初めて迎える三陸での朝。昨日の美味しく楽しい余韻(世間一般では二日酔いと呼ぶ)が若干残りつつも、今日もすっきりと晴れ渡った秋晴れの空に、自ずと気持ちも晴れてゆきます。
昨日居酒屋さんで頂いたバナナを朝食にし、ホテルをチェックアウト。駅前から『岩手県北バス』に乗車し、一路浄土ヶ浜を目指します。
バスは宮古駅前を発車し、昨晩千鳥足で歩いた界隈を抜けて港の方へと進みます。すると、駅周辺から離れるに従い、車窓の様子が一変。
海に近付けば近付くほど、道路と更地の区別の無くなってゆくバス通り。バスはかつての区割りをなぞるかのように、更地となった区画の中を右折左折を繰り返し、何も無くなってしまった場所を走ります。それでも律儀に更新されていく、有ったはずのランドマークの名を冠した、バス停の案内放送と運賃表。何とも言えぬ思いに襲われます。
あぁ、居酒屋の女将さんが言っていたことは、こういうことだったのかもしれない。震災の年に訪れた塩竈で見た光景は、人の暮らしを津波がさらって行ってしまった生々しさを目の当たりにしました。
その後訪れた釜石では、大方のがれきの撤去は終わっていても、未だ骨組みだけの建物が残り、復旧すら程遠いという印象を受けました。そして今回訪れた宮古では、その人々の生活の名残すら感じられない、人々の営みがあったとはにわかに信じがたい、何もなかった事にされたような更地が続いていました。
人々の生活感が残された光景も辛いものですが、それすら掻き消され、何もない状態になった土地を初めて目にし、自分の抱いていたちっぽけな覚悟以上の衝撃を感じました。
でもそれは、旅行者として訪れた僕の、単なるくだらない感想にしか過ぎません。文字通りの更地の広がる光景に少なからずショックを受けましたが、ようやく新しい街を造り始められるスタートラインに立ったということなのでしょう。行き交うトラックの積載物が、撤去されたものではなく、資材建材であるということが、何よりの証です。
「今の三陸を良く見て行ってね。」その言葉の意味を車窓に重ねつつ、バスは約15分で浄土ヶ浜ビジターセンターに到着。駅からここまでは2つの行先のバスが使え、1時間に1~2本と本数もあるので便利。
有名な白い海岸の広がる、いわゆる浄土ヶ浜は、この先の奥浄土ヶ浜バス停が最寄。ですが、今回は遊覧船に乗船するため、ビジターセンターで下車します。
ビジターセンターで次便の乗船券を買い、いざ出航場所へと向かいます。高台にあるビジターセンターからは、この素晴らしい眺め。奥にぽつんと見えている船着き場までは少々距離があるので、船の時間には充分な余裕を。
青い空に青い海。絵に描いたような絶景に、これからこの大海原へと繰り出すのかと思うと、居てもたってもいられません。
船着き場に着き、乗船券を見せて『みやこ浄土ヶ浜遊覧船』に乗船。乗船する第16陸中丸は、震災時に沖へと避難し、津波から逃れて助かった、たった一艘の遊覧船。震災後の夏に運航を再開した時には、奇跡の遊覧船として一筋の希望をもたらしました。
秋の陽をきらきらと散りばめた海に誘われ、甲板に陣取ります。風は少々冷たく感じますが、そこは折角の航海。海の風を感じながら眺める青一色の世界は格別です。
汽笛一斉響かせて、遊覧船は煌めく海原へと出航。初めての浄土ヶ浜、まだ見ぬ景色に期待が膨らみます。
船は穏やかな構内を抜け、大きな海へを舵を切ります。その船を追うように付いてくる、たくさんのウミネコたち。この船ではウミネコの好む特製のウミネコパンが売っており、餌付けを体験することができます。
秋空にきらめく海、体を包む海風に、飛び交うウミネコたち。穏やかで気持ち良い。ん?穏やか?そう思ったのも束の間、船は大きく大きく揺れ始めました。餌付けや撮影をしている人は、手すりにしっかりつかまらないと歩けないほど。
これまで静かな水面をゆく遊覧船しか体験したことの無かった僕にとって、この本気揺れは想定外。出航後5分で、早くも昨晩の飲み過ぎを後悔する羽目に。船に弱い方には結構厳しいかもしれません。
それでも視線を遠くにやれば、胸のすくような文字通りの絶景。座礁しないのか心配になるような浅瀬の脇を通ったり、天然記念物に指定されたローソク岩や潮吹穴、そして数々の奇岩や遠くの入り組んだ海岸線など、刻一刻と変わる眺めを楽しんでいるうちに、揺れのことはすっかり気にならなくなりました。
その代わり、だんだんと堪えてきたのが風の冷たさ。船が港へと折り返す地点で、ついに船室へと移動。帰路は温かい部屋からその景色を楽しみます。
初めて訪れた浄土ヶ浜。五感を全て使い、文字通りの風光明媚な絶景を味わうのでした。
コメント