早くも2軒の酒蔵に足止めを食らい、いい気分になって再び歩き始めます。小雨に濡れ、しっとりとした雰囲気に包まれる高山の古い街並み。傘が少々邪魔ですが、雨のこの佇まいもまた良いもの。
軒下には青々とした葉を茂らすあじさい。これからくる梅雨を待ちわびるように、雨粒に打たれ揺れています。
古い街並みも、外れまで来れば人も落ち着きのんびり歩くことができます。渋い黒に映える、飛騨ならではのさるぼぼの赤。今一度、来たかった飛騨高山に居ることを実感させます。
立派な商家が並ぶ街並みが途切れたと思うと、そこは長く続く商店街。新旧が当たり前のように隣り合わせで共存する。何となく不思議な気持ちになります。
一本奥の道へと入れば、先ほどよりも人通りも少なく落ち着いて古い家々をゆっくり楽しむことができます。
重厚な家並みの先には、これまたどっしりとした土蔵が。古い街並みエリアにはいくつも酒蔵があり、こちらもそのひとつ。
何軒か数百円で数種類試飲させてくれる蔵を見つけ、どれも入ってみたい誘惑に駆られます。無料で試飲となると買わなければ申し訳ない、という気持ちになりますが、有料でお試しならあまり抵抗なく入れそう。
それでもそこはぐっと我慢。思いっきり後ろ髪を引かれる思いでそのまま前を向いて進むこととします。そしてやってきた、市政記念館。明治28年に旧高山町役場として建てられたものだそう。
立派な外観からは、古くからこの高山が栄えてきた歴史が感じられます。瓦葺きの入口から中へと入れば、磨かれた木が光る温かみのある廊下。
和風の外観と同じく、1階にある部屋は庭を望む畳の和室。このような部屋で執務を行っていたと思うと、明治と江戸は隣り合わせの時代だということを思い出します。これまで見た洋室の並ぶ役場では感じたことのない独特の雰囲気。
2階へと上がれば、折り上げ格天井がひときわ目を引く空間が広がります。こちらは会議室として使っていたそうで、大工さんによって作られた美しいラインの天井に思わず見とれてしまいます。
旧役場の窓から眺める、古い街並み。ここから眺めるこの景色は、明治28年からきっと変わっていないことでしょう。
再び1階へと降り、外へと出ることにします。その途中で見つけた木造の電話ボックス。中には資料館等で良く見る、ハンドルをぐるぐる回すタイプの電話が取り付けられています。この電話ボックスは大正時代のものだそう。
最近は、出かける前に過度の下調べをしないようにしています。ここ飛騨高山も、以前見て食べたかった漬物ステーキでもつまみに旨い酒が飲みたい、その動機だけで一泊することに決めました。なので、この古い街並みの一画もさっと見るだけかな、と思っていました。
ところが、いざ市街を歩いてみると、江戸時代から始まり色々な時代の建物が点在していること。中には高山という街の繁栄を感じさせるものも多々あり、想定外ながらわくわくして街歩きを楽しみました。
失礼を承知で言わせてもらうと、訪れるまでは山間の大きな街という風にしか思っていませんでした。が、実際に訪れてみると、飛騨地方の中心部として発展してきた、歴史ある街だということがひしひしと伝わってきます。
これだから旅はやめられない。実際に訪れて初めて解かること、思うことがある。飛騨高山、来て良かった。
想像以上に数多く存在する古き良き建物。そしてそれらが今でも暮らしの中で溶け合っている街並み。期待以上の表情の豊かさに、もうすっかり好きな街のひとつになってしまいました。
川沿いの通りを行けば、黒い板壁が立派な建物と、積まれる一升瓶の通箱。こうして古い建物が今なお現役でいること、これこそが僕の中で一番心魅かれるポイントなのかもしれません。
古くからの木造建築があったかと思えば、その隣にはレトロ感を漂わせる古き良き銭湯。こんな銭湯、もう近所で見ることは出来なくなりました。
飛騨の重厚な造りの家々が軒を連ねる古い街並み。凝縮されたその空間を思い切り胸に吸い込み、そろそろ宿を目指すことに。帰り道も小径をのんびり、てくてく。普通の家に混じる古い建物を見て歩くのもまた一興。
思っていた以上に胸に響く街並み、飛騨高山。会津若松や金沢とはまた違った、この土地独特の雰囲気に包まれたこの街を、明日も半日楽しみます。
と、その前に、預けておいた洗濯物を忘れずにピックアップ。今宵の旨い時間を思い浮かべ、にやけ顔で宿へと向かうのでした。
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