窓から溢れる眩しい朝日に起こされる、爽やかな朝。旅先ではカーテンを閉めないで寝るのが好きな僕。何故かと言えば、この自然な光で起こされるのが一番の贅沢だから。
普段の生活では、遮光カーテンで朝日さえ隠し、ぎりぎりまで寝てしまう。目覚まし無しでもいつもより早く起きるなんて、本当に贅沢そのもの。その目覚めがすっきり爽やかなのだから、言うことはありません。
開放的な旅の朝をより一層満喫しようと、早速朝風呂へと向かいます。よりどりみどり、どのお風呂にしようかと嬉しい悩みを愉しませてくれるこの宿ですが、朝一番は開放的なあのお風呂へと向かうことに。
すぐ裏手、先ほどの噴煙地から湧き出たお湯が掛け流される月見の湯。中房温泉で一番高い場所にあるこのお風呂は、周りに遮るものが無く朝日をたっぷりと浴びています。
初夏と言えどもまだまだ肌寒い山の秘湯の朝。浴衣を脱ぎ捨てお湯へと浸かれば、温泉と朝日をいっぺんに浴びる贅沢を独り占め。
静かな環境での朝風呂を思う存分楽しみ、部屋へと戻ります。東の山の頭からは、太陽が見る見るうちに顔を出し、山間に佇む巨大な一軒宿を艶やかに照らします。
今日一日、この太陽が出たら、あとは沈むだけ。この旅で幾度も迎えた朝と夜ですが、ついに今日が最後。いつもよりも長い道のりと日程だっただけに、その名残惜しさもひとしお。清々しい朝日の中に、ちょっとだけ胸を刺す思いが混じります。
金沢、白川郷、高山、奥飛騨、乗鞍高原。この旅で迎えた各地の朝が、既に昔のことのように思い出されます。そんな長い旅で迎える朝は、ここ中房温泉がトリ。
鮭に湯豆腐、海苔に温泉卵、山菜の炒め煮・・・。シンプルさが嬉しい、秘湯で味わいたい朝食の鏡のようなメニュー。旅のスタイルはひと様々、折角の旅だから贅の限りを尽くして、というのもあるでしょう。
でも、僕は朝食はやっぱり素朴な献立が一番好き。シンプルでありながら、支度に手間の掛かる和朝食。朝湯してからのそんな朝食は、どんなご馳走にも叶わないほどの贅沢さがあります。
美味しい朝食をお腹いっぱい頂き、部屋へと戻って小休止。ただ、帰りのバスも本数が非常に少ないため、そうものんびりしていられません。ちょっと休んでから最後の一浴をすることに。
多種多様なお風呂を擁するここ中房温泉、そして、この旅最後のお湯に選んだのは、白滝の湯。まばゆく光る若い緑に包まれたロケーションがどうしても忘れ難く、もう一度やってきました。
ゆったりとした湯の流れに身を任せ、ゆっくりと瞼を閉じる。目を閉じたはずなのに、視界は萌木色一色に包まれる。そんな静かな、この旅を思い返すにはこの上ない時間を過ごします。
ずっと来てみたいと思ってきた中房温泉。ワゴン車で運行するバスの存在を知らなければ、絶対に、絶対に、自分では来られない場所でした。ネットの便利さに本当に感謝。そして、山奥の秘湯まで結んでくれる地元タクシー会社にも本当に感謝。
でもやっぱり一番の感謝は、この宿を守り続ける方々へ。これまで訪れてきた秘湯はどれも唯一無二のものばかり。ここ中房温泉もまさにそう。僕の期待を遥かに超えるスケールとお風呂の良さで、すっかり魅了されてしまいました。
僕はまだ、ここでやり残したことがたくさんある。宿題を残し、次また来る口実を置き去りに、帰路へと就きます。
いやぁ、楽しかった。中房温泉は一日ではもったいない。次は絶対連泊だ。そう決心し、残雪を頂く山に別れを告げ、小さなバスへと乗り込みました。
車はどんどん山を駈け下り、下界へと戻ってきたころにはすっかり汗ばむ陽気に。
本当ならばこのまま松本へと電車ですぐに戻るはずでしたが、余りの天気の良さと、高原のカラッとした心地よい温かさにすっかり気持ちよくなり、お兄さんに呼ばれるままに自転車を借りてしまいました。
ということで、予定にはなかった急遽のサイクリング開始!安曇野を自転車で走るなんて、なんて嬉しいことなのでしょう。
タイムリミットは次の電車まで。ある程度目的地を決めて走り始めます。
この時期ならでは、山々が映る植えたての水田の中を快走しつつ向かったのは、やっぱり『大王わさび農場』。もうこのブログでも何度か登場している、僕のお気に入りの場所です。
このアングルも以前に載せましたが、季節が違えば木々や花の彩も違う。梅雨入りしたての晴れ間には、パステルカラーが溢れています。
そして流れる水は、いつも清冽そのもの。その清らかさが手に取るようにわかるほどの近い場所を、音もなくさらさらと流れてゆきます。奥では農場の方が畝の手入れ。その技には何度見ても驚かされます。
どこまでもわさび田が続く園内をのんびり歩き、いつも感動するこの場所へ。雪解けの水が滔々と流れるこの淵は、大げさでは無く息を呑む美しさ。
水上を覆う若葉と、水中を柔らかく揺れる水草の緑の対比は、この時期ならではの絶景。この景色を見るだけでも、大王わさび農場へ来て良かったと思えます。
初夏の新緑に、地上も水中も覆われる安曇野の地。そんな若草色と言えばもうひとつ、冷たくて美味しいあれを食べない訳にはいきません。安曇野散策はまだまだ続きます。
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