金沢城跡で加賀百万石の居城の大きさを体感した後は、お隣の兼六園へと向かいます。時刻は丁度お昼時。入園する前に近くのお店でお昼を食べることに。
今回お邪魔したのは、兼六園桂坂口の右に位置する茶店通りの一軒、『見城亭』。石川門の正面に位置し、窓からゆっくり眺めることができます。
のんびり石川門を眺めつつビールを傾けていると、お待ちかねの治部煮そばが到着。茹でたそばの上にとろみの付いた治部煮風のつゆがたっぷりと掛かっています。
わさびを少々溶かしてずるっと啜れば、とろみの付いたつゆがおそばにたっぷりと絡んできます。おそばと治部煮をいっぺんに楽しめる、一石二鳥のお昼にもってこいのメニューです。
午前の疲れをビールとおそばで癒し、いざ『兼六園』へ。金沢に来たら絶対に再訪したいと思い続けていた、この旅のメインのひとつです。
桂坂口より入園すると、すぐにかの有名なことじ灯篭がお出迎え。兼六園と言えば雪つりとこれ、という程のシンボル的存在。
そんなことじ灯篭を、鮮やかな紫色をしたカキツバタが彩ります。もうすぐ梅雨入り、この時期ならではの美しさです。
ここからは、梅雨入り前の兼六園の美しい眺めを、写真メインでお伝えしたいと思います。
鮮やかなカキツバタの隣に咲く、パステルカラーのさつき。清らかな水面には、立派な枝ぶりの松が映ります。
小ぶりで控えめな美しさを魅せるさつきの花。奥には夕暮れの雁の群れを模したと言われる雁行橋が。
兼六園で一番大きい霞ヶ池に浮かぶ蓬莱島。亀のかたちをしており、不老長寿を表しています。
この兼六園は、金沢城と同レベルの高い場所に位置し、まさに空中に浮かぶ庭園といった趣。高いビルの建つ金沢の街ですが、そのビルもほとんど視界に入りません。あるのは緑と水と空のみ。
清き水がさらさらと流れる曲水を覆うようにして咲き乱れるカキツバタ。水の流れに沿って紫の帯が延々と続きます。
こちらはその大きさもさることながら独特の根元に目が行く根上松。盛り土の上に松を上、成長したのちに土を取り除き根を露出させたものだそう。兼六園は遥か先を見据え、長い時間を掛けて造りあげられてきたのでしょう。
それにしても澄んだきれいな水。水底には見るからに柔らかそうな藻がふんわりと茂っています。
この兼六園を満たす水は、犀川上流から辰巳用水を経て流れてくるそう。この用水は金沢の街を大火から守るための防火用水として、兼六園が出来る前に作られたそう。その防火用水を美しい庭園の池泉にも利用してしまう。その発想に惚れ惚れしてしまいます。
先ほどまでの水辺とは打って変わり、木が鬱蒼と茂るエリアへ。山崎山と呼ばれるこの築山の表面はびっしりと苔で覆われ、その姿はまるでビロードのよう。水を得て苔が一番輝くとき。この時期ならではの眩い緑色。
その名も花見橋から眺める曲水とカキツバタ。どこをどう眺めても画になってしまう。兼六園は計算されつくして造られた庭園という証なのでしょう。
これだけ豊かな自然に溢れていれば、生き物も集まってくるというもの。一羽の鷺が、さっきからずっと池の様子を静かに窺っています。
と、次の瞬間豪快にダイブし、大きな魚を一匹仕留め、その場でごくん。鷺さん、お食事を終えて心なしか満足そうに歩き去ります。
一見何の変哲もない噴水。ですが、これが日本で最古の噴水なのだそう。上の霞ヶ池を水源とし、高低差による自然の水圧を利用して上がっています。
この噴水は低い場所に流れ落ちた水を再び高い場所へ引くために試作したものと言われており、この原理を応用して兼六園の水は金沢城へと導かれました。300年以上も前の江戸時代からそのような技術があったということに驚かされます。
再び登り、霞ヶ池のほとりへ。穏やかな水面に映る、石脚で支えられた内橋亭。その姿は池に浮かんでいるよう。
ひたすらに抜けるように青い空と、鮮やかな緑を映す池。街より高い位置に広がるその姿は、お盆の上に設えられた広大な箱庭のよう。
霞ヶ池のほとりに聳える栄螺山。霞ヶ池を掘り広げた際に出た土で造られた山で、登山道がらせんを描いていることから名付けられました。
栄螺山頂上から眺める霞ヶ池と金沢の街。この位置関係を見れば、いかに高い場所に位置しているかが手に取るように分かります。敢えて高いところに水をふんだんに引いて庭園を造る。加賀百万石の栄華が窺い知れます。
カキツバタの咲き乱れる中、一生懸命庭の手入れをされる係の方々。兼六園では多くの方を見受けました。このようにして、人々の手により多くの愛情を受け、兼六園は永きに渡り美しい姿を保ち続けているのでしょう。
最後にもう一度、ことじ灯篭と内橋亭を目に焼き付け、兼六園を後にします。
古い中国の書物で、庭園では6つの優れた景観を兼ね備えることは出来ない、と記された六勝。宏大、幽邃、人力、蒼古、水泉、眺望からなるその六勝を、この庭園は兼ね備えているということから名付けられた、兼六園。
その名に相応しく、山あり、谷あり、水ありと、歩くたびに景色や雰囲気すべてが変わる兼六園。その表情の豊かさと共に、借景となる金沢の街の更に先に広がる山々の眺め。芸術や、歴史や、草花に疎い僕でも、この庭園の素晴らしさは痛いほど伝わってきます。
12年前、ハタチの時に受けた感動。今回訪れ、それ以上のものを持ち帰ることができました。絶対に再訪したかった兼六園。12年前とは見え方が違った。ということは、またしばらく経った後に来てみなければなるまい。久々に訪れ、一層その魅力に吸い込まれるのでした。
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