今回の旅の出発点はここ、新宿駅新南口バスターミナル。ここから出発と言えば、いつもなら会津や仙台なのですが、今回は逆方向の金沢へ。
そう、やっと金沢へ行くタイミングがやってきました!社会人になってからの一人旅の原点、金沢。ハタチのお祝いに加賀温泉郷や金沢、能登へ行ったのがついこの前のように感じます。その時の感動が忘れられず、次第に一人旅にハマっていくことに。
それほどまでに良い思い出をくれた金沢の街。ずっと再訪したいと思ってはいたものの、最近はすっかり東北にべた惚れしていたため、どうしても足を向かせることができませんでした。ですが、やっと今回この地へ行く決心がつきました。
というのも、金沢ありきでルートを考えていたところ、僕の「いまやりたいこと」を結ぶと素晴らしい行程が出来ることを発見してしまったから。
金沢の街を見たい。白川郷にも行きたい。高山の街並みと旨いものを楽しみたい。上高地にも行ってみたいし、信州の名湯や名酒を浴びたい。これがこのとき僕のやりたいこと。
地域的にはそれほど散らばってはいませんが、何せ免許を持たない僕にとって、鉄道で結べないこの候補地には頭を悩ませました。ところが、それが電車好きの悪い癖。はなから鉄道で移動しようと思っていたのが間違いのもと。
そう、バスがあるじゃないか。とバス路線をいろいろ調べてみると、それぞれをいい具合に結んでくれるバス路線の数々が。そう判った瞬間、僕の心はすでに金沢、飛騨、信州へと飛んで行ってしまっているのでした。
ということで、今回はバスをフル活用したのんびり旅行。鉄道利用がメインの僕にとっては珍しい行程ですが、そうとなったら行きも帰りもバスを使うことに決定。今回は『金沢エクスプレス』に乗車し、ゆったりと金沢を目指すことにします。
金沢エクスプレスはJRバス西日本、西武バスの共同運行。担当は違ってもゆったり仕様の3列シートという点では共通しており、広々とした座席でのんびり金沢を目指すことができます。
今回やってきたのはJRバス関東。これまで何度かお世話になったバス会社ですが、今回の車両のシートは一番快適。これなら8時間の道のりも大丈夫そうだと、走り出しから心強さを感じます。
バスは途中3か所の休憩を経て金沢へと向かいます。練馬から関越道に乗り、最初の休憩地点の上里サービスエリアに到着。普段車に乗らない僕にとって、このSAの雰囲気だけでもテンションが上がってしまいます。
この日は勤務明けで行ったため、新宿で立ち食いそばの朝食を摂ったのみ。でも夜には金沢グルメが待っているので、あまりお腹いっぱいにならないようお昼ご飯は食べないことに。
そのかわり、途中立ち寄ったSAで美味しそうなものがあったらつまみ食いをしようと決めていました。そこで購入したのがこれ、深谷名物ネギみそまんじゅう。ネーミングだけでもう旨そう。
粗めに刻まれた深谷ねぎが甘辛の味噌に和えられたものが入っており、ねぎの食感と味噌の風味がおまんじゅうにピッタリ。最近では様々なものを食べられるSAですが、こういう安定感のあるシンプルなものが嬉しかったりするものです。
バスは順調に上信越道へと入り、妙義山のギザギザとした独特の山容が見えてきます。新緑に包まれた不思議な山を眺めつつ、バスは碓氷峠へと差し掛かります。
碓氷峠と言えば、鉄道の難所として有名だった場所。新幹線の開通により廃線になってしまいましたが、僕の高校生のころまでは、あさまも、そよかぜも、白山も、長野や北陸方面への列車はみんな機関車に後押しされてえっちらおっちら登っていたものです。
鉄道の難所は自動車道にも優しくはないようで、急勾配と数々のトンネル、カーブを経てバスはエンジンを高鳴らせて登り続けます。
そしてついに関東脱出。目の前に広がる信州の山々は青く霞み、水田には水がはられたばかり。もう5月下旬というのに、季節が逆戻りしたかのよう。
目の前には大きな浅間山が。雪はほぼ消えていましたが、赤茶けた荒々しい山頂付近の迫力がフロントガラスを越えて伝わってきます。
バスは登った分を取り返すように下り続け、善光寺平を快走します。ここまでくると、車窓に見える山々には白いものが目立ち、青空と新緑との対比が何とも言えぬ美しさ。
ここ長野だって十分旅の目的地になる遠さであること、そして、自分がこれから向かおうとしている場所がもっともっと遠いところであることを今一度思い出します。
新緑に包まれた善光寺平とアルプスの山並みに見とれているうちに、バスは小布施パーキングエリアに到着。ここで2回目の休憩を取ります。
小布施と言えば栗。とはいっても、何度か長野を訪れていても自分で栗のお菓子を買ったことが無かったことに気づき、ここでひとくち栗ようかんを購入。
中は羊羹に栗が埋まったタイプではなく、あん自体が栗のタイプ。甘さはちょっと強めですが、その栗の風味たるや濃厚そのもの。
ちょうど濃いめの緑茶のペットを持っていたので、午後の陽射しを浴びながら、極上の一服のお茶を頂くことができました。あんまり食べないけど、和菓子、美味しいなぁ。
バスは再び善光寺平の縁を目指すかのように登り始め、信越国境を目指します。ここまで来ると雪の残るアルプスの山並みは間近に。縫うように蛇行する上信越道。カーブを曲がるたびに新しい角度を見せる山々は、いつまで見ていても飽きることがありません。
延々と続く白い山脈。東京はすでに夏日が出ているというのに、この清々しい光景に未だ春を感じてしまいます。長い坂を下り始め、バスは間もなく新潟県へ。この先上越ジャンクションより、北陸道へと入ります。
北陸道へと入りしばらく進むと、いきなり目の前にきらめく海が。以前北陸本線に乗った時に北陸道が並走していたのは知っていましたが、つい先ほどまで日本を代表する山岳地帯の美しい車窓を楽しんでいたため、この切り替えの早さに驚いてしまいます。
この辺りは山と海岸が近接する険しい地形。川の上流を見れば手の届くような距離に雪山が未だ見え隠れしています。
そうこうしているうちに、ついに山と海が拮抗する場面に。これは12年前に金沢へ行った際にも印象に残った車窓。悲しい伝説が地名の由来となったと言われるここ、親不知・子不知。残り僅かな陸地を鉄道と一般道が辛うじて分け合い、北陸道は海上へと追い出されてしまっています。
鉄道から見た北陸道も印象的でしたが、北陸道から見るこの場所もまた印象的。バスが海を航行しているかのような錯覚を感じる車窓もさることながら、一歩引いた場所から見る、旧来の往来の厳しさを思わせる地形が目に焼き付きます。
バスは古くからの交通の難所を抜け、富山県へ。水田の奥には、美しい白さを輝かせる立山連峰が。
本当は富山にも来たかった。黒薙温泉にも泊まりたかった。最後まで信州を取るか富山を取るかで迷いましたが、富山はもうすぐ新幹線が通る場所。東京から行きやすくなるはずなので、次への宿題にと泣く泣く諦めたという経緯があります。近い将来、絶対に来てやる!美しい立山にそう心の中で誓うのでした。
バスは最後の休憩地、有磯海サービスエリアに到着。もうここまでくれば石川県も目と鼻の先。なんだかんだでここまで来たなぁ。後ろに控える立山を見て今一度そう噛み締めます。
新宿を出てから6時間とちょっと。最初は明けの疲れもありきっと寝てしまうだろう。3列シートなんだからいい仮眠タイムだ、などと思っていましたが、あまりの車窓の移り変わりに、すっかり目が冴えドライブ気分に。
車を運転できない僕にとって、このルートは余りに刺激的。山あり、川あり、海ありの、目くるめく車窓を楽しむドライブをすっかり満喫したのでした。
目指す金沢まであと少し。このバスを降りれば、日本海の幸が両手を振って待ってくれているはず。今宵の美酒美食への期待を胸に、残りの車窓を楽しむのでした。
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