濃厚な半日を過ごした姫路ともお別れのとき。駅前でもう一度振り返り、遠くに小さく輝く白鷺城の姿を目に焼き付けます。
これから向かうのは岡山駅。そこまでのルートは、山陽本線経由と赤穂線経由の2通り。距離的には山陽本線が近いのですが、どちらにしても途中乗り換えが必要になるので、今回は車窓を楽しめそうな赤穂線に乗ることに。
ちなみに乗車券は、山陽本線経由で購入した方がお得。というのもこの区間には「選択乗車」という制度が適用され、どちらのルートの乗車券を持っていても好きな方に乗ることができます。赤穂線は距離も長く、運賃も高めに設定された地方交通線。なので山陽本線経由のほうが、運賃がお安くなるのです。
播州赤穂駅で乗り換え、更に西へと進みます。列車は播磨国を抜け、備前国へ。車窓を占める長閑さが増したかと思えば、ふと広がる青い海。
特にここ日生駅は海に近く、駅前にはオリーブや映画の舞台としても有名な小豆島へ向かう船の桟橋が。いつかは小豆島にも行ってみたい。10年前に瀬戸内をサイクリングしたときの記憶が、当時の感動と共に甦ります。
海のきらめきに触れたかと思えば、鉄路は山へと舵を切り車窓は一変里山の風情に。立派なお屋敷やお寺、そして煉瓦の煙突が目立ち始めたらもうすぐ伊部駅。このあたりは備前焼の里ととも呼ばれるそうで、多くの窯元があるのだそう。
播磨から備前へ。関西から中国へ。いくつもの県や地方を越えてきた旅も、もう終盤。変わりゆく旧国名を冠した駅名にそのことを実感しつつ、岡山駅に到着。
岡山に来るのは10年ぶり、2度目。駅前広場へと出れば、そこには岡山ならではの桃太郎の銅像が相変わらずの姿で立っています。早速久々のご挨拶をと思ったら、お馴染みの犬、猿、雉の他に鳩のお供が足元に。桃太郎、鳩にもきびだんごをあげたのか。
動物を食べ物で誘惑する桃太郎に挨拶を終え、今宵の宿にチェックイン。今回はなかなかホテルが取れなかったので、駅前のアーケード入口近くに位置する『サウナ&カプセルホテルハリウッド』にお世話になります。(写真は翌朝撮影)
カプセルホテルを利用するのはこれが初めて。若干の不安を持ちつつ中へと入りましたが、明るく清潔感もあり、カプセル部分もリニューアルして間もないのか、きれいで快適。旅人にはありがたいコンセントも完備されています。
サウナと銘打っているだけあり、大浴場も広々としやはりきれい。これまで勝手に持っていたイメージをいい意味で裏切られ、これなら都市部での宿泊手段として検討候補にあがるなぁ、なんて一人で勝手に関心してしまいました。
ロッカーに重たい荷物を降ろし旅の汗を流したところで、10年ぶりとなる岡山グルメを堪能することに。今宵の酒場を探そうと駅前へと繰り出せば、重低音を響かせ走る路面電車が。
前回岡山に来たときも感じたこと。それは、公共交通の元気の良さ。古い路面電車を水戸岡デザインで大改造したことで有名なこの岡山電気軌道の他に、トラック野郎を彷彿とさせるマーカーランプを冠した宇野自動車、更に猫耳を生やした岡電バスまで、その多様な姿は見ていて飽きることがありません。
元気な電車、バスは多くの人を市街地へと運んでくるのか、駅周辺の繁華街は大賑わい。最近旅先で切なくなることもあるなかで、この活気は本当に楽しく感じます。
賑やかな人々の波に乗りつつ、今夜の酒場を探しふらふらと歩きます。そんな中見つけた『囲酒屋おいち』で、10年ぶりの岡山との再会に祝杯を挙げることとします。
入口を入るとすぐに並ぶカウンター席。そこの端に陣取り、ビール片手にメニューを見て悩むという幸せを噛み締めます。数ある岡山名物の中から、まず選んだのは焼きままかりの酢漬け。岡山といえばの名物です。
見るからに香ばしそうに焼かれたままかりを、頭からひと口。すると口から鼻へと良い焼き魚の香りが抜け、その後に程よい酸味と穏やかな魚の旨味が追いかけてきます。
しっかりと焼かれ、更に酢に漬けられているので、頭から骨まで全部まるごと食べられるというのも嬉しいところ。食べる部分により味わいも変化し、お腹の部分のちょっとしたほろ苦さが岡山の酒を誘います。
そしてこちらも岡山名物、さわらをお造りで。前回岡山に訪れた際に受けた、生のさわらの衝撃的旨さ。それまでサワラと言えば、西京漬けくらいしかイメージがありませんでした。
肉厚で旨そうなお刺身は、その見た目通りのもちもちとした心地よい弾力と上品な旨味が印象的。あの銀色に輝く姿からは想像できない、クセや嫌な脂っぽさの全く無い優しい味わい。
続いてはやはり岡山名産の、黄ニラときのこの卵とじを。東京では高級食材の黄ニラがたっぷりと入れられ、その青臭さのない独特な甘みがおだしにたっぷりと溶け出しています。
これまたたくさんのきのこからもいいだしが出て、このおだしがとてつもなく美味しいことになってしまっています。それをふんわりとまとめる、優しい卵。自分では絶対にこの味は出せない。プロの技、そして岡山の黄ニラの旨さに脱帽。
旨いつまみに旨い酒、食欲に火のついてしまった僕は〆にガッツリ揚げ物を注文。岡山ピーチポークのチーズカツは、カリッとした衣の食感に包まれた豚の旨味ととろけるチーズが言うことなしの美味しさ。
直感で入ったお店が大当たり。旅の醍醐味ともいえる味との出逢いですが、今回の旅はその的中率はバッチリ。岡山の食材や地酒が数多く並ぶメニューの中から選んだ品々は、どれも唸る美味しさのものばかり。
岡山の味で、お腹一杯胸一杯。そんな幸せほろ酔い気分で夜の街を歩けば、遠くから鼓膜と心を響かせる路面電車の轍の音が。軌道の走る街、好きだなぁ。
心地よい岡山の夜風に吹かれ、食後の散歩をのんびりぷらぷら。レールと電線が輝くといった路面電車のある街ならではの夜景の中、夜空にマーカーランプを煌めかせ疾走する宇野バスの雄姿。岡山の夜は、その独特さを一層感じさせるよう。
前回訪れた時も感じた、岡山との食の相性の良さ。食材もさることながら、味付もきっと僕に合っているのでしょう。今回は特に日本を半分ぐるりと回って飲み歩いたので、一層各地域の味の違いを体感しているのかもしれない。
東京にいると、意外とフルーツばかりに目が行ってしまう岡山名物。ですがここへこうして来れば、ここでしか食べられない味があると強く実感。
いやぁ、いい夜だ。味覚とお酒の余韻に火照る頬を撫でる、川越しの夜風。灯りを映しゆらゆらと煌めく川面に、今の夢見心地を投影するのでした。
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