に到着。山の斜面に沿うようにして建つ、木造四階建ての立派な建物が印象的。
早速チェックインし、お部屋へと向かいます。今回は通常プランで予約しましたが、通常のお部屋でもこの立派さ。きれいに維持されていることもさることながら、障子の美しい細工に目が行きます。
お部屋は二間続きで、ひとりで使うにはもったいないほど。
実はここの旅館も建物に惹かれて予約しました。立派な木造建築ですが、この建物自体が戦時中に宮大工によって建てられたものだというから驚き。大浴場の入口に飾ってあった新聞を見て初めて知りましたが、物資の無い戦時中にこれほどの建物を建てられたこと自体が奇跡的なことでしょう。
その記事によれば、戦後GHQに接収された際も土足での使用を禁じるなど、この建物を守ろうという強い思いがあったからこそ、これほどきれいな状態で保たれているのでしょう。随所随所に歴史を感じさながらも、古臭さは全く感じさせません。
重厚な雰囲気の廊下を進み、早速お風呂へと向かいます。こちらの宿のお風呂は、半地下に位置する瑞岩乃湯。ここに天然岩風呂と大理石風呂の2つの浴場が隣接しています。
浴室は脱衣所よりも更に下に位置し、扉を開けた時の印象は地底湖のよう。岩をくり抜いて作られた浴場は洞窟のような雰囲気で、独特の風情に包まれています。
岩盤を掘って造られた浴槽は場所により深さが違い、一番深い場所だと大人が立って入れるほど。自分好みの場所を探し、のんびりと浸かります。
掛け流されるお湯は無色透明の硫黄泉で少々熱め。肌に触れるとぬるっとした感覚があります。湯気の立ちこめる地下の神殿のような不思議な空間に身を委ねつつ、お湯と空気感の両方を楽しみます。
花巻の山奥にひっそりと佇む、立派な建物と神秘的な温泉。初の台温泉に触れ、また新しい花巻の魅力を見つけるのでした。
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