龍泉洞から一般道で北上山地を越え、走ること約2時間ちょっと、バスは盛岡の中心地へと差し掛かります。本来は駅まで行くつもりでしたが、僕は用事があったので、菜園川徳前バス停で下車。
バス停の名前にもなっている百貨店、カワトクの横にある別館『cubeⅡ』に立ち寄ります。そう、旅の序盤に見つけてしまったあの子を迎えに来たのです。
ここで買ったのは、もう散々ブログにも登場している、岩鋳の南部鉄器ファミリーシチューパン。煮物茹で物鍋を探していた僕にとって、ベストなタイミングでベストなサイズの鍋を見つけてしまったのです。
更に南部鉄器としては珍しい赤い色も、生産終了品ということで現品限り。旅行中悩み通した挙句、買うことに決めました。おかげで美味しい煮込みも、そして揚げ物もおうちでたっぷり楽しめています。一生物のお鍋に本場盛岡で出逢うなんて。鍋を使う度に、いつも岩手を思い出しています。
ここのお店には、岩手の民芸品や郷土の味など、普通のお土産屋さんとは一風変わったものが多く販売されています。より郷土色の強いものが欲しいときにはお勧めのお店です。
お鍋はとても重いので宅配で自宅へと発送し、残りの時間で盛岡の街を散策します。
11日前に岩手入りしてから、雄大な自然に抱かれた紅葉はたっぷりと愉しませてもらいました。そんな紅葉の〆として、人々の憩いの場所である岩手公園で、今年最後の秋を満喫することとします。
堅牢な石垣を彩る、色とりどりの葉のグラデーション。全山紅葉の圧倒的な美しさもさることながら、こうして人と色づく木々が寄り添うように都会にある、そんな景色もまた美しい。
色付き方を競い合うかのように濃く色づく、銀杏と紅葉。それぞれの目指す色を全身に纏い、それぞれの色彩を仲良く引き立てあいます。
もうすぐ散ってしまいそうな桜紅葉を照らす、秋の夕日。遠くに見える山並みが、より一層郷愁を誘います。
夕日を背にして立てば、遠くの石垣にまで伸びる自分の影。そう言えば自分の影をこうして見るなんて、何年振りだろうか。秋の夕日が造る影の長さを、四半世紀振りに思い出しました。
秋の日は釣瓶落とし。先程まで岩手城跡を照らしていた夕日も沈んでしまい、夜の気配が近付きます。立派な石垣を縫って城跡を下り、桜山神社にお参りします。
日が沈むまであと少し。最後の最後まで岩手を味わおうと、盛岡の街をぶらぶら歩きます。
東京駅と兄弟関係にある岩手銀行旧本店本館。今日の日の名残を浴び、赤煉瓦は一層深く、そして切ない色に染まります。
都市の街並みの中で、さながらセットのように佇む雑貨屋さん、ござ九。その渋い佇まいは、一足先に夜へと急いでいるかのよう。
手前には、鉄瓶鉄鍋で有名な釜定のお店が。危ないよ、僕が入ってはいけないお店。家じゅう鉄だらけになってしまう。窓越しに見ただけでも、あぁと溜息が出てきます。
先へと進むと、夕焼けに染まる古い火の見櫓。今では高い建物に囲まれていますが、浴びる夕日の色は、昔からきっと変わらないことでしょう。
道なりに進むと、立派な酒蔵が。岩手に来ると良くお世話になる、菊の司酒造の蔵です。
酒は水が命。こんな市街地にあるのに、清らかな美味しいお酒が出来る。東京に暮らしていると信じがたい、都市と自然と文化の融合を象徴するような光景です。美味しい水、羨ましい。
そして遂に太陽は力を失い、街角の灯りが優勢に。ついに来た。この時が、ついに来てしまった。覚悟を決めて、この旅最後、本当に最後の岩手の味を愉しむべく、お店へと向かいます。
その途中、お気に入りの開運橋から望む、南部片富士。夕暮れの中漆黒のシルエットとして聳えるその姿は、まるで盛岡の街を堅く守っているような力強さを感じます。
10泊11日、全て岩手で完結する旅。何度来ても、また来たい。どれだけ居ても、まだ居たい。長く居ればいる程別れが辛くなる。このタイミングで眺める岩手山は、僕の心の深い部分を締め付けるのでした。
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