初めて迎える姫路での朝。9歳の時に来たときはお城に立ち寄っただけなので、こうして街の表情を見るのは初めてのこと。これから賑わうであろうアーケードも、まだ朝のひっそりとした空気に包まれています。
駅前からのびる大通りをお城目指して歩くのが王道のコースかとは思いますが、一本入った道を歩き街の横顔を見るのもまた旅の楽しみのひとつ。朝の商店街の静かな空気を感じつつ歩けば、アーケードが途切れた先に突如白亜の城郭が姿を現します。
今回は素泊まりプランだったため、朝ごはんはこれから。ということで、姫路城前の家老屋敷跡公園の一角に位置する『茶処ちせん』であの姫路名物を食べてみることに。
その名物と言うのが、このアーモンドトースト。以前テレビで見て以来、あまりパンを食べない僕もずっと気になっていたトーストです。
こんがりきつね色に焼けた分厚いトーストをひと口。すると感じる、サクッ、カリッ、ふわっとした食感の良さ。バターに混ぜ込まれたグラニュー糖が、溶けたところはパリパリに、残ったところはカリッとした食感を演出します。
たっぷり混ざったアーモンドは主張しすぎず、それでいて香ばしさやほんのりとしたナッツの風味を添え、そしてやはり食感のいいアクセントに。
見た目はシンプルだけれど、これは好き!この後お土産にとアーモンドバターを探しましたが、どうしても立ちはだかる要冷蔵の壁。誰か常温で持ち帰りができるアーモンドバター、作ってくれないかなぁ。
素朴で素直に旨い朝食を味わい、いよいよ18年ぶりとなるあのお城との再会を果たす時が。松本城とともに僕の建築物としてのお城好きを自覚させてくれた恩人との対面を控え、逸る気持ちを抑えることができません。
さすがはゴールデンウィーク、時刻はまだ9時過ぎだというのにお城周辺は大勢の人々で賑わいます。そんな人の流れに乗り、大手門をくぐりいよいよ城郭内へと進みます。
大手門をくぐると、すぐに広がる三の丸広場。その先には、美しく羽を広げる白鷺の姿が。5月の晴れ空の下輝く姿を目の当たりにした瞬間は、ベタだけれど、鳥肌が立ち言葉を失うとしか表現のしようがありません。
余りの美しさに、しばし呆然と立ちすくむ。僕の記憶は間違っていなかった。9歳の僕が感じた神々しさは、美化された思い出やイメージでもなんでもなく、ありのままの現実として、いまこうしてここにある。そのことを確かめられただけでも、ここへ来た甲斐がある。
進むごとに足を止めてしまう、白鷺城の優美な姿。歩むごとに変える表情を見逃すことはできず、広い三の丸広場の反対側にある入城口までなかなか辿りつけません。
すると、あれよあれよという間にそれまでなかった大行列が。さすがは連休中、想像を超える混雑ぶりに、自分がいかに連休慣れしていないかを痛感。
初夏とは思えない強い陽射しに耐えつつ待つこと1時間。ようやく券を購入し、菱の門をくぐりいよいよお城の内側へと入ります。
三国堀越しに眺める、初夏の鮮やかな緑と白く輝く姫路城。平成の大改修を終え一層輝きを増した天守もさることながら、この幾重にも連なる石垣がたまらない。くどいようですが、幼少期に得たここでの原体験が、今の僕の趣向を形成したに違いない。
非常にゆっくりと進む人の流れに乗りつつ、少しずつ、少しずつ近づく姫路城。その距離が縮まるごとに増す威厳。重機も何もない時代に、これを築き上げてしまうお殿様の力。昔の人々はこの圧倒的な威圧感に、その力の大きさを感じていたことでしょう。
僕の姫路城の印象は、その白さと歩いても歩いても辿りつかないというスケールの大きさ。その記憶の通り、城郭内は迷路のような長い通路が延々と続いています。
お城の防衛のために張り巡らされる複雑な通路。そこを進めば天守を眺める角度も刻一刻と変わり、白鷺の美しさを余すことなく見せてくれるかのよう。
高く積まれた石垣の上に聳える大天守。そこへの道のりは、曲がりくねった登り坂。進むごとに景色が変わり、角を曲がればまた新しい表情が。このにの門手前では一気に通路の幅が狭まり、城郭が防衛のための知恵と工夫の結晶であることを感じさせるよう。
天守閣を見上げつつ、右へ左へと進む道。様々な角度から見られることを見越したかのように、この白鷺城には死角がない。どこから見ても、本当にただただ美しいのひと言。
どこまでも白さに包まれる姫路城。その中で異彩を放つこの土壁は、油壁というのだそう。工法から推測するに非常に古い時代のもののようで、優雅さすら持つ白鷺城の荒々しい一面を垣間見たような感覚に。
菱の門から登りはじめて1時間、ついに大天守へと到着。見上げるその大きさに、これが400年以上も建ちつづける木造建築であることが俄かに信じがたい。
さすがはゴールデンウィーク。人波に揉まれ渋滞もありましたが、意外にそれが良かったかもしれない。細かいところを観察し、姿を変える白鷺城をひたすら愛でる。そして自分が足軽だったら、落とされた石でイチコロだよなぁ。そんな時間を得られたのは、このゆっくりさがあったから。
いよいよ18年ぶりとなる姫路城大天守の内部へ。子供の僕の心を射抜いた強烈な存在を目前にし、嬉しい意味で総毛立つのを感じるのでした。
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