盛岡からバスに揺られること2時間15分、今年も夏の弘前に到着。去年とは違い、暑い熱い夏空が迎えてくれます。さあこれから二夜、熱いねぷたが待っている。そう思うだけで、僕の心は昂ります。
ホテルへと向かう道すがら、早速待機場所へ移動中のねぷたを発見。早くも今宵の熱気の予感を思わせる光景に出合い、日暮れが待ち遠しくなります。
ホテルに荷物を降ろし、祭の前の腹ごしらえ。今年も『けん太居酒屋』にお邪魔することに。
まずは大好物、ミズを注文。今回は水物で頂きます。水物とは、昆布を入れた塩水に浸したもの。そのシンプルな味付けだからこそ感じる、ミズの瑞々しさと旨さのひとつであるぬめり。東北に来たらミズ。好きすぎます。
続いては、嶽きみのてんぷら。薄く衣をまとった嶽のとうきびは、揚げれば極上のしゃきしゃき感と溢れる甘味と瑞々しさ。有名な嶽きみですが、本当に甘いのですね。夏ならではのご馳走。
続いて今年もほやの刺身を注文。水物にも惹かれましたが、やはり新鮮なほやは刺身でいきたい。
全く臭みの無いほやは、ちょっとした独特の風味が特徴。臭みと風味が綯い交ぜになったほやしか食べたことが無かったから、これまでほやは食べられない物のひとつでした。
東北で美味しいほやに出会い、臭みと風味の違いを感じられたからこそ、今では好物に。函館でウニに出会った時もそうでした。現地に来たらひとまず口にしてみる。そうやって自分の食の楽しみの幅を広げていくのも、旅の楽しみのひとつです。
こちらは、なら茸の南蛮漬け。ぬめりを持つなら茸を、地元の清水森ナンバをきかせたピリ辛のしょう油で漬けたもの。このひとつだけで、日本酒何合飲めてしまうのでしょう。飲兵衛には説明不要の旨さ。
続いても呑助メニュー、鮭の切り込み。米麹と鷹の爪で漬けられた鮭はねっとりとした食感で、北海道の飯寿司とはまた違った旨さ。麹と魚が作り上げるこの旨味の塊は、日本酒をどんどん加速させる困り者。
このラインナップで、どれほど津軽の酒を飲んだか想像がつくでしょう。いやぁ、飲んだ飲んだ。
ここのお料理とお酒ははずれが無い。ここ一軒で、津軽の旨いものと旨い酒をすっかり堪能することができる。もし来年も弘前へ来ることができるならば、またここへ来よう。まだ食べることのできていない津軽の郷土料理はたくさんあるのです。
そしていよいよ、熱いねぷたの始まりのとき。津軽じょっぱり大太鼓の大きく力強い音色が、腹の底へと響きます。これからしばらく、夏の夜の夢が乱舞する姿を想像するだけで、全身の血が滾るのを感じます。
大きな太鼓に続き、かわいい金魚ねぷたが登場。本当に金魚ねぷた、好きだなぁ。僕のストラップはもうずっと金魚ねぷた。携帯を見れば、いつもねぷたが思い出されるようにしています。
今回は急遽当日に『弘前国際ホテル』が取れたので、今晩は初めての立ち見。いつもと違った目線で見るねぷたは、これまでとはまた違った角度からその熱気が感じられます。きっとそれは、見ているみんなの姿が見えるから。みんな楽しそうにねぷたを見上げています。
初めての立ち見ねぷたもまた良いもの。人にもまれながら生ビールを飲み、遠くから来るねぷたを見渡しつつ待ち構える。ねぷただけでなく、祭全体の熱気を感じられるのは、立ち見の方が数段上かもしれません。
夜の空に浮かび上がるねぷた。立っている分、その距離感がぐっと縮まったように感じられる。ねぷたが放つ熱気が体を通して心までずんずんと沁みてきます。
夏の夜空を彩る、妖しくも美しいねぷたの鏡絵。このスケールと空気感は、この場で見てこそ味わえるもの。この臨場感の虜になり、また今年もここまで来てしまった。そしてこの瞬間、もう来年も来ることを願ってしまう。僕にとってねぷたは夏に無くてはならないものになってしまいました。
波のように次々と押し寄せる人とねぷた。迫りくる鏡絵を楽しみ、去ってゆく見送り絵を振り返る。椅子に座ってじっくりと眺めるのもいいですが、立ち見だからこそ味わえる熱さにすっかり惚れてしまいます。
今年は二晩じっくり味わえるねぷた。祭の熱さに圧倒された僕は、最後のねぷたを待たずに早めに切り上げます。
今宵はバーでひとり、じっくりと酒を愉しむことに。弘前で出会った、ニッカのアップルブランデー。その美味しさが忘れられず、弘前に来たらどうしても飲みに来てしまう。
りんごの持つほろ苦さと香りが芳醇に漂う、アップルブランデーのロック。氷が溶けゆくさまを見つめながら味わえば、祭のあとの昂りが少しずつ引いてゆくのを感じる。
たまには旅先でこんな夜があってもいい。僕にしては珍しいお酒の飲み方。だけどこれがねぷたの夜には相応しい。弘前のねぷたとりんごの余韻に酔わされ、ホテルに戻り静かに深い眠りへと落ちるのでした。
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