昨晩は、お酒も夜更かしもそこそこに寝床へと入ったため、すっきりと爽やかなお目覚め。湯宿で迎える朝の楽しみである寝覚めのお風呂を楽しみ、朝ごはんの時間に。
わらびのお浸し、温泉卵、海苔の他、コンロでは鮎の干物が炙られて良い香りを漂わせています。凝縮された淡白な旨味が口の中でほろほろと広がりご飯が進みます。
こちらには、冷奴にふきの炒め煮、納豆。ご飯とお味噌汁は食堂のジャーや大鍋から自分でよそうおかわり自由スタイルで、何となく合宿を思い出す懐かしさを感じながらの朝食。
窓からは山形の夏の朝日が燦々と差し込み、今日もしっかり暑くなりそうな予感。山形の夏休みに相応しい、素朴で美味しい手作りの朝ごはんでお腹一杯。
旅先ではついつい食べ過ぎてしまう朝ごはん。パンパンのお腹をごろ寝で落ち着けたところで、再びお風呂へ。チェックアウトを気にしない。これが連泊の良いところ。
脱衣所の棚の上には、こちらも独特なオーラを放つ彫刻が施されています。花咲か爺さんがテーマらしく、温泉マークからは大判小判が溢れ出しています。
それにしても白い犬がかわいいこと。昨日の熊さんもそうでしたが、柔らかさと豊かな表情が滲み出るかのような独特なタッチの彫刻です。
まだ朝の名残を感じさせる陽射しがもれる中に佇む、ローマ式千人風呂。夜の幻想的な姿もいいですが、明るい中では、天井の高さや柱と壁の陰影、鏡のように湯を湛える大きな円形の浴槽が一層強調される。何だかわからないけれど、ローマ式という言葉に納得してしまう雰囲気。
静かに満たされる湯に身を沈め、自分の好みの温度の場所を探りながらゆっくりと移動する。円形のため見える視界も都度変わり、温度と眺めが一致したところ、そこが自分にとってのベストな一点となる。ただ単にお湯だけでは無く、浴場の雰囲気を含めて楽しめる。この感覚、堪らない。
湯上りの汗を感じつつ過ごす、自室でののんびりとした時間。みんながチェックアウトする中で自分は浴衣でだらだら。この心と時間のゆとりが、連泊を一層楽しくするのです。お昼までの時間、何をしてのんびり過ごそうか。だらだらしながらそんなことを考える時間が、堪らなく幸せ。
明けた窓からは、蝉の元気な鳴き声が部屋を満たさんとばかりに響いてきます。そんな蝉の声に誘われ、瀬見の小さな湯の街散歩へと繰り出すことに。
玄関を出たところに建つのは、湯前神社。弁慶が見つけたとされる瀬見温泉の守り神が祀られています。僕の泊まる喜至楼はこの神社を囲むように本館と別館が建てられており、旅館の歴史の深さを物語ります。
眩い夏空の下聳える、喜至楼本館。白い雲と青い空に彩られ、到着時の曇り空よりも一層建物の存在感を増しています。渋い、そのひと言に尽きるこの外観。明治、大正の贅を尽くした湯屋建築は、時を経て華やかさから渋さへとその輝きを変化させてきたのでしょう。
玄関に掲げられた立派な動輪模様のプレート。うっすらと残る文字を読んでみると、「日本国有鉄道推薦旅館 RECOMMENNDED BY J.N.R」と書かれています。初めて見たこのプレート。明らかに歴史を感じるデザインと、一度も聞いたことの無いこの制度はただ者ではなさそう。
家に帰って調べてみると、今でいう「日観連」の前身となる制度だそう。そもそも日観連の看板ですら、今ではレトロになりつつあるのに。戦前から続いたこの制度の廃止は、昭和32年だそう。そりゃぁ古い訳だ。
「自然と取り残されている。」いい意味で、このお宿にはこんなものが沢山散らばっている。喜至楼の魅力はこのような物たちが形作っているのでしょう。
小さな旅館や酒屋さんの並ぶ静かな温泉街を抜け、小国川を渡って対岸へ。奥からこの流れがやってきたことが容易く想像できるように切れ込む山と谷、さらさらと涼しげに流れる川の中佇む釣り人、そしてすべてを覆う、夏空とじりじりとした暑さ。
川と道路を渡った目の前にある食堂、『やまや』でお昼をとることに。瀬見温泉は本当に小さな街なので、お昼を食べられる食堂はここを含めて数軒だけ。町の食堂に入るという経験が無い僕は、この渋い佇まいにドキドキしてしまいます。
意を決して中に入ると、のんびりとした雰囲気のおばあちゃんがひとりで切り盛りしている模様。早速ビールと塩バターを注文すると、ビールと共にお手製のきゅうりの漬物や煮物をたっぷりと出してくれます。
サービスのお通しと思えない量と、素朴な手作りの美味しさ。この時間までビールを我慢して良かった。冷たい幸せを喉に感じながら、ラーメンが来るのを待ちます。
そして運ばれてきた塩バターラーメン。たっぷりの炒め野菜が載った、僕の好きなタンメンタイプ。スープは思った以上に旨味が詰まっており、野菜の甘味も溶け込み旨さ倍増。ここにバターのコクが加わり、大汗をかきながら一気にスープまで飲み干してしまいました。
渋い外観とおばあちゃんひとりでやっているお店。旅先のお昼は郷土料理や麺の専門店ばかり選んでしまう僕にとって初めての経験でしたが、その美味しさに帰るときは大満足。こんな素朴で美味しいラーメンに出会い、山形の夏の昼下がりを愉しんだのでした。
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