11日間、思う存分、文字通りたっぷりと愉しませてくれた岩手とも、もう間もなくお別れの時間。最後の岩手の美味を味わうべく訪れたのは、もう何度か冷麺を食べに来たことのある『ぴょんぴょん舎盛岡駅前店』。ロータリーを挟んで駅の目の前という立地も、旅行者には嬉しいところ。
いつもなら〆は海鮮系の居酒屋さんかお寿司屋さんへ行くところですが、今回は野菜と魚を主に食べてきたので、最後は岩手のお肉でフィナーレを迎えることに決めました。
そういえば、盛岡で焼肉を食べるのは初めてのこと。焼肉屋さんには行っても冷麺しか頼まないので、やっと本来のお店の使い方をするような気がします。こちらのお店はカウンター席もあり、混雑時でもひとりで気兼ねなく入れます。
周りのお客さんが美味しそうに焼くお肉。ビール片手に「待て」をされている気分で少しだけ待っていると、程なくして注文の品が到着しました。今回は、岩手三昧とホルモン、レバーを注文。
岩手三昧は、その名の通り岩手の誇る銘柄牛3種の盛り合わせ。左から、前沢牛、短角牛、そして雫石牛と、それぞれ3切れずつ並んでいます。
前沢牛は、言わずもがなの有名ブランド。これぞ旨い和牛!というものを体現したかのようなきめ細かいサシが入り、脂の甘味も口どけの良さもまさに絶品。脂はしっかり載っているにもかかわらずクドさは無く、心地よい余韻だけを残してさらっと去っていってしまう様子はさすがのひと言。
真ん中の短角牛は、打って変わって赤身を存分に楽しむ牛。肉を食べている!と楽しくなる程よい噛み心地と、その中から染み出てくる赤身の旨味。凝縮感を味わえます。
雫石牛は、赤身とサシのバランスがとても良く、お肉の赤と白、両方の味わいがバランスよく詰まっています。食感も柔らかすぎず、硬すぎず。この中では、僕の一番のお気に入り。いくらでも食べられてしまいそうな、絶妙なバランスです。
そんな美味しいお肉に合わせるのは、ぴょんぴょん舎オリジナルの生マッコリseng(鮮)。
岩手の契約農家のお米を、地元のお水で醸したという生マッコリは、火入れしていないためシュワッと弾ける爽やかな酸味と甘み。これが絶品で、思わずおみやげにボトルを買って帰りました。書いているだけで飲みたくなってくる。本当に美味しいお酒です。
よくよく考えてみると、ひとり焼肉はこれが初。でも全く気になりません。カウンター席には、地元の仕事帰りのOLさんから、出張族、そして僕のような旅行者が、思い思いの時間を過ごしています。この環境なら気兼ねなくいつでも焼肉が食べられますね。
僕もお肉を1枚ずつ丁寧に味わい、じっくり、のんびり美味しい時間を過ごします。上質な岩手の牛と新鮮で旨いホルモンを充分に堪能したところで、〆のひと品を。
冷麺にしようか激しく悩みましたが、折角の何度目かの盛岡、どうせならいつもとは違う麺をと、ユッケジャン辛温麺を注文しました。僕の好きなユッケジャンクッパの温麺バージョン、といったところです。
真っ赤なスープはその色の通り結構な辛さ。ですが、その辛さの中に、肉と野菜の旨味が凝縮されたスープの深い旨味がしっかりと感じられます。麺は冷麺と同じく、弾力のあるあの独特な麺。僕は小さい頃から温麺も大好きで、久しぶりに味わう感覚に嬉しくなってしまいます。
猫舌の僕は、熱々辛々の温麺と格闘し、汗だくになりつつスープまでしっかりと平らげました。いやぁ、大満足!盛岡での麺の悩みがまたひとつ、増えてしまいました。
11日前に降り立った、盛岡駅。とうとうそこへと戻ってきてしまいました。でもそこには悲しさ、寂しさはありません。だって、こうして何度も何度も来ることができている。来ようと思えばいつでも来られる、その実績が僕の心を後押ししてくれています。
11日前、旅人を迎えてくれたわんこ兄弟は、今夜は旅人を見送ってくれます。
そばっち、こくっち、とふっち、もちっち、うにっち。今回も楽しい、美味しい岩手をどうもありがとう。とっても良い時間を過ごさせてもらいました。
盛岡、岩手、東北を去るのではない。一旦、東京に戻るだけだ。そう自分を奮い立たせ、新幹線の改札をすり抜けます。
するとそこには、巨大な南部鉄瓶が。この形、この質感。南部鉄器の質実剛健ながら込められた美意識は、岩手、東北の風土そのものなのかもしれません。
先ほどは、寂しくないと書きましたが、やっぱりそれは嘘。こうして新幹線のホームから盛岡の街の輝きを見ていると、改札を突破してあの街の中へ戻りたいという衝動に駆られます。
でもこの名残惜しさこそが、良い旅であったという確かな証。この感覚があるからこそ、こうして東北に通い続けてしまうのです。
はやぶさは、僕を乗せて盛岡のホームを静かに滑り出しました。そして程なく、世界最速で僕を東京へと連れ戻しに掛かります。
いつもなら、ここから最後の宴が始まるところですが、今回の旅行記はこれでお終い。
岩手に籠った11日間。これ以上、他に何を望むことがあるでしょうか。それほどまでに、身も心も岩手に満たされました。
名残惜しさも、寂しさも、それは居足りないからではなく、余りにも充実していたことから来る感覚。仕方ない、一旦東京へ帰ってやるか。そう思える旅の終わりなんて、なかなかあるものではありません。
15年勤めた自分へのご褒美として、真っ先に浮かんだ行先である岩手県。本当に選んで良かった。いつ来ても、何度来ても、期待を裏切らない。いや、それ以上の良さを以って迎え入れてくれる。
この先いつできるか分からない贅沢尽くしの旅は、静かな満足感に包まれて幕を閉じるのでした。また来ます、岩手。また来ます、東北。その時のために、東京でもうひと踏ん張り、頑張ろう。
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