ちょっとだけ早めの夕飯を終えて部屋で待つことしばし、いよいよ白川郷でのメインイベントの時間がやってきました。
こちらの城山館のご主人が、ご厚意で連れて行ってくれるナイトツアー。その存在を知り、白川郷での宿泊を決めたくらい楽しみにしていた時間。暮れ始めた白川郷集落を、ご主人の話を聞きながら車に揺られて移動します。
この日一日の日の余韻を薄らと残す中に咲く藤の花。昼に見るその色彩とは違い、ぼんやりと空に同化するかのような淡く儚い姿に目を奪われます。
田植え前のこの時期にしか見られない逆さ合掌。3軒仲良く居並ぶ姿は、まるで兄弟のよう。これから訪れる深い夜の闇に備え肩を寄せ合っているようにも見えてきます。
合掌造りの障子の窓から人々の暮らしの灯りがもれる白川郷。その中を生まれも育ちも白川郷というご主人のお話を聞きながら進みます。
今でこそ高速道路が通って交通の便が良くなったこの地ですが、以前までは本当に大変だったそう。高校へ進学すると寮へ入り、休みで帰ってきて合掌造りが見えてくると自然と涙が出てきてしまう。そんな学生時代の想い出も聞かせてくれます。
白川郷に伝わる「結」という助け合いの制度や、白川郷に対する思いなど、土地の人ならではのお話を聞きながら迎える白川郷での夕暮れ。
弱まりゆく空の光と、対照的に輝きだす人の暮らしが生む灯りの移り変わり。荻町展望台からの眺めは、映画のワンシーンでも見ているかのように、視界のすべてを捕らえて離しません。
残念ながら、僕の言葉や写真では、その魅力をこれっぽっちも伝えることは出来ません。でも、ひとつだけ自信を持って言えること。
泊まって本当に良かった。この瞬間を目に焼き付けることが出来て本当に良かった。ご主人のお話を聞けて本当に良かった。これは城山館に泊まった人だけの特権、本当に贅沢な白川郷での過ごし方かもしれません。
初めて訪れた白川郷。昼の顔もさることながら、暮れゆくその姿には一種の荘厳さ、神々しさすら感じてしまうほどの圧倒的な魅力。この地へ泊まらなければ味わえない幸福な瞬間を過ごし、宿へと戻ります。
温泉にも入り、美味を味わい、ナイトツアーも満喫し。あとはもう飲んで読んで寝るだけ。飛騨の酒を片手に読書にふけることとします。
まずは飛騨古川は渡辺酒造店の蓬莱純米吟醸家伝手造りを。今まであまり飛騨のお酒を口にする機会がありませんでしたが、東北や北陸とはまた全然違うタイプのお酒。
辛口ではありませんがすっきり飲みやすく、その中でお米や水の良さが感じられるような優しい口当たり。いやぁ、またひとつ、好きな酒どころが出来てしまいそう。
続いては下呂の高木酒造株式会社、合掌造り純米にごり。見るからに濃そうな真っ白なにごりに魅かれて思わず購入。
ひと口含んでみると、期待通りの濃厚さ。もうお米を飲んでいると言ってもいいほど。それでも嫌な酒臭さは無く、甘味と酸味とアルコールのバランスが絶妙。このにごり、旨いなぁ。
本当なら立ち寄るだけだったはずの白川郷。お宿のクチコミからナイトツアーの存在を偶然見つけなければ、この貴重で贅沢な夜は過ごせなかったことでしょう。
本当に泊まって良かった。目にした光景、耳にしたお話、肌で感じた風。全てを焼き付けるように、静かな夜をじっくりと過ごすのでした。
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