熱い二夜を過ごした弘前の街ともお別れの時。5度目のねぷたになりますが、それでもこうして去るときにはすでに来年また訪れることを夢みてしまう。この褪せぬ感動は何故なのだろうか。僕はすっかりねぷたや弘前の持つ不思議な魅力から抜け出せなくなってしまったようです。
ホテルは素泊まり利用だったため、今日も朝食は弘前駅の1階にある『こぎん』でとることに。
今回注文したのは天玉そば。すっきりとしただしを吸ったかき揚げと生卵の王道コンビ。軟らかい独特なおそばとの一体感を楽しみつつ啜れば、お腹の中から優しい美味しさと温かさで満たされていきます。
浅虫温泉から始まった今回の旅も、青森県とはこれでさよなら。特急つがる号に乗車し、一路秋田県を目指します。
4泊5日、たっぷり楽しんだ青森。初めてしっかりとこの地を旅したのは4年前のことですが、その後すっかりお気に入りの旅先になってしまった。
東北六県、どこもそれぞれ特長のある好きな場所。青森は、良い意味で飾らないその素朴さが特に好き。それは食であったり、人であったり、街の雰囲気であったり。
来るたびに何故だかホッとする。そんな津軽での思い出を、車窓を流れるりんごの木を眺めながら反芻するのでした。
弘前駅から走ること1時間足らずで鷹ノ巣駅に到着。ここで秋田内陸縦貫鉄道に乗り換えます。
第三セクターであるこの秋田内陸縦貫鉄道は、旧国鉄の阿仁合線と角館線を引き継いだ路線。僕の子供の頃に両線の終点だった比立内~松葉間が開通し、当時は珍しかった女性乗務員を起用したり、専用車両を使った急行が運転されたりと、ずっと乗ってみたかった路線。鷹巣や角館にちょこんと停まっている姿を見て、その気持ちは更に強くなっていました。
秋田内陸線の初乗車にワクワクしていると、列車はディーゼルの唸りを上げて鷹巣駅を発車。すぐに車窓は夏の田んぼの緑色に溢れ、車内にはローカル線らしい穏やかな空気が流れます。
かたん、ことん、と単行列車特有のリズムに揺られること40分、阿仁前田駅で途中下車。この駅には直結の日帰り温泉施設『クウィンス森吉』があり、そこでのんびり過ごすことに。
大浴場には大小の湯船と露天風呂があり、内湯の小さいほうの湯船は源泉掛け流しだそう。他の湯船よりも茶色が濃くほんのり濁っています。
泉質はカルシウム・ナトリウム-塩化物泉のしょっぱい温泉。そのため温まりやすく、少し浸かると大粒の汗が出てきます。暑くなったら露天へと向かい、夏の風を浴びてクールダウン。出たり入ったりを繰り返して楽しみます。
心地良い汗を流したところで、食堂で冷たい生ビールをグイッと。堪らない一杯を楽しんでいると、注文したしょっつるラーメンが運ばれてきました。
もう少し濃い色をしたスープを想像していたのですが、見た目はものすごく薄い色。そんなスープをひと口飲んでみると、しょっつるや海藻から出た海の旨味が広がります。
あっさりとしつつコクがあるスープを味わった後は、真ん中に載った温玉を崩します。するとまた違った印象に変化し、一杯で二度美味しいラーメン。じんわりとした穏やかな美味しさに、スープまでしっかり平らげました。
濃いお湯とごろ寝を満喫し、再び秋田内陸線で南を目指します。今度は急行もりよし号に乗車。以前は専用の車両が使われていましたが、現在は通常の車両で運行されています。
急行もりよしにはアテンダントの方が乗務しており、沿線の観光案内を聞きながら秋田の山深い車窓を楽しむことができます。
途中には4ヶ所の田んぼアートも設けられ、そこでは減速してゆっくり見させてくれます。稲が元気な夏のこの時期、ちょうど見ごろを迎えていました。
先ほどの田んぼアートにも描かれていたこのキャラクターは、秋田内陸線のないりっくん。車内にもステッカーが貼られ、急行もりよしの車内販売でグッズも売られています。
そしてこちらも内陸線のキャラクター、森吉のじゅうべぇ。制帽をかぶった可愛いクマさん、マタギの里を走るこの路線らしいキャラクターです。
これでもかというくらいに夏色に輝く車窓。その窓の上には、じゅうべぇの足あとが付いています。
ディーゼルの心地良い響きと単行のリズムに乗って流れる車窓。何度味わっても、夏の東北はいいものだ。これを味わいたいというのも、毎年ねぷたを見に東北へ行ってしまう理由のひとつ。
列車は秋田の内陸部をどんどんと進み、その山深さが増してゆきます。田んぼが広がっていたと思ったら、深い谷や川、そして黒々と広がる秋田杉の森が。
山あり谷あり里ありの、ローカル線の車窓というものを凝縮したかのような風景。その変化の連続を楽しみ、秋田の夏と列車旅の醍醐味を満喫するのでした。
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