腹に響くディーゼルの響きに、心に沁みる船旅の持つ旅情。遊歩甲板でそれらをどっぷりと浴び、海風の冷たさを感じたところで船内へ。さあこれから、船上でのひとり名古屋めし宴会が始まります。
今夜の酒の供はこの面々。手羽先にまる天、天むすと、伊勢湾岸の旨いものがずらり。それらに合わせるのは、常滑は澤田酒造の白老特別純米酒春うらら。自社の田んぼで育てた酒米を使ったというお酒は、ほんのり心地良い酸味と旨味を感じる飲みやすい美味しさ。
常滑の春の香りをひと口味わったところで、いよいよ宴の始まり。まずは世界の山ちゃんの手羽先から。世界の山ちゃんは東京にもお店がありますが、食べるのはこれが初めて。
見るからに食欲をそそるきつね色の手羽先にかぶりつけば、口から鼻へと抜けゆくコショーのインパクト。うわぁ、これ旨ぇ。コショー好きの僕にとってはたまらない、文句なし最高の酒のアテ。
鼻孔と舌先をくすぐるコショーと地酒の協演を楽しみ、続いては伊勢磯揚げまる天の海老ねぎ天を。こちらは以前お伊勢さんの帰りに宇治山田駅で購入し、近鉄特急の車内で食べたもの。その時の美味しさが忘れられず、再び購入しました。
ひと口噛めば、まず感じるのが食感の良さ。練り物特有のぶりんとした心地よい歯ごたえに、海老のぷりぷり感と青ねぎのシャキシャキ感。食べる毎に楽しい歯触りを楽しめます。
ベースの魚のすり身は旨味が濃く、塩分や甘味のバランスが絶妙。海老にあたればより磯の風味を楽しめ、青ねぎからは独特の爽やかさを感じられます。
旨いつまみが揃えば、自ずと酒が進んでしまう。ということで、今度は設楽町は関谷醸造の蓬莱泉特別純米酒可。(べし)を。すっきりと飲みやすく、それでいてしっかりと日本酒の味わいを感じさせてくれるお酒。
続いては、これまた有名な風来坊の手羽先を。こちらは甘辛いたれが絶品で、コショーとはまた違ったスパイシーさも味わえる逸品。初めてこうして食べ比べましたが、どちらも甲乙つけがたい個性的な旨さ。文字通りクセになる、中毒性のある食べ物です。
愛知三重の旨いもの、旨い酒に酔いしれ、程よくいい気分になったところで〆を。これまた名古屋名物の天むすで腹固め。今回は、名古屋駅の地下にあったにぎりたてというおにぎり屋さんで3個入りのパックを購入。
そう言えば、名古屋の天むすを食べるのは初めてのこと。小ぶりなおにぎりをパクッと食べてみると、驚いたのはその味付け。天むすって、甘辛いたれじゃなかったんだ。そう、しょう油ベースではなく塩味なのです。
普通の天ぷらよりも少し厚めの衣は、ふわっとしつつ嫌な油っぽさはありません。海老の食感も無駄にぷりぷりせず、ご飯と相性のいい程よい存在感。
そして何より驚いたのは、油とおにぎりの相性の良さ。東京で食べる天むすは海老天を無理やりおにぎりにしました感を拭えず、甘辛いたれと相まってちょっとした油っぽさ、クドさを感じることがしばしば。
それに対しこの天むすは、海老天の持つ適度な油分がお米や海苔にコクを与え、おにぎりにしたからこそ生まれる一体感ある旨さ。小ぶりなサイズも相まって、気を付けないといくつでも食べてしまいそう。
この旅最後の名古屋グルメに舌鼓を打ち、寝台に戻ってぐうたらごろ寝。一杯になったお腹が落ち着いたところで再びお風呂に入り、ビール片手に夜の甲板へと向かいます。
海風に吹かれながら、ゆっくり過ぎ去る沿岸の灯りをぼんやり眺めるひととき。洋上で味わう、非日常。これこそが船旅の醍醐味であり、僕が求め続けていた物理的、心理的なゆとり。移動中の拘束時間というものは、すなわち日常から解放してくれる時間なのです。
空と海が溶けあう、夜闇の大海原。船が波をける音と潮風をしばらく感じ、今夜は寝ることに。寝台でごろりとすれば、背中から伝わる心地よいリズム。
いま僕は、大きな船に乗っている。ビルよりでかい、そんな船でさえゆったりと揺らす波の鼓動。この大海原と一体化するかのような感覚は、船旅でしか味わえない特別な体験。
まるで大きな揺りかごに揺られているかのような安心感、心地よさを感じさせる快適な船旅。今宵は母なる海に身を任せ、深い眠りへと落ちてゆくのでした。
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