名古屋港を出港し40時間、大海原を2泊3日掛けてはるばる航行してきた太平洋フェリーきそ。ここで過ごしたかけがえのない時間の余韻に、この船を離れがたい気持ちは増すばかり。
6年ぶりに踏んだ北海道の地。ものすごく、ものすごく嬉しいはずなのに、それすら霞んでしまうほど芽生えてしまった愛着。苫小牧フェリーターミナルの大きな窓ごしに、最後の雄姿を目に焼き付けます。
背後に巨大船の気配を感じつつ待つことしばし、『道南バス』の苫小牧駅前行きが到着。フェリーの時間に合わせ運行されているため、あまり本数が無いので要注意。他にも札幌直行の高速バスや新千歳行きのバスもあるので、アクセスは意外と便利。
それにしてもなんだこれ?慣れ親しんだ僕の知っている道南バスの新旧塗装じゃない。非常に厳しい公共交通機関、中古車を塗り替える余裕すら無くなってしまったのか・・・。
なんて失礼なことを乗車中に考えていたのですが、どうやら以前苫小牧には市営バスが走っていたそう。この車両はそれを引き継いだもののようで、言わば昔の記憶を残す生き証人。
そんなバスに揺られること約5分、出光カルチャーパークバス停に到着。ここで途中下車し海の方へと歩くこと15分、『海の駅ぷらっとみなと市場』に到着。駐車場にはたくさんの車が駐まり、市場の中は休日を楽しむ大勢の人で賑わっています。
お昼はこの市場で食べるということだけ決め、敢えて下調べせず何の予備知識もないまま歩く場内。たくさんの食堂が並ぶ中、目に留まった『みなと食堂』にお邪魔してみることに。
こちらは海鮮丼と刺身定食がメインで、それぞれ自分の好みのネタを選べるというシステム。金額によりネタの種類や選べる品数が変わるほか、普通の海鮮丼と同じく固定された組み合わせのものもたくさん。
風呂上りならぬ船あがりのビールを楽しむことしばし、注文したしあわせ刺身定食Aが運ばれてきました。久々の北海道ということで、北の海らしい3種類をチョイス。
左はひらめ。肉厚でこりっとした歯ごたえともっちりとした食感が共存する、北国の白身らしい旨さ。添えられたえんがわがまた、熱々の白いご飯にびったり。
中央はほたて。最近は青森で食べる機会が多いのですが、久しぶりに北海道のものを。食べてみれば言わずもがな、負けず劣らず美味。
肉厚でねっとり、そして程よく感じる貝の食感。噛めばじゅんわりと甘味が広がり、またまたご飯が止まらなくなります。青森と北海道、それぞれの味の違いを再認識し、やはり旅の醍醐味は食なのだと悦びを噛み締めます。
そして右は、苫小牧といえばの北寄貝。僕はこれを食べるために、港から札幌へ直行せず苫小牧市内へと向かいました。
その期待を込めつつひと口。すると広がる旨味と甘さ。うぅん、甘い!甘い♪自分でもたまにお刺身を作りますが、やはり産地のものは鮮度が違うのでしょう。厚みも食感も、そして甘さや海の香りも違います。
程なくして、一緒に注文したホッキフライも到着。カリッとサクッと揚げられた衣の中には、その食感に負けない存在感を持つ肉厚の北寄貝。加熱された分甘味や風味が増し、ソースやしょう油に負けない俺ホッキ!としっかり感じる自己主張。
最近は、敢えて下調べをせずその時の直感でお店を選ぶようにしています。その方が、旅の楽しみがもっと増えそうだから。今回はそんな作戦が功を奏しました。
北海道らしい豪華な海鮮丼には目もくれず、自分好みで選んだ白身と貝のしみじみとした美味しさ。僕はまぐろや蟹なんかより、こうした北の海の幸が好き。だって、地味だけど北海道でしか味わえないものだから。
北海道を訪れる度、毎度のことながら驚くのが魚介のおいしさ。ひらめもほたても北寄も東京で食べられますが、毎回毎回味の違いに驚いてしまうのです。その違いは、北海道から帰るとしばらく東京の刺身は刺身じゃないと思うほど。
やっぱり渡道して良かった。十数年ぶりに海を渡りやってきた北海道。そしてその海で育った恵みを味わうという幸せ。今自分は確かに北海道にいる。慣れ親しんだ旨さに、航海の夢うつつからやっと気持ちも上陸したのでした。
北海の幸に舌鼓を打ち、満足感を抱えて駅方面へ。途中大きな公園を見つけ、園内をのんびりぷらぷら歩きます。するとそこには、枝を見事に広げる桜が。あ、でも今はゴールデンウィーク・・・。膨らむつぼみの姿に、日本の広さを感じます。
そのまま大通りを進み、巨大な敷地を誇る王子製紙の一角へ。そこにはぽつんと、小さな機関車と客車が佇みます。
この車両は、昭和26年まで走っていた王子軽便鉄道のものだそう。製紙工場で必要な電力をと建設された千歳発電所の工事のため、支笏湖畔を通り千歳川の上流へと敷設されました。
海の駅から寄り道をしつつ、苫小牧駅へと到着。ここから久々のJR北海道に乗り、道都札幌を目指します。
ホームには既に電車が停車中。北海道を訪れた人の多くが乗るであろう、快速エアポートにも使用される721系電車。子供の頃初めてこの電車に乗ったときのことは、今でも忘れない。
全国各地、いや、世界各国から絶えず降りたつ飛行機。快速エアポートはその乗客で溢れかえり、冬だというのにものすごい熱気と押し潰されんばかりの混雑。
そんな状況でも、特徴的な内装に目を奪われる。デッキは鮮やかなスカイブルーに彩られ、描かれるのは北海道らしいすずらんの花。車内は一変して山吹色が温かみを与え、明らかに東京のものとは違う雰囲気を感じた。
そんな想い出の詰まった721系ももう古参。昭和末期に生まれた車両は、現代にはない華やかさと良い意味での垢抜けなさが愛おしい。
JR発足後、黒煙を吐くジーゼルカーと赤い電車しかなかった北の大地に新しい風を運んだこの車両。久々の721系に浸っていると、車窓はいつしか北海道らしい雄大なものに。
春まだ浅い、ゴールデンウィークの北海道。芽吹き前の大地に重なるのは、あの夜を駆ける煌めく星。6年前、僕は逆の方向を目指し、北斗星のロイヤルからこの景色を眺めた。そのことが昨日のことのようでもあり、幻のようにも感じてしまう。
ほんのりとした痛みを伴いつつ、思い出される北国での記憶の数々。さぁこれから、僕史上最短、1泊2日の北海道滞在が始まる。中部名古屋から始まったこの旅が迎えた第二局面に、経験のないほど胸は高鳴るのでした。
コメント