一年振りの熱気を味わった一夜が明け、清々しい目覚め。今回は素泊まりのため、弘前駅の1階にある駅そば『こぎん』で朝食をとることに。
注文したのは、一番シンプルに味わえるかけそば。だしの良い香りに誘われてひと口啜れば、あ、これ。と思い出す独特の食感。
去年の冬酸ヶ湯で食べた津軽そばもそうでしたが、この地方のそばはこしがなく切れやすいのが特徴。かといってのびているわけではなく、口当たりの優しい、そして風味も穏やかな独特のもの。
これは実際食べてみないと分かりません。言葉にするならば、本当に独特、のひと言。
おつゆは焼き干しでとられたものなのか、すっきりとしながらだしの旨味のある美味しいおつゆ。変な甘ったるさもないので、そばの穏やかさを邪魔しません。
津軽のそば、美味しいなぁ。ラーメン、煮魚、そしてこのおそばもそうですが、この地方の味付けは潔い、すっきりとした印象を受けます。素材をシンプルに美味しく食べるために変な小細工はしない。青森に来るたび、食べ物の美味しさに嬉しくなります。
今日は一日中弘前に滞在予定。もう何度か来ている街ですが、こうして街中をのんびり散策するのは、実は初めて来た時以来。
何となく周辺の地理は分かっているので、地図も持たず、予定も立てず、当てもなく足の向くまま歩きます。
そして足が向くのは、やっぱりお城方面。夏真っ盛りのお堀の桜並木は、鮮やかな緑がまぶしく輝きます。
お堀沿いに進み、僕の夏を変えてしまった『津軽藩ねぷた村』の前を通過。すると丁度津軽三味線の実演中のようで、心地良い音色がうっすらともれてきます。
4年前、単なる観光施設のつもりで訪れた、ねぷた村。そこで初めてねぷたと生の津軽三味線にふれ、僕の中の知らないなにかが目覚めてしまった。そんなファーストコンタクトが、三味線の音に呼び起こされます。
4年前のことがついこの間のことのように感じる。時の流れの速さを実感しながら進むと、交差点には歴史の深そうな建物が。その佇まいに誘われ、横の道へと入ってみることに。
落ち追佇まいの街並みを歩くと、道沿いに標識が。どうやらこの辺りには数軒の武家屋敷が残されているようなので、それらを巡ってみることにします。
まずはこちらの旧岩田家住宅。江戸時代後期に建てられた、その当時の姿をよく保ったお屋敷だそう。
門をくぐると、時代を感じさせる渋い建物がお出迎え。深い色に変化した木材からは、時の年輪が感じられるかのよう。
中に入り、係の方の説明を聞きながら中を見て回ります。薄暗い日本家屋の中から眺める庭は、見る人の心をほっと落ち着かせてくれます。
奥へと進むと、天井がはがされ屋根が見える部屋が。木に縄、そして茅といった自然の素材だけで組まれた屋根は、飛騨の合掌造りを思い出させる雰囲気。昔はこういった建築様式が、日本の広い範囲で一般的だったのでしょう。
こちらには板の間に切られた囲炉裏と土間が。かまどの壁には黒いすすが付き、ここで煮炊きをしていた様子が容易に想像されます。
この部屋の屋根は板で葺かれ、ひとつの住宅で屋根のふき方が違うのは珍しいそう。津軽藩の財政状態により、茅葺から板葺に変わったようです。
江戸時代の弘前藩士の暮らしに触れ、次の武家屋敷へと進みます。この一帯は弘前市仲町重要伝統的建造物群保存地区という、昔ながらの生垣や塀、門が残る一角。家は普通のものに変わっていても、この通りは武家屋敷のころの雰囲気を残しています。
続いては、旧笹森家住宅へ。こちらは一見新しそうに見えますが、それは復元されてそれほど経っていないからで、実はこの地区で一番古い建物だそう。
丁度アートのイベントの最中で、各武家屋敷には様々な作品が展示されていました。こちらのお屋敷のものは、写真を絵にするという独特なもの。
何となく絵の視線を感じながらの見学ですが、こちらにも係の方がいて説明をしてくれます。そしてその中で印象的だったのが、この畳の違い。
手前の部屋は玄関から続く客間なので、畳の縁がある。それに対し、奥の部屋は家族の部屋なので、畳の縁は無いのだそう。江戸時代の厳しい財政状況が伝わってくるようです。
特に下調べをしていなかったので、弘前城の北側にこんな街並みが隠されていたことに驚き。これまではお城止まりだったので、あてのない散策で見つけられた思わぬ発見に嬉しくなります。
渋い街並みを味わいながら歩くと、ふとマンホールに目が留まります。りんごと弘前市章である卍がデザインされ、シンプルながら郷土らしさを表しています。
歩みを進めると、黒い板塀からはみ出す立派な松が。幹の太さもさることながら、独特の曲がり方をしたその形に目が行きます。
続いては旧伊東家へ。こちらは武士ではなく藩医のお屋敷だそう。これまでのお屋敷よりも造りが豪華な印象を受けます。
広い室内からは、夏の光に溢れた庭が眺められます。写真では室内が暗く写っていますが、実際は外の光が適度に入り、丁度よい明るさ。採光や風通しなど、心地よく過ごす工夫が日本家屋には詰まっています。
夏だというのに涼しさを感じさせる縁側。そこに立ってみれば、先ほどの立派な松が。ここだけ時代が止まったかのような眺めです。
旧伊東家をあとにし、その奥に位置する旧梅田家へ。美しく整えられた高い茅葺屋根が印象的。
室内からは、茅葺屋根越しに夏の緑がまぶしい生垣が。光と影、この対比があるからこそ、日本家屋は落ち着くのでしょう。光が溢れる明るい部屋より、僕はこんな和室が好き。
ふと足を踏み入れた場所に現れた、4軒の武家屋敷。それぞれ全く違う表情を見せ、そしてその街並み自体にも歴史を感じ。弘前城のその先で、また新しい弘前の魅力を見つけるのでした。
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