三陸の漁村の空気を全身に浴び、今宵の宿に向けて歩き出します。本来ならお宿に頼めば送迎もしてくれるようですが、今回はそれほどの距離でもないので、歩いて向かうことに。駅前を走る国道45号線を北上します。坂を登りきると、前方に大きな橋梁を発見。
高さ33mもあるという、三陸鉄道の安家川橋梁。よくよく見ると、橋梁上には単行列車が。三陸鉄道有数の絶景ポイント。どうやら、しばらく停車してその眺めを楽しませてくれているようです。
警笛一声響かせて、三陸鉄道はガラガラと発車してゆきました。その長閑なローカル線の眺めを見据えつつ歩けば、自分も安家川の河口に架かる国道の大橋上に差し掛かります。
歩道の無いこの橋梁。工事の大型トラックも多く通るので、事故の無いよう気を付けて歩きます。それにしてもこの眺め。車のいない隙を狙い、この大海原から吹く風を心地よく全身で受け止めます。
国道を歩くこと20分程、左手に大きなピンクの河童が見えたら、そこを左折。急な坂を登ってゆくと、南部曲り屋がお出迎え。ここまでくれば、宿はもうすぐ。この曲り屋の隣には、有名な野田村の塩を作る工房も併設されています。
曲り屋の裏手の坂を登り切り、今宵の宿である『国民宿舎えぼし荘』に到着。国民宿舎に泊まるのはかなり久しぶりですが、お部屋からの眺めを期待し、宿泊を決めました。
チェックインし、早速部屋へと向かいます。扉を開けると、そこには文字通りのオーシャンビュー。海が見えるところに泊まるなんて、本当に、本当に、久しぶり。この眺めだけでも、ここへ来た甲斐があります。
早速浴衣に着替え、お風呂へと向かいます。こちらのお風呂は人工温泉。大浴場からも、そして露天風呂からも、もちろん海を望めます。
海を見ながらの露天風呂なんて、これまた本当に久しぶり。緑や紅葉、雪に囲まれた露天も最高ですが、やはり大海原を目前にした露天もまた、最高。胸のすくような開放感が堪らない。
そして部屋と戻り、もちろんビール。部屋に居ながらにして海を眺められる。そして冷たいビールがあれば、もう何もいりません。
ここ数年、足が向くのは山の温泉ばかり。でもこの眺めを見てしまうと、やっぱり海沿いの宿も捨てがたい。そんなことを思いつつ、飽きることなく海を眺めていると、すでに日は落ち月の輝きが目立つ時刻に。そろそろ夕食の時間です。
レストランへ向かうと、テーブルには美味しそうなお料理が並んでいます。
お刺身は特に帆立が美味しく、添えられた貝ひものこりっとした食感と磯の香りが印象的。天ぷらもさっくり上がっており、さばの味噌煮はコテッとした味噌が美味しい。たこの酢の物や数の子の山海漬け、小鉢とともに、冷酒を楽しみます。
陶板焼きは牛と野菜を焼きたてで頂きます。海沿いに来るとどうしても海の幸ばかりを食べがちなので、お肉が出てくると嬉しいもの。
続いて、焼きたての銀だらの西京漬けが運ばれてきました。ふっくらとした身からは西京漬けの香りがふんわりと漂い、お酒にもぴったり。
国民宿舎にはこれまで二度しか泊まったことが無く、今回もそれほど高い値段でも無かったので、想像以上のお料理のボリュームにビックリ。
ここまででも結構お腹一杯になっていたのですが、食卓で火を点けて炊きあがった釜を開けると、そこには炊き込みご飯が。一緒に出されたお味噌汁はぶりのあら汁で、あらと身がたっぷりと入っています。
おこげの美味しい炊き込みご飯とぶり汁でもうすっかり満腹。満足な気持ちで部屋へと戻ります。
一杯のお腹を落ち着け、夜の海原を見ながらの露天風呂へ。そして風呂上りには、今夜のお供を開けることに。
前の日に、宮古の酒屋さんでおすすめしてもらった、宮古の菱屋酒造店が造る、千両男山特別純米酒フェニックス。香りも味わいも穏やかですっきりと飲みやすく、それでいて酸味や旨味も感じる、しっかりとした味わいの美味しいお酒。
このお酒は、以前にも飲んだことのあるお酒。不死鳥の名を冠し、ラベルには復活から再生へ、のメッセージが。幕末創業というこの酒蔵も、大震災で流されてしまったそうですが、新しい蔵を建てて、こうして美味しいお酒をまた醸しています。
そんな力強さが、メッセージからも、そして味からも伝わってくるお酒。それを片手に、今日見た宮古の今、浄土ヶ浜の美しい景色、そして野田村の大海原、それぞれを反芻するのでした。
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