この旅最後の『三陸鉄道』に乗車し、美味しいイクラを満喫した久慈の街を後にします。車両の前面に掲げられたクウェートの国章が、震災でクウェートから送られた支援によって造ることができた新車であることを物語ります。
昨日はレトロ車両、今朝は団体さん混じりの満員状態だったため、いわゆる「素」の状態の三陸鉄道はこれが初めて。車内には地元の方と旅行者が思い思いの場所に腰掛け、のんびりとした時間が流れます。
ふと海沿いの景色を眺めていると、遠くに浮かぶ三陸鉄道の車両が。これは水門の機械室を三鉄型にしたもので、震災後の映像で見た記憶が強く残っています。
水門の周囲の状況を見ると、その被害の大きさを今一度思い知らされます。そんな中でも、震災を経て復活したふたつの三鉄が、今再びこうして顔を合わせています。
三陸鉄道から眺める海はこれでお終い。列車は再びリアス式海岸の内陸へと入り、秋の山並みに沿いながら走ります。
午後の静かなローカル線を包む、長閑な空気。心地よいエンジンの振動と、単行ならではの、カタン、コトン、と繰り返すリズム。それらに身を委ねながら秋の雲を眺めていると、この旅自体も終点へどんどん近付いていることを、ふと思い出します。
今回、三陸を訪れる大きなきっかけとなった、三陸鉄道ともお別れのとき。今宵の宿の最寄である田老駅に降り立ち、力強く煙を吐き、ホームから滑り出す列車を見送ります。
震災以前から、ずっと乗ってみたいと思い続けていた三陸鉄道。海あり山あり谷あり川あり。リアス式海岸に寄り添い走る車窓には、鉄道の風景がギュッと凝縮されていました。今度はまた違う季節に。そして南リアス線にも乗りにこなければ。
久慈から1時間15分とちょっと、この旅最後の宿泊地となる田老駅に到着。
先ほどのホーム上からの写真にも写っていますが、駅前の国道を越えたところ一面に、太陽光パネルが広がっています。ここも以前は街があった場所。今はこうして人が住む以外の土地としてではありますが、新しい産業を支える場所として使われ始めています。
夕暮れ迫る田老駅前で待つことしばし、『岩手県北バス』グリーンピア三陸みやこ行きのバスに乗車。宮古駅が始発ですが、久慈方面からバスに乗り換える場合は、ここ田老駅が便利。
バスが国道に合流してしばらくすると、高台には新しい家々が見え始め、海沿いから移転が進んでいることが感じられます。そしてそのまま終点の宿へ、と思ったのですが、その直前に「三陸のいま」を再び見つめることとなる光景が。
今回訪れたグリーンピアは、公共の宿として建てられた経緯があるため、とても広い敷地に囲まれています。そのため、その敷地内には見渡す限りの仮設住宅が建ち並んでいました。恥ずかしながら何の予備知識も持たずに来てしまった僕は、何とも申し訳ない気持ちで一杯に。
震災の年に訪れた大沢温泉や藤三旅館でも同じ経験をしましたが、こうして今でも仮の暮らしを強いられているところに、こんな旅行者がふらふらと来ていいものか。観光は大切な産業のひとつだと分かっていても、こうして目の当たりにしてしまうと、やはりそんな気持ちになってしまうのです。
これが居酒屋さんの女将さんが言われていたことなんだ。そう気持ちを切り替え、この旅最後の宿となる『グリーンピア三陸みやこ』にチェックイン。せっかくの三陸初ひとり旅。2泊ともオーシャンビューにしたいと、こちらのお宿に決めました。
いつもはじゃらんや楽天で宿を手配することが多いのですが、今回はるるぶトラベルでこちらのお宿を発見。更にひとり旅に嬉しい、和室洋室同料金。やっぱり旅先は和室に限ります。
秋の陽はつるべ落とし。チェックインした時にはすでに暮れていましたが、その時間帯でなければ見られない、空と海とが溶けゆくグラデーション。レンズに収まりきれない水平線の全てが、薄紫のベールに包まれています。
浴衣に着替え、早速大浴場へ。こちらのお風呂は光明石という石を使った人工温泉。ところが人工温泉と侮るなかれ、ビックリするほど汗が吹き出し、湯上りぽかぽか。肌もしっとり。
これまでこの石や他の石を使ったという人工温泉に入ったことはありましたが、ここまで温泉みたい!と思ったのは初めてでした。家でもこれが味わえればと、帰ってから調べてみると、まぁいいお値段♪僕には無理でした。
湯上りの冷えたビール片手に、月明かりに照らされた海を眺めることしばし、お待ちかねの夕食の時間に。今回は1泊2食付きプランで申し込みましたが、こちらのレストランではアラカルトでの注文も可能です。
早速お気に入りの酔仙特別純米を注文し、料理を待ちます。すると運ばれてきた美味しそうな品々。まず目を引くのは、殻ごとの立派な帆立焼き。卓上で焼き上げるので、好みのタイミングで、新鮮プリプリ、濃厚な甘みの詰まった身を楽しめます。もうこれだけで三陸!!
帆立が焼けるまでの間、お酒を愉しませてくれるのは、ほやの水物やいか、バイ貝といった前菜や、かに爪の入った酢の物、そば豆腐といった品々。それぞれ程よい塩梅の味付けで、素材の味をしっかり味わえてどれも美味。特にほやは新鮮さが如実に出る食材。ホテルでこんなホヤが出てくると、もう上機嫌になってしまいます。
奥の炊き合わせは、ぶりにしいたけ、えび。ぶりは少し濃いめの味付けがまた良く、えびやしいたけが薄味に仕上げられているので、味のバランスが丁度いい。このレストラン、お料理美味しいぞ!
旨いつまみとお気に入りの酔仙で楽しむ、最後の夜。すると奥の陶板から、良い音と共にお肉の甘い香りが漂ってきます。程よく焼けたところでひと口。写真で見ても分かるように、丁度良くサシの入った牛肉は、脂と赤身の旨味が丁度良い加減。魚介のみならずお肉も美味しい、これって宿に来て嬉しいポイントのひとつです。
でも、そう言えばお刺身、無いんですけど。そう、この献立にはお刺身はありません。
お刺身ではなく、ドン!と大ぶりな海鮮丼が来るのです。何だかカメラと照明の関係で(いや、僕の腕が悪いんだよ。)色が美味しくなさそうに写ってしまっていますが、実際はもっと瑞々しく美味しそう、そして実際に美味しい魚介たちでした。
最後に海鮮丼が来ますから、と言われ、あぁそうなんだ、位に思っていた僕。普段あまり海鮮丼は好んで食べませんが、載っているお刺身もそれぞれしっかり美味しく、そしてこのボリューム。すし飯の加減も僕好みで、これなら海鮮丼単体で食べても良い、と思えるものでした。
それにしても酷い写真。ホテルの名誉のためにもう一度言いますが、きちんとした美味しいお刺身でしたよ!本当は写真を載せるかどうかも悩んだのですが、〆にこの内容とボリュームということをお伝えしたく、結局載せることにしました。
美味しいお料理で酔仙をのんびり味わい、仕上げの海鮮丼にびっくり&大満足。デザートには、熱々のアイスクリームの天ぷらまで出てきました。
いやぁ、もう本当に心から大満足!更にこのレストラン、最初に書いたように、アラカルトでの注文もOK。メニューや壁のおすすめメニューも見てみたのですが、三陸の幸に東北の酒がね、ごろごろしている訳ですよ。
また大沢温泉に湯治に来るときは、仕上げにここで酒治することに決定!きっとこのレストランなら、そんな僕のわがままを叶えてくれることでしょう。宮古に泊まって居酒屋で、そして最後はここで締める。やっぱり僕の岩手訪問は1週間コースになりそうです。
10泊11日の、自分最長の旅。その〆に相応しい晩餐を終え、お腹も心も満たされて部屋へと戻ります。
一昨日の夜、居酒屋さんの女将さんに言われた、「今の三陸を良く見ていってね。」という言葉。
宮古の港や三鉄の車窓、田老駅前、そしてここの隣に広がる仮設住宅。約束を守れたかどうかは何とも言えませんが、今回初めて泊まりがけで訪れることができた三陸の地で、僕は僕なりに、しっかりと見て感じて、想いました。
そして東北を訪れていつも触れるのが、人々の優しさ、強さ、温かさ。あんなに大変な体験をしたのに、震災の直後から、そして今でもこうして感謝だなんて。逆にいつも元気をもらっている僕の方こそ、心からありがとうと伝えたい。三陸に来てみて、一層東北を好きになる。この旅最後に相応しい、温かい気持ちに包まれる夜でした。
1ヵ月前、この記事を書こうと思っていたときに、熊本・大分で大震災が起こってしまいました。被災された方々、心からお見舞い申し上げます。
東北に続き九州までもがあんなことになってしまい、この記事を書くまでしばらく時間が掛かってしまいました。ですが、被災地の方々が、東京で余り報道されなくなったあとでも、着実に毎日を積み重ねていくのを目の当たりにしたことを思い、ようやく更新を再開しました。
東北と違い、九州は僕にとって中々行くことが難しい遠い場所。でも熊本、大分、福岡と回った時の思い出や味は忘れられない思い出です。行くこと以外にも何かできることを見つけていこうと思います。
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