知恵を授けるという智恩寺へのお参りを終え、いよいよ日本三景のひとつである天橋立へと向かいます。さあ行くぞ!と意気込んで進もうとしたところ、なにやら止まってくださいとの声が。
これもしかして?と思いつつ眺めていると、赤い欄干の橋がゆっくりぐるっと回転。その横を、悠然と遊覧船が通り過ぎてゆきます。この回旋橋は、初代が大正時代に架けられたという天橋立の名物なのだそう。
先ほどの回旋橋を渡った先は、小天橋と呼ばれる部分。そしてこの青い橋の先が、大天橋。天橋立というとこの大天橋の眺めが有名ですが、小天橋と大天橋のふたつを合わせて、天橋立と総称するそう。
大天橋へと入れば、まっすぐに続く砂地と松林。海流や波浪により砂が自然に堆積してできたという天橋立。海の中、細く帯状に続く砂の陸。数えきれないほどの偶然が重なり、この不思議な地形が形づくられています。
右手に広い砂浜が見えたので進んでみると、そこには穏やかに広がる宮津湾が。それにしてもこの色!曇天なのにこの爽やかな青さ。僕は勝手に江の島のような色の海を想像していたので、どことなく南国すら思わせるこの青さに思わず感動してしまいます。
黒々と生い茂る松越しに見る、白い砂浜と青い海。白砂青松ということばをそのまま具現化したような素晴らしい眺めに、古くから名勝として愛でられてきた理由が分かるよう。
静かな松林の中をのんびり歩いてゆくと、小さな神社の姿が。その奥には、海に囲まれているにもかかわらず真水が湧く不思議な井戸、磯清水が。残念ながら飲むことはできませんが、この湧水で手を清めます。
松の茂る中、ひっそりと佇む天橋立神社。小学生の時に初めて日本三景のひとつである松島を訪れて以来、願うこと四半世紀以上。遂にここへ来ることができたというお礼を、心の底から伝えます。
天橋立神社を離れ、再び先を目指して歩き始めます。それにしても今日は凄い風。本当ならばレンタサイクルでと思っていましたが、あまりの強風に断念し、歩いて渡ることにしたのです。
先ほどの宮津湾は、相変わらずの穏やかさ。ですが反対側の内海である阿蘇湾は、この荒れよう。絶えず吹きすさぶ風に体はもっていかれ、頬が痛くなってくるほど。
風と戦いながら大天橋を渡り切り、対岸である府中、傘松地区へと入ります。辺りには低い家並みが広がり、古くからの海沿いの町といった趣。どことなく漂う生活感が、駅周辺とは違った穏やかな雰囲気を醸し出します。
海沿いの家並みを眺めつつ進み、桟橋へと到着。ここで『丹後海陸交通』の傘松観光券を購入。往復のケーブルカーと遊覧船の片道分がセットになっており、90円ほどお得になります。他にもたくさん券種が選べるので、事前にHPでチェックし行程に合わせて買うといいかもしれません。
それにしても目を引くのが、この渋い駅舎。明らかに時代を感じさせるその佇まいに、ここが古くから観光地として栄えてきた歴史を強く感じます。
味わい深い桟橋を後にし、お土産屋さんの並ぶ賑わう通りを進みます。すると正面に現れる、立派な鳥居。この元伊勢籠(この)神社は、お伊勢さんに祀られている天照大神と豊受大神が、伊勢へと遷る前に祀られていたお宮だそう。
起源は弥生時代にまで遡るというこの神社。その後奈良時代にこの地に遷り、以来1300年もの間天橋立を見守り続けています。
社殿はお伊勢さんとの関係の深さを感じさせる荘厳な造り。智恩寺とともに、天橋立が古くから景勝の地であるとともに信仰の地でもあることを物語ります。
今回の旅は、敢えて下調べをしないと決めていました。なので天橋立の景観以外の予備知識は、全くなし。だからこそ味わえる現地での思いがけない出会いは、旅を一層鮮やかなものにしてくれる。
荘厳なお宮にお参りを終え、歩く商店街。古き良き海の観光地の雰囲気が漂う街並みに、心の深い部分がほっとする。あぁ、天橋立って、昇り竜だけじゃなかったんだ。初めて訪れるこの地を、展望台に登る前から大満喫するのでした。
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