水と緑に溢れる後楽園を後にし、岡山城へと向かいます。そのふたつを結ぶのが、トラス構造の美しいこの月見橋。架橋後60年以上を経てもなお、未だ現役で人々を通し続けています。
月見橋は車の渡れない人道橋。そのため、鉄骨は細く華奢な印象がトラス構造をより一層繊細で美しいものとしています。
それにしてもこの月見橋、どこかで見たような構造だなぁ。そう考えてみると、北上川に架かる珊瑚橋に似ていることを思い出しました。帰宅後調べてみると、どうやらゲルバー橋という種類なのだそう。人と地形の戦いの跡である橋には、交通を支えるという機能美が宿っている気がしてなりません。
橋上からは、きらきらと陽の光を散りばめる穏やかな水面と黒き烏城の美しい対比が。こうして見ると本当にこの旭川が天然の堀として機能していたことが分かります。
と思いきや、この旭川は築城の際に流路を大きく変更されたとのこと。城の裏手に旭川を流し、それに伴い出た土を使い本丸の土台を造ったのだそう。お城は要塞、防衛の要であるということを強く感じさせます。
月見橋を渡りきり、いよいよ烏城公園の内部へ。その入口からは、背を向け天へと聳える岡山城の迫力ある姿を望むことができます。
堅牢な石垣に護られる門をくぐり、城内へと進みます。この門は昭和に再建されたもので、当時は御殿と書院を結ぶ藩主専用の通路としても使われたことから、廊下門と名付けられたそう。
場内へと入ると、すぐに目を引く立派な櫓が。この月見櫓は、岡山城でも数少ない現存する当時の建物。戦災にも耐え、天守に代わり藩政時代から岡山の街を見守り続けています。
その近くには、深く掘られた中に姿を現す石垣が。この石垣は、築城当時のものだそう。その後お城を拡張する際に埋められ、後の発掘調査で存在が発見されました。
当時は閉ざされていることの多かったという不明門をくぐり、いざ天守閣へ。岡山城は一番下の下段、月見櫓のある中段、そして天守閣のある本段の三段構造。このような呼び方をするのは岡山城ならではなのでしょうか、ここへ来て初めて目にしました。
そしていよいよ初めての岡山城とのご対面。漆黒の下見板に輝く金鯱の対比が美しく、その姿から、烏城、または金烏城との異名を持ちます。ちなみに松本城はからすじょう、岡山城はうじょうと読むのだそう。
天守閣内部の展示を見つつ、最上階へ。窓からは金に輝く鯱ごしに広がる、岡山の街。初夏の太陽に照らされたその姿は、人の営みと自然の豊かさが寄り添っているかのよう。
天守閣から岡山の眺望を楽しみ、外へと出ます。そして見上げる、漆黒の白。同じ烏城と称される松本城が黒色が主体なのに対し、岡山城は破風や格子に白が多用され、貼られた金箔が華やかな印象すら与えます。同じ烏城でもこうも違うものか。お城は時代や城主の趣向を具現化した物だということを実感させます。
初めての岡山城の威厳に触れ、お城を跡にします。振り返れば、延々と横たわる重厚な石垣が。
石垣を見ていつも思うこと。それは、これを築くだけの権力や財力があり、そしてそこまでして守るべきものがある、ということ。だからこそ、各地に残る城跡はその国の象徴として大切に保存されているのでしょう。
岡山城の東側は旭川がお堀の役割を担っていますが、こちらの西側には水を湛えた広々とした掘割が。以前は内堀、中堀、外堀とたくさんのお堀があったそうですが、市街地化によりその多くが埋められ、今はここにこうして残るのみ。
岡山城を後にし電停へと向かうと、そこには宇野バスの営業所が。改めてこうして見ると、渋い塗装に特徴的なマーカーランプが何とも言えぬカッコよさを醸し出しています。宇野自動車、いい意味でいかついなぁ♪
あと少しで岡山を発たなければならない時間。ということで、県庁通り電停から岡山電気軌道に乗車し駅を目指します。10年前、自転車で並走した想い出のある岡電。まさかこうして実際に乗ることができるとは。その嬉しさに、年甲斐もなくテンションが上がってしまいます。
軌道線特有の揺れと重低音に包まれつつ眺める、岡山の街並み。路面電車から眺めるそれは、また違った新しい表情に映るから不思議なもの。
前方に小さく見えていた岡山駅が、ゆっくりと、しかし確実に大きくなってゆく。10年ぶりの岡山は、そのとき以上に魅力的だった。それもそのはず、前回は泊まって食事しただけだったのだから。
だから旅はやめられない。知らない街には知らない魅力がある。それは実際に訪れてみなければ、決して解からないこと。美味と美観に満ちた岡山に再訪の誓いを立て、床下から響くモーター音に心酔するのでした。
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