1泊2日、短くも濃い時間を過ごした北海道ともまもなくお別れのとき。小樽駅前のバスターミナルより『北海道中央バス』新日本海フェリー行きに乗車し、港を目指します。ちなみにこのバス、非常に本数が少ないため乗車前に必ずご確認を。
小樽駅から小樽築港駅を経由し走ること30分、勝納埠頭にある小樽フェリーターミナルに到着。この埠頭は市街地からは離れており街灯も少ないため、夜間にここへ来るには必ずバスを利用した方がいいでしょう。僕も当初運河から歩くつもりでしたが、あまりの暗さに断念しました。
今回乗船するのは、『新日本海フェリー』の舞鶴行き。ロビーには乗船予定のはまなすの巨大模型が飾られており、再び始まる船旅への期待が一気に膨らみます。
ちなみに、今回も新日本海フェリーのHPから予約。寝台の指定も可能で、予約から決済まで完結できとても便利。更にあらかじめ「e乗船券お客さま控」を印刷して持参すれば、乗船手続きも不要。あとは出港の60~90分前までに港に行けばOKという手軽さが魅力です。
乗船開始までまだまだ時間がたっぷりあるので、ターミナル内の売店でクラシックを買い、北海道での最後のひとときを。
喉を流れる刺激と濃い味わい。その苦みと香りを味わっていると、段々と、しかし着実に姿を現しつつある別れの実感。僕はある意味ドMなのだろうか。敢えて船出という場に身を置くことが、切なくも幸せに感じてしまう。
そしてついに迎えた、乗船時刻。長いボーディングブリッジの窓からは巨大なはまなすが姿を現し、その大きく鋭い船首からは日本海の荒波を越えてゆくという強い意志すら感じてしまう。
白熱灯に照らされたデッキから船内へと入り、今夜の寝床を目指します。その道中に歩く、長い廊下。あぁ、懐かしい。僕の知っているフェリーの雰囲気。太平洋フェリーとはまた違った趣に、久々に味わう感覚を噛み締めます。
今回予約したのは、ツーリストA(寝台)。太平洋フェリーのB寝台と同じく、上段下段セパレートの二段式寝台となっています。
そしてこちらが今宵の宿。事前に寝台を選べたので、今回は窓側の下段、ひとり席を選択。通路との仕切りはカーテンで、室内灯にはコンセントももちろん完備。更に荷物棚中段の壁がくり抜かれ、寝台から直接テーブルや棚のようにして使えるのが便利。
自室に荷物をおろし、旅の汗を流すべく大浴場へ。はまなすのロビーも3デッキ分の吹き抜けとなっており、シルバーを基調とした内装がどことなく宇宙船感を醸し出します。
階段を上れば、手すりや壁、天井を彩る銀色の煌めき。上部には波を思わせるオブジェが飾られています。何だろう、初めて乗ったのに懐かしい。あくまでもいい意味でですが、このテイストは僕の子供の頃に思い描いた未来のかたちと、ゴージャスさ。
階上から見下ろせば、これまた匂わせる宇宙的雰囲気。シルバーやグレーでまとめられた中に掲げられた浮き輪が、辛うじて日本海を駆けるフェリーであるということを主張します。
シンプルながら清潔感のある大浴場で一日の汗を流し、さっぱりとしたところで出港の時を待ちます。大浴場のある5甲板左舷側の反対、右舷側には大きく取られた窓の並ぶプロムナードが。
その奥には、フリースペースとして利用でき、営業時間中は軽食も提供されるカフェが広がります。
それにしても、何だこの溢れんばかりのギャラクシー感は。はまなすは宇宙をテーマにしているそうで、廊下にも惑星の写真がたくさん飾られています。
名古屋から乗船したきそ、そして今回乗船するはまなす。奇しくも同じ年に生まれた両船に乗り比べる形となった今回の行程。コンセプトはそれぞれ全く違いますが、どちらにも共通するのは、夢を船という乗り物に載せてカタチにしようとする人々の想い。
きその南国リゾート感溢れる内装はクルージング気分を盛り上げ、このはまなすの童心を呼び起こさせるような近未来感は、非日常を演出する。好みは分かれるかもしれませんが、乗り物好きの僕にとってはどちらもこだわりを感じ、甲乙つけがたい。
今宵はこの小宇宙に腰を落ち着け、ワインを傾けることに。小樽市内限定販売のおたるワインで、北海道旅行のフィナーレを飾ります。すっきりと飲みやすく、それでいて甘ったるさの無い赤ワイン。心地よく感じる酸味と渋味が、北国との別れにビターな感傷を添えるよう。
湯上がりのワインをちびりと味わったところで、すぐ隣に位置するオープンデッキへと出てみることに。
はまなすは航行速力30.5ノット、国内フェリーとしては最速を誇る俊足船。時速60km/h近くの速さで航行するため、航海中はデッキに出ることができません。ですがこのオープンデッキは例外。左右の展望は楽しめませんが、海風を浴びながら去りゆく航跡を楽しむことができます。
時刻は23:30、はまなすは深夜の小樽港を静かに出港。高まるディーゼルの唸りと比例して、船出の切なさは最高潮に。あぁ、離れてゆく。愛する大地が、静かにゆっくり、離れてゆく。
ゆっくりと、しかし確実に速度を増すはまなす。素人でも感じる加速のはやさは、すなわち北海道との別れの速度。
どんどんと、遠くに去りゆく北海道。月も小樽の街も夜霧にかすみ、この2日間が夢か幻であったかのようにも思えてくる。
でもそれは違う。苫小牧から上陸し、札幌、小樽と歩んだ確かな時間。何度訪れても楽しませてくれる北の楽園は、今回もその期待を大きく上回る力で、僕を包み込んでくれた。
足元から伝わるエンジンの響き。スピードを増すごとに強まる、夜の海風の冷たさ。春まだ浅い桜咲く大地に別れを告げ、5月らしい初夏の京都を目指すのでした。
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