久々に訪れた札幌の街ともお別れのとき。函館本線に乗車し、西へと向かいます。721系の大きく取られた窓からふと外を眺めれば、そこには残雪輝く手稲山。5月に雪解けと桜の時期を迎える北の都。日本列島がいかに広いかを、改めて強く感じます。
手稲山が見えるあたりまでは、まだまだ札幌の市街地。家並みがまばらになり始めたかと思うと、いきなり車窓に広がる青い海。列車は小樽の手前まで、石狩湾に沿って走ります。
列車が進むごとに、刻一刻と色を変える北の海。船上からの大海原もさることながら、車窓を占める海の青さもまた素晴らしい。うっすらと掛かった海霧越しに小樽の街を眺め、この時期に初めて乗る函館本線の絶景に心を奪われます。
雪山と海原の車窓を愛でつつ揺られること30分、小樽駅に到着。ここに降りたつのは札幌以上に久しぶり。最後に訪れたのはニセコスキーの帰りだったので、かれこれ10年以上ぶり。
裕次郎ホームとして有名な4番線で昔の小樽駅に思いを馳せ、改札口へと向かいます。すると正面には、太陽を受け輝くたくさんのランプが。古くから硝子の街として栄えた小樽の歴史を感じます。
昭和9年に建てられたという小樽駅。構内に漂う心地良いレトロ感を味わい、いよいよ小樽の街へ。その前にと振り返れば、そこに佇む重厚な駅舎。北海道経済の中心地の玄関として建てられた駅舎からは、重ねてきた歴史が香るかのよう。
昭和初期の美しさを持つ駅舎を出れば、出迎えるのがこの眺め。駅前からまっすぐのびる通りは緩やかに下り、その先に見える海と大きな船。ここが古くからの港町であるということを、訪れた者に強く印象付けるような素晴らしさ。
眼前に海と船を見据えつつ、久々に味わう小樽の空気。ふと思いたち角を曲がれば、路地に取り残されたかのように連なる古い建物。風雪に長らく耐えてきた跡が、一朝一夕には出せない深い味を滲ませます。
人の暮らしの匂いが染みついた通りを抜けると、そこは北海道の経済中心地として栄えた銀行街が。鰊漁や貿易港として栄えた小樽には、かつていくつもの銀行が建てられたそう。その名残が、今でも十分すぎるほどに感じられます。
その中でも目を引く立派な建物は、日本銀行の旧小樽支店。大正元年に建てられから90年もの間現役として使われていましたが、現在は『金融資料館』として一般に開放されています。
中へと入ろうとする者を迎える、扉に掲げられた日銀マーク。もうこの時点で、庶民を寄せ付けんばかりの威圧感。そんなことを思う僕は、紛れもない庶民。
本店、大阪支店に次ぐ豪華さだというこの旧小樽支店。広々とした行内は石や木、鉄など様々な素材が贅沢に使われ、一層恐縮してしまうような空気感が漂います。
更に奥へと進む、小市民丸出しの僕。するとそこはカウンターの内側、銀行員しか見たことのない景色が広がります。客と行員を隔てる窓。そこには防犯だけではない何かを感じてしまう。
最近ではネットバンキングやATMばかりで、窓口へ行く機会も激減。でもそれもここ20年位のことで、子供の頃は親に連れられ長い時間待たされたというのが、銀行に対する僕の印象。
僕にとってそんな銀行の原風景ともいえるのが、この金庫。行内の奥には必ずこれがあり、銀色に光り輝く姿からは、頑丈さとただならぬ雰囲気を子供心に感じたものです。
開け放たれた扉を見れば、この分厚さ。何が何でも金品を守りぬく。そんな気概すら感じさせる重厚さに、お金の大切さを再認識。最近では電子マネーやカード利用も増え、少しばかり薄れかけていたお金に対する意識。銀行の持つ威圧感とは、そんな人々に対する戒めなのかもしれない。
十数年ぶりに訪れた小樽、そして同じく久方ぶりに立ち入った、日本銀行旧小樽支店。心地よい緊張感の残る当時の雰囲気を味わい、やっぱり僕は庶民でいいやと今一度実感するのでした。
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