名古屋港から太平洋を延々航行すること21時間、きそはまもなく寄港地である仙台港に接岸。その様子を見ようとデッキに上がると、お昼にお話しをしたライダーの方と偶然再会。お互いの旅の安全と成功を祈り、お別れします。
仙台港で下船する人々の群れに紛れ、僕もここで一時上陸。長い長いボーディングブリッジを歩いて振り返れば、そこには巨大な白い船。僕はこれに乗り名古屋からやってきた。そしてこれからさらに北へ。1日を過ごしたこの船に、早くも愛着を感じてしまいます。
この日は港内混雑予想のため、普段より40分程早い16時の到着。とはいえ仙台に居られるのは実質3時間程度なので、駅方面を目指すのは少々困難。ということで、僕は歩いて15分程の距離にあるイオンへ。また別の方向へ行けばアウトレットもあるので、長い船旅の小休止にと出掛けてみるのもいいでしょう。
巨大なイオンで食料を買い込み、きその待つフェリー埠頭へと戻ります。埠頭が近付くにつれ、どんどんと存在感を増してゆくきそ。何度も何度もくどいようですが、これが本当に動くなんて信じられない。この圧倒的迫力は、生で体感しなければなかなか伝わらないかもしれません。
ターミナルで乗船開始時刻となるのを待ち、再び船内へと戻ります。さすがはゴールデンウィーク、この日の仙台~苫小牧間は満室とのこと。それでも混雑や窮屈さを微塵も感じさせないのは、大型フェリーの持つゆとりある空間だからこそ。
仙台出港は19:40。それまでまだまだ時間があるので、ひとっ風呂浴びて二度目の船上ひとり宴会を開始。まずは昨日名古屋で買った、愛知県西尾市は山崎合資会社の焚火辛口純米で乾杯。すっきり飲みやすく、程よい酸味や旨味を感じる美味しいお酒。
そんなワンカップに合わせるのは、仙台といえばの笹かま。どのメーカーも美味しいのですが、特に僕のお気に入りなのがこの鐘崎の大漁旗。
化学調味料や保存料のほか、卵白やでんぷんなどのつなぎも不使用の笹かま。一口噛めば、ぶりん!という心地良い弾力とふっくらとした柔らかさが共存する魅惑の食感。味のほうももちろん文句なしに美味。魚の旨味がじんわりと、それでいてしっかりと凝縮されています。
そしてこちらが今晩の献立。三陸産切り昆布の煮物は柔らかさと海藻の旨味がお酒にピッタリ。テナントのお魚屋さんで購入したあかめばるの煮付けは、見た目は濃そうですが白身の味を邪魔しない味付け。お寿司もパックのものですが、東京で買うものとは全く違うコスパの良さ。
今回の旅は、東北はこの仙台上陸が最初で最後。なのでなるべく東北を感じられるものをと、こんなラインナップにしてみました。それに合わせるのは、僕の好きなお酒一ノ蔵。次回の東北は夏のねぷたまでおあずけ。愛する地との別れを惜しむかのように、じっくりじっくり味わいます。
お腹もいっぱいになり、程よくいい気分になったところで甲板へ。夜空に映える巨大なファンネルの横には、それに負けじと輝く月。
広々としたデッキから望む、夜の仙台港。夜霧にけむるその眺めは、幻想的のひと言。そんな仙台ともまもなくお別れ。その瞬間を見ようと、多くの人々が甲板上へと集います。
ボーディングブリッジが外され、引き上げられるランプウェイ。さようなら、仙台。また来る日まで。何故だか船での旅立ちは、いつも以上に切なくなる。夜という時間が、そんな気持ちを一層掻き立てるのかもしれない。
仙台港は大型船が自力で転回できないため、このタグボートがお手伝い。こんなに小さな体なのに、大きなフェリーをグイグイと曳き方向転換させてゆきます。
文字通りの小さな巨人、タグボート。想像以上に早いスピードで巨大フェリーは向きを変え、仙台の街にお尻を向ける格好に。夜霧にかすむビル群と、光り輝く観覧車。仙台の光を、今一度この目に焼き付けます。
繋いでいたロープが切り離され、役目を終えて岸壁へと帰るタグボート。すーっと進むその様子からは、大仕事も涼しい顔でこなしてしまうような風格さえ漂います。
再び存在感を増し始めた、力強いエンジンの響き。鏡のように夜景を映す夜の海を、ゆっくりと、しかし確実に速度を上げながら滑ります。
ゆったりと流れゆく仙台港の輝き。霧にかすむ幻想的な姿を、ただひたすらに眺めてしまう。船旅とは、有り余る時間を愉しむもの。こんな状況に身を置かない限り、夜景をぼんやり眺める時間を持つことなど、日常生活ではありえません。
出港、入港、離合に日の出。なんてことの無い瞬間が、ある種イベント化してしまう。これは時間的余裕のある船旅ならでは。それを楽しめる人こそ、船旅をお勧めしたい。
この後20時から、シアターラウンジサザンクロスで開かれた無料のラウンジショーを鑑賞。このときは子供の日が近いということで、童謡を中心とした歌謡ショーが行われていました。
普段の僕なら参加しないようなイベントも、行ってみれば新しい発見が。敢えて急がず、時間の流れに身を任せてみる。船は移動手段である以上に、普段経験できないことを味わわせてくれる特別なもの。波の鼓動と同じくゆったり流れる時に、素敵な夜を過ごすのでした。
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