短いながらも存分に満喫した琴平ともお別れのとき。こんぴらさんの門前町に溶け込む渋い琴電琴平駅より、ことでんこと『高松琴平電気鉄道』に乗車します。
やってきたのは、鮮やかなぬり分けが青空に映えることでん1100系。あぁ、懐かしい。この電車に乗るのは、一畑電車以来6年ぶり。小さい頃まで京王帝都で走っていた5000系との久々の再会に、思わず胸の奥深い部分が熱を帯びてしまう。
電車は地方私鉄に相応しい小さなホームを滑り出し、鮮やかな緑に満ちた讃岐平野をのんびりと走ります。特徴的な片開きドアの大きな窓からは、5月の陽射しに照らされ青く煌めくため池が。
10年前に訪れた時も印象深かった、このため池の多さ。琴平線に並走する国道32号線を自転車で走りつつ、水不足に悩まされ続けてきた讃岐の人と自然との闘いの跡を肌で感じたことが懐かしく思い出されます。
瀬戸内自転車旅と京王帝都の記憶に包まれ揺られること小一時間、瓦町駅に到着。電車はこの先高松築港まで行きますが、この駅が高松の繁華街の最寄りのため、ここで下車します。
時刻はまだ16時過ぎ。学生やサラリーマン、主婦などたくさんの人が行き交う中、今宵のお店の見当をつけようと飲み屋街をぷらぷらと歩きます。
初めて歩く高松の街。繁華街には8つの商店街を繋ぐという日本一長いアーケードがあり、街の大きさと賑わいに驚き。更にそのアーケード沿いにも、飲食店の連なる道がいくつものびています。
そんなまだ眠りから覚めぬ飲み屋街の入口を守る、立派な看板。清酒金陵の文字が放つ誇らしげなオーラに、初となるこの地での一献への期待が高まります。
いくつか気になるお店を見つけつつ、8つあるアーケードのひとつであるライオン通商店街へと入ります。程よい道幅のアーケードの両側にはぎっしりとお店が連なり、どこで飲もうかと目移りしてしまいそう。
そんな中で目に留まった『快食道楽 秀』で、初の高松グルメを味わうことに。
冷たいビールで歩き疲れた体を癒し、まずは地たこポン酢でさっぱりと。
真だこはそれほど好きではない僕ですが、瀬戸内のものは別。歯に伝わる心地よい弾力と、噛んだ後に広がる旨味が堪らない。ぽん酢もそれを邪魔しない程度の丁度よさで、ビールを一気に飲み干しすぐさま地酒へと切り替えます。
続いては、香川名物のしょうゆ豆を。前回来たときに初めて食べて以来、その唯一無二の独特な美味しさに、うどんと共に忘れられない香川の味として印象に残っていました。
10年ぶりに味わうしょうゆ豆。あぁ、やっぱり旨い。大ぶりのそら豆は漬け込まれてギュッとしまり、充分に含んだ甘辛いしょう油の風味が地酒に合わないわけがない。しょうゆ豆と酒の無限ループ、気をつけなければ列車に乗り遅れてしまいそう。
お次はまたまた瀬戸内といえばの、鯛のお刺身。ほんのりと桜色のさす白身は、もちっとした弾力と適度な歯ごたえ。甘味と脂も必要十分で、口中に過度ではない穏やかな旨味がじんわりと広がります。
たこ豆鯛、やっぱり瀬戸内は旨いなぁ。しみじみと香川の味を噛みしめていると、今夜のメインである讃岐名物の骨付鶏が運ばれてきました。
柔らかくてジューシーなひなも捨てがたかったのですが、ここはやはり東京では中々味わえない親鳥でガッツリと。今回は注文時に切り分けるかどうか聞いてくれたので、無駄なく食べられるようにと切ってもらいました。
見るからに香ばしそうにこんがりと焼かれた親鳥をひと切れ。うん!やっぱり抜群の歯ごたえ!!これを硬いととるか、特長のひとつとして捉えるかは人それぞれ。でも、僕は好き♪
親鶏ならではの弾力に負けじと噛み締めれば、どんどんと身から皮から溢れ出す鶏の香りと濃厚な味わい。わたし、鶏!と全身全霊で主張するような味の強さは、親鳥でしか味わえません。
その親鶏の個性に華を添えるのが、丁度よい塩梅で施された味付け。塩ベースですが香辛料がぴりりと効き、ひと切れ、またひと切れと箸が進みます。そしてもちろん、讃岐の酒もどんどんいってしまう。
あぁ旨かった。この旅最後の晩餐も大当たり。前回はうどんとしょうゆ豆しか食べなかったので、それ以外の香川の味に出会ったのはこれが初めて。そして強く実感、僕はきっと香川の味が好みだと。これはまた飲みに来なければなるまい。10年ぶりの四国の味に、心の底から満たされるのでした。
最後の最後でまた旨いものに巡り合ってしまうなんて。サンライズ、キャンセルして高松に泊まっちゃおうかな・・・。いやいや駄目だ、お前はもう充分に日本の半分を味わったじゃないか。いやぁ、でも仕事は明後日からだし・・・。
そんな邪な葛藤に苛まれつつ歩く、夜の高松。ふと横を見れば、天神さんの守る渋い横丁が。次回の高松は、絶対泊まり。ほろ酔い気分で眺める街並みに、そう強く心に誓います。
賑わうアーケードを抜け、大きなビルの立ち並ぶ大通りへ。するとそこには、夜空に映える白い櫓が。この艮櫓(うしとやぐら)は、高松城の櫓として建てられて以来、340年以上もの間高松の街を見守り続けています。
旧高松城跡である玉藻公園。10年前、自転車を伴い宇高国道フェリー乗り場から眺めた月見櫓。そんな宇高国道フェリーも、高速道路に押されて現在休止中。高松城の石垣は、そんな時代の流れを黙々と、しかし延々と見続けています。
次回はこの玉藻公園にも来てみなければ。再訪の口実となる宿題を預け、高松駅へと向かうのでした。
コメント