期待以上、想像以上であった龍泉洞の内部を探検し、程よくお腹が空いたところでお昼の時間に。龍泉洞周辺にはいくつか食事をとれるところがありますが、今回は県道を挟んで龍泉洞の向かいに位置する、『龍泉洞観光会館』にお邪魔してみることに。
1階は大きなお土産コーナー、2階へ上がるとレストランと団体用の大広間といった、昔懐かしい雰囲気の施設。早速レジでお食事と飲み物を注文し、窓側の席へと着きます。
まずは、龍泉洞といえば美味しい水!ということで、大人用のお水を注文。龍泉洞の水を使って醸造されたビールは口当たりが良く、味もしっかりありながら変な苦みや癖がありません。嫌な地ビール臭さもなく、先程見た龍泉洞の地底湖の清冽さを思い起こさせる、すっきりと美味しいビールです。
美味しいビール片手に、こんな雰囲気のお店で食事するのも久方ぶりだなぁ、などと物思いにふけっていると、注文した品が到着。今回は秋ということで、まつたけそばといわな寿司を頼みました。
まずはまつたけそばから。観光客向けでお手頃なお値段だったので、まぁ秋の雰囲気でも、と思って注文したのですが、意外にも松茸の香りが漂ってきます。
松茸自体は今年の生のもの、という訳ではなさそうですが、歯ごたえもしっかり残っており、噛むと独特の香りと味がじんわりと染み出てきます。そばつゆも松茸の風味を邪魔しない程度の塩梅。
続いてはいわな寿司。使われているのは岩泉町産のいわなだそうで、軽く酢で〆られ、生とはまた違った凝縮感を味わえます。
失礼を承知で書かせていただきますが、いわな寿司の看板に惹かれて入ったものの、ザ昭和!といった雰囲気のレストハウスとメニューだったので、正直期待はしていませんでいた。
そんな中運ばれてきたのは、意外にもちゃんと美味しいお料理でほっと一安心。本当に失礼なこと、書いてしまった。でもその意外性がまた、旅の思い出のひとつであったりもします。
昼食を終え、バスの時間までのんびりぶらぶら。龍泉洞の横を流れる小川も、負けず劣らずきれいな水がさらさらと流れています。
そんな清らかな水辺を彩る、秋の山里の景色。春の華やかさも、夏の爽快さも、冬の厳しさも。四季それぞれ心に訴えかける力がありますが、僕にとって秋はそれが一番強い季節。
向かうものへの期待より、去りゆくものへの感傷。自らの色彩を失いながら燃え尽きようとする草木の色合いに、何か特別なものを感じてしまうのです。
あまりそんなことを考えてしまうと、秋に対する感傷と、今日岩手を去るという感傷が干渉しあい、大変なことになってしまう。気分を変え、再び当てもなく付近を散策します。
すると、きれいな水を湛えた池の中をゆったり泳ぐ鱒の姿が。これを見て、美味〇そうと思ってしまったことなど、決して人には言えません。
そしていよいよ、岩手周遊を終え、ついに県都盛岡へと戻るときが。龍泉洞の目の前のバス停より、『JRバス東北』の盛岡駅行きに乗車。龍泉洞から岩泉町の中心地を経由し盛岡まで、1日4往復運行される路線バスです。盛岡から龍泉洞を目指すなら、このバスがとても便利。
バスは小本街道と呼ばれる国道455号を、川に沿ってひたすら登ります。周囲はどんどん山が近くなり、色づく木々に車窓が染まります。
龍泉洞から走ること50分、途中の停留場である道の駅三田貝分校に停車。路線バスといえど長時間走るバスなので、ここでトイレ休憩がとられます。
短時間の休憩のため中を見ることは出来ませんでしたが、道の駅だけあり、いろいろと名物や地のものが売っていそう。時間に余裕があれば、ここで一旦下車し一本後のバスに乗る、なんてこともいいかもしれません。
狭い谷を川と国道で分け合うようにし、そこを縫うようにくねくねと登ってゆくバス。その川もどこかへいってしまい、ついに険しい北上山地越えに挑む覚悟を決めたようです。
周囲はまさに紅葉真っ只中。八幡平から始まり幾度と眺めた紅葉も、そろそろ見納め。どうやら僕も、東京へと帰る覚悟を決める時間が近付いてきたようです。
太平洋側では曇っていた空模様も、北上山地を越え下りへ差し掛かる頃には陽射しが戻ってきました。これから夕方へと向かう太陽に照らされる、数えきれぬほどの色付いた落葉松。見渡す限りの黄金色に、心の芯まで染められてゆくよう。
車窓は落葉松の放つ黄金色の輝きに溢れ、何となく僕の旅のフィナーレを祝福してくれているよう。すると、そこに大きな湖が。傾きかけた陽射しを映す湖面の先には、岩手山の姿。ここにきて、まだ岩手を離れたくないという気持ちが溢れてきます。
落葉松に包まれた高地を駆け降り、だんだんと人家が増えてきます。そうすると盛岡まではあと少し。カーブを繰り返すバスの窓には、遠くに岩手山が見え隠れ。
11日前のこの時間、僕はあの山の裾野に居た。あの山が紅葉に包まれた姿を、確かにこの眼で見た。でもそれは遠い昔のことであるかのよう。長くて短い、濃厚な旅の終わりの気配に、僕の心も黄昏れ始めるのでした。
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