車窓に記憶を重ねること1時間ちょっと、北海道の中心である札幌駅に到着。6年ぶりだというのにそんな気がしない。とは言いつつも、やっぱり久しぶりの札幌に少々興奮気味。
さすがは大型連休、駅も街中も人で溢れる道都札幌。そんな中僕も浮き足立って歩いていると、これまた6年ぶりの再会となる札幌時計台。大勢の人々にカメラを向けられ、札幌の歴史の生き証人もどことなく嬉しそう。
からりと涼やかな北海道、久々の札幌の空気を胸一杯に吸い込みつつ大通公園へ。そこには見事に咲く桜と、背後にそびえるテレビ塔。この旅の起点となった名古屋に建つテレビ塔の弟分。
テレビ塔の足元で、北国の春の訪れを喜ぶかのように咲く桜。今年二度目の桜を愛でることができた喜びを感じつつ、目を細めて塔を見上げます。
賑わう大通りとテレビ塔に別れを告げ、創成川沿いを歩きます。すると現れるのが、この創成橋。近くには北海道里程元標も建ち、言わば北海道の日本橋ともいえる存在。
架橋から100年以上にわたり、大都市札幌の交通を渡してきた古参の石橋。工事により一度解体されましたが、復元されて今でも多くの人と車を通しています。
橋の名前に由来を持つという創成川沿いを歩き、有名な二条市場へ。連休中の観光客で賑わう様子に、見ている方まで活気が湧いてくるよう。旅の最後だったら欲しいものはたくさんあるんだが・・・。指を咥えて横目で通り過ぎます。
創成川沿いで開かれた地酒フェスに心を惹かれつつ、今宵の宿である『ホテルロンシャンサッポロ』に到着。札幌一の繁華街であるすすきのや、駅からも近いという好立地が魅力的。
早速チェックインし部屋へと向かいます。シンプルながら落ち着いた雰囲気のシングルルームには、寝心地の良さが嬉しいシモンズのベッドが。そう言えば、この旅で宿で寝るのはこれが初めて。どんな旅行してるんだよ、自分。
荷物をおろし、再び札幌の街へと繰り出します。まずは人で賑わう狸小路商店街を、あてもなくのんびりぷらぷら。どこまでものびるアーケードに、札幌の街の大きさを感じます。
人の波に乗りガッツリ観光客気分で歩いていると、見慣れないかわいい狸が。こんなのいたっけ?帰宅後調べてみると狸小路のゆるキャラで、だっこポンというらしい・・・。この子、なにげに22歳。これまで全然気付かなかったなぁ。
でも僕にとって狸小路のたぬきといえばここ。賑やかにお店が並ぶ一角にひっそりと佇む、本陣狸大明神。
近寄れば、これまた首をかしげてひっそりと佇む狸の石像。って、たぬきってこんなんだったっけ?その個性的な風貌と匂わす怪しさに、ここを通ったら撫でずにはいられません。ご利益、あるといいなぁ。
そしてもう一人、ご挨拶しなければならないお方が。ひげのおじさん、久しぶり!!札幌へ来たら避けて通れない、絶対に対面したいこの光景。
僕の大切な札幌での儀式も終えたところで、程よき時間になったのでそろそろ酒場へ。あてもなく歩いていると、同じ狸小路商店街とは思えないほどレトロな雰囲気漂う一角を発見。その入口にある『男のイタリアン居酒屋スエゾウジャパン』にお邪魔してみることに。
お目当てだった看板記載のラムのたたきは、残念ながら品切れ。ということで、他にもある北海道らしいものをいくつか注文。
まず運ばれてきたのは、お通しの煮込み。イタリアン居酒屋というだけあり、洋の雰囲気を漂わせるコクのある美味しさ。添えられたバゲットとの相性もぴったり。
お隣は行者にんにくのしょう油漬け。この時期、この場所ならではのごちそうです。たまに自分でも調理する行者にんにくですが、甘さと独特の香りが段違い。春の生命力そのものといった力漲る旨さに、思わず北海道の地酒が進みます。
お次は定番の縞ホッケを。こちらは炭火を使っているようで、表面はパリッパリに香ばしく、中はふっくらジューシーに焼き上げられています。
久々に味わう北海道の縞ホッケ。道内でも輸入物が多いので、東京で食べるものと同じと思いがち。ですが、なぜか東京では美味しい縞ホッケに出会えない。消費量が多い分、いいものが北海道に集まるのでしょうか。これはラム肉にも言えること。気分的では済まされない、味の違いを楽しみます。
続いてはこれまた大好物、なまこ酢。北海道のなまこはギュッと身が詰まっており、不用意に噛むと歯を痛めてしまいそうになるほどの強い歯ごたえが大きな魅力。生臭さなど全くなく、ゴリゴリ感と共に心地よい磯の香りを存分に味わいます。
こちらのお店は、他にも串焼きや串揚げ、店名の通りイタリアンなメニューがたくさん。この後生つくねやとろけるようなレバーなど串焼きを楽しみ、地酒も進みいい具合に。
旨いつまみと北国の酒を味わい、ほろ酔い気分で歩くすすきの。段々と近づく低音に振り返れば、ゴトリゴトリと走る市電。北都の夜の風情を、夜風に吹かれながら噛み締めます。
こんばんは、ひげのおじさん。煌めくネオンに、流れるテールランプ。その合間を縫って走る市電からは、吊り掛けモーターの低い唸り。すすきのは、やっぱり夜が美しい。なぜかって?それはね、酔ってるから♪
きれいなネオンを愛でつつ楽しむ、夜のすすきの散歩。といっても、別に夜遊びをしていたわけではありません。高校の修学旅行で訪れた、すすきののラーメン屋さん。ところがその後何度探しても見つけられなかったので、今宵もチャレンジしたというわけ。
そして遂に見つけた、思い出のラーメン屋さん。『福来軒すすきの店』と、20年近い時を経て再会。ここは修学旅行で乗車した列車のアテンダントさんに、美味しい味噌ラーメン屋さんを教えて!と聞き教わったお店。
なにせ高校生の時のこと。すすきのの派手な空気に気圧されて、場所も店名もすっかり忘れてしまいました。だから今回も、入店時は半信半疑。レトロな感じと福なんとか・・・って名前が似てるような似てないような。
とりあえずクラシック片手に店内をぼーっと眺めてみると、作りや雰囲気から記憶の糸口が見え隠れ。そしてやってきた、味噌ラーメン。あれ?なんか見た目が違う。やっぱり違う店だったのか。そう思いつつ、恐る恐る食べ始めます。
うん、でもやっぱり旨い。修学旅行で生まれて初めて訪れた札幌に、そして初めて口にした本場の味噌ラーメンの濃厚さに驚いた想い出。スープを飲むたび、黄色い麺を啜るたび、その想い出が色味を帯びはじめてゆくのです。
食べ終わる頃には疑心が確信へ。そうだ、間違いなくここだった。ずっと掛かっていた靄が晴れ、ついに鮮明に思い出されました。
そのときは、アテンダントさんおすすめの味噌バターコーンを注文。だから見た目の印象が違ったのです。にんにく香る油多め味噌強めの濃厚スープに、たっぷりもやし。そして一発で僕を虜にした、札幌独特の黄色い麺。ついにやっと、再び出会うことができました。
あのときは楽しかったなぁ。あれから色々、あったよなぁ。食べ進むごとに若返る記憶に、汗が毛穴だけではなく目からもこぼれそうになる。でもそれもまたいい。懐かしむことのできる思い出があり、それを懐かしいと思える今があるんだから。
お腹一杯であるにもかかわらず、残すことなどできないとしっかり飲み干す旨いスープ。ごちそうさま、美味しかったし、懐かしかったです。そうお礼を告げ、お店を後にします。
あれから20年近く。再び三度、いや、こうして何度も札幌へ来ることができているという幸せ。もうあのお店の名前と場所は忘れない。これまで見つけられず、でもいまこのときに再会できたということが、何だか偶然とは思えない。
6年ぶりに歩く札幌の街。前回は小金湯に泊まったので、こうしてほろ酔いで歩くのはかなり久しぶりのこと。今夜は北海道で過ごす、最初で最後の夜。若きころの想い出に触れ、温かい気持ちで宿へと戻るのでした。
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