美味しいお寿司で最後の北海道グルメを楽しみ、満腹感と満足感を抱えつつお店を出ます。するとあたりは、一面霧の世界。海からやってきた霧は港町を包み込み、暮れゆく小樽を乳白色に染めるよう。
札幌、小樽と、今日一日たくさん、たくさん歩いた。でもこの光景を目にしてしまうと、散策せずにはいられない。ということで急遽、小樽運河さんぽの第二幕が開幕。北運河方面へと歩いてゆくと、艶やかな満開の桜が夜霧の中ぼんやりと浮かぶ姿が。
刻一刻と深みを増す、空の色。夜の北運河は一層静けさに支配され、夜霧に揺らぐガス灯の明かりがあたりを柔らかく照らすのみ。この付近は街灯も少ないため、ガス灯の持つ温かみをより身近に感じられます。
しのび会う、恋を・・・。どこからともなくそんな歌が聞こえてきそうな、夜霧に包まれた小樽運河。まさかこんな素晴らしいタイミングで、夜の運河を味わえるなんて。
その世界感に心酔しつつ歩みを進めると、ぼんやりと照らされ浮かび上がる北海製罐の倉庫が。小樽と運河の歴史を見続けてきた古老は、夜にその本当の美しさを魅せるかの如く静かに佇みます。
電灯には無い柔らかさ持つガス灯。その上には、夜の港をじっと見つめ佇む2羽のかもめ。それらを隠すように漂う夜霧の気配に、胸の深い部分がぎゅっと締め付けられてしまいそう。
言葉も出ない。このときの僕は、まさにその状態。夜景を眺める人々で賑わいつつも、しっとりとした雰囲気の漂う運河。覆う霧が全てを煙らせ、見たいものだけをこの目に見せてくれるよう。
昼とは全く違う表情を魅せる、夜の運河。重厚さを一層増した倉庫が映る水面には灯りがゆらめき、陳腐な表現だけれど、まさに宝石のような美しさ。
初めて訪れた、夜の小樽。運河は霧とガス灯の明かりに包まれ、異世界という言葉がしっくりくるような妖艶さに見惚れてしまう。夜霧漂うしっとりとした風とこの煌めきを全身に感じ、目と心に焼き付けます。
北海道の地を離れるまで、あと数時間。それなのに、最後までこんな顔を見せてくれるなんて。思いがけず出会えた素晴らしき光景の余韻を味わい、のんびりと坂をのぼります。
ふと横を見れば、そこには昼間歩いた手宮線の廃線跡が。外灯に鈍く輝く二条の轍に、この細いレールが支えてきた使命の大きさに思いを巡らせます。
坂の街、小樽。ゆったりと坂をのぼってゆけば、いつしか霧は姿を消し、先ほどまでの世界が幻であるかのような錯覚が。
初めて目にした、小樽の夜の顔。あぁ僕は、これまで何も知らなかった。昼の小樽、そして運河のハイライトやガラス館だけを見て、小樽に来た気になっていた。
季節、天候、時間帯。これらの無限な組み合わせの妙があるからこそ、何度も同じ場所訪れる意味がある。久々の小樽でそれを思い知り、自分の中で旅の選択肢が広がりゆくのを実感するのでした。
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